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「寄付集めの極意」の巻

■寄付の金銭的メリット
【承前】アメリカでは寄付による税制上のメリットがあるから、企業は大口の寄付を行う。2006年7月12日、スーパーマーケット最大手のウォルマートは、前年度、総額で2億4500万ドルの寄付を行ったと発表した。プレスリリースによれば、2004年度より3800万ドル増えているという。前回紹介したウォーレン・バフェット氏の場合もそうだが、税金で取られる位ならば、という考えがあったに違いない。
 一方、同時期に金融機関は高齢者、特にベビーブーマーが持つ資産の流動性に注目し始めた。インディアナ大学が行った調査によると、ベビーブーマーの資産だけでも、全米で40億ドル以上あり、そしてその何割かは、間違いなく最終的には寄付されるからだ。
 最近アメリカでは、子供のいない老夫婦が、死後自らの資産の名義を変更する手続きを済ませている人が多くいるという。生前贈与でなくても、死後の寄付を手続きした時点で、税制上は寄付をしたことになり、免税対象となるからだ。もちろん前回紹介した寄付教育も必要であるが、税制上のメリットが寄付を促すには不可欠の要素だ。多くの人は損をする為に寄付などしないだろう。

■大学を成長させる寄付
 ロサンゼルス教育委員会では、企業からの寄付を受け取り、有効活用するというパートナーシップ・プログラムを実施しており、家庭の事情で登校困難な子どもたちへの援助や、教師の研究費への補助などへ用いられている。
 ロサンゼルスにある有名私立大学・南カリフォルニア大学(USC)は、2002年末に終了したキャンペーンを通して、9年間で28億5000ドルの寄付を集めた。これは大学側が戦略的に、多方面にわたる寄付を受け付ける体制と組織を強化したことが大きい。
 USCでは、大学への寄付について、公式サイトで以下ように広報していた。勿論そこでは、税制上のメリットが強調されている。
 「現金、クレジットカードやデビットカード、個人振り出し小切手(パーソナルチェック)、銀行振り出し小切手、為替などでの寄付が可能です。送金専用銀行口座もあります。
 上場株、証券、債券をUSCへ名義変更をすることができます。寄付者のメリットは、2年以上保持していた証券を贈与した場合にある、収入税と売買差益税に対する税制優遇措置です。
 住宅、別荘、賃貸物件、土地は全てを寄付する以外に、部分的な寄付でも可能です。この場合も税制上の利益を得ることが可能な寄付の方法があります。
 稀少本、価値のある芸術品、コレクション、知的所有権、採掘権などの動産も寄付できます。これらも税制上の利益を得ることができます。
 将来における計画的な寄付や所得税の繰り延べなど、遺産、長期的な収入計画、相続税に関する税制の利益や税金対策に関する相談を受け付けています」。
 これをはしたないと思うだろうか。しかし、大学が自らの地位を向上させるために必要なのは研究成果であり、そこにかかる巨額の費用を、あるところから得ようとする努力は重要である。これらの資金は、大学の研究や教育の向上に用いられるほか、奨学金にも使われ、優秀な学生を集めることに寄与し、彼らが卒業して活躍し、卒業後にまた寄付をするというサイクルができ上がっているのだ。
 日本の国立大学も独立行政法人化され、「企業努力」が行われている訳だが、商売という点では、アメリカの大学は1枚も2枚も上手のようだ。

■寄付集めの極意
 大学当局の努力に加えて、また、Alumni(同窓会)を通じての大口の寄付も見逃せない。大学生活を通じて愛校心が育まれ、卒業後に同窓会の一員として、自分の母校を盛り立てようという気持ちになる。アメリカの大学の同窓会は、親睦会や飲み会では終わらない。後輩のために、些かなりとも貢献したい、そして同窓会の中で名誉を得たいという気持ちも働いて、寄付が行われるのだ。
 大学関係者のために、USCを参考に、寄付集めの極意を示してみよう。
①学部、研究科、教室のみならず、プロジェクトごとに窓口を作ること。
②寄付金を統括する部局を設置し、寄付の受付を行うと同時に、不正が行われないように監視すること。
③同窓会を寄付金の窓口として機能させること。特に組織内で、寄付をすることにより、個人や企業を顕彰すること。
 USCの学部には、高額の寄付をした個人の名前を冠したものが多い。金のある人は名誉を欲する。その名誉と引き換えに、寄付を受けるという構造は、批判されるほどのことではないだろう。日本史の教科書に登場する本多光太郎。彼が発明したKS磁石鋼の名称は、スポンサーであった住友吉左衛門の頭文字をとったものである。某宗教団体の親分だって、金で買い漁った名誉博士号では飽き足らず、ノーベル平和賞を欲しがっているという。
 ただ、受ける側が名誉を与えるだけで、決して支配を受けないという、毅然とした態度をとれるか。する側が名誉と節税をだけを期待するところで自制できるか。寄付文化が日本でも発展するかどうかのカギはそこにあるような気がする。

『歴史と教育』2006年9月号掲載の「羅府スケッチ」に加筆修正した。

【カバー写真】2006年に撮影した建設中のUSC(University of Southern California)の "Galen Center"。LAダウンタウンの目抜き通り・フィゲロア通りにあるキャンパスの真向かい。個人名がついている建物は、研究者の名前を冠することもあるが、この大規模な屋内体育施設は 故Louis Galen氏(銀行家)個人の25million(約25億円)寄付によるものだという。(撮影筆者)

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