FREEではないシェンムー『Shemue the Animation』第3話「陰陽」

『Shenmue the Animation』第三話「陰陽」の感想を書く。

第二話「彼誰」の感想はこちら。

『Shenmue the Animation』が、ゲーム版で感じられた間を削ぎ落し、キャラクターの描写では新しい要素を入れていることは、これまでの感想で述べてきた。
第三話「陰陽」でもそうした部分は継続しているが、今回はそれ以上に物語を駆動させようとする力が大きく働いている。確かにテンポは良くなっているのだが、これまでの話よりもダイジェストを見ているように感じられることが多かった。

複数のルートがワンシーンに統合

前話で中国語の手紙を読める人物の情報を得た涼は、その人物が居る陶器屋「ロシヤ」を訪ねる。ゲームでは陶器屋に辿りつくまでの解法が複数あり、街で聞き込みをして情報を得たり、悪漢から陶器屋店主の孫を救うといったルートが用意されていた。アニメ版ではそうしたルートがひとつに統合され、「人から得た情報を頼りに陶器屋に行くと、店主の孫が以前助けた少年だった」という内容になっている。
ひとつのルートのみを採用せず、短いながらも住人同士の繋がりを描いた点はシェンムーをアニメ作品として立ち上げるうえで意義のあるやり方だと思う。ただ、少し展開が早いため初見では理解が追いつきづらいのではないかとも感じた。

芭月涼はメモを取らない

今回の話を観て、アニメとゲームでの最大の違いは涼がメモを取らないことだと気が付いた。
ゲーム版の涼は起こった出来事を逐一メモに記述する。これはプレイヤーに向けた備忘録であるとともに、シェンムーが聞き込みをしながら謎を解いていく古典的なアドベンチャーゲームの要素が強いゲームであることを示している。
しかし、アニメの涼がメモを取ることはない。涼から問いかけずとも街の住人が謎を解くきっかけを与えてくれるし、涼自身がゲーム以上に鋭い洞察力を持っている。
当たり前だがアニメにはメモを確認するプレイヤーは存在しない。視聴者は涼が次々に謎を解いていく様を見ていくことになる。こうした勝手に謎が解かれていく様子は、観ていて最もダイジェスト的に感じてしまう部分だった。

省略された「FREE」

シェンムーはもともと「FREE」というジャンル名を標榜していた。それは街や住人、ゲーム内の時間が織りなす体験を総合して捉えた概念だと自分は解釈している。
アニメの第二話までで映像化されたのは、ゲーム中でもまだ自由な操作があまり効かない場面や、必ず観ることになるカットシーンが多かった。対して第三話で映像化された主要な部分は、プレイヤーが街を自由に歩き回りながら聞き込みをしていくことが主軸となる箇所、「FREE」が何なのかを体感するパートだ。このパートでは情報収集を目的に行動するプレイヤーに無駄足を踏ませることで、ゲーム内の世界の探索を促す間が発生する。この間をプレイヤーがいかに過ごすかでシェンムーへの評価は分かれるのだが、アニメ版冒頭の骨董屋から目的地の新横須賀港に辿りつくまでわずか2分程に縮められ、そういった間は無くなった。散々街で聞き込みをしてから新横須賀港へと向かうゲームと異なり、アニメ版では聞き込みがすぐに終わってしまうため、港に到着した感慨はあまり無いうえ、港での情報収集もほとんどカットされている。アニメでは難しいのかも知れないが、シェンムーの「FREE」を感じさせてくれるアニメの作り方にも期待していたため、物語を駆け足にしてしまっているのが勿体無く思った。

陳大人と裏社会

手紙の内容から新横須賀港の第8倉庫に手がかりがあると睨んだ涼は、港の倉庫街へ忍び込み、そこで港を取り仕切る組織の長・陳大人とその息子の貴章と出会う。ゲーム版では柔和な人物に感じられた陳大人だが、アニメ版でより厳格さや危なさが強調されている。
組織の人間として掟を守るよう貴章に厳命したり、涼に対してこちら側の世界に足を踏み入れないよう警告する描写は、ゲーム版よりも近寄りがたい雰囲気を感じさせる。考えてみれば古美術の密輸を取り扱い、港を裏で牛耳る組織の長という彼のアウトローな面はゲームではあまり感じられなかった。そうした一面を際立たせたアニメ版は、より陳大人という人物や、組織の危険な雰囲気を捉えやすく描いている。

さて、第三話まで『Shenmue the Animation』を観てきたが、自分はここまでの話の中で、涼の進路について言及されていることが気になっている。
第一話、第二話でも福さんや原崎から大学進学について言及される場面があり、今回は原崎から「進路の相談に乗ってほしい」という頼みを受けてのものだった。原崎が去った後「進路、か。」と涼は独り言ちる。
ゲーム版の、特に一章の涼は、ひたすら目の前のことだけを追いかけていたが、アニメ版の彼はそれより少しだけ先を見ているように感じる。
ゲーム『シェンムーⅡ』の香港編で、涼は若干の冷静さを身に付けたが、アニメではどのように成長していくのか、今後も期待して見ていきたい。