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いつまでも出ないシェンムーを求めて

『シェンムー』はとかく不思議なゲームだった。
横須賀の住宅街という地味で小規模な舞台設定を持ち、ゲーム進行は古めかしいおつかいイベントのフラグ立て。さらに時間の概念が加わって、ゲーム中であるのに余暇が発生する。
現在は、「オープンワールドの元祖」「伝説のゲーム」といった評価をされることもあるが、本作を根強く支持してきた方々ほどそうした見方にどこか違和感を覚えるのではないだろうか。リリースされた20年以上前、どちらかといえばこのゲームは賛否両論の否の意見の割合が強かったように見えたし、本作に似たゲームはオープンワールドというジャンルのゲームにはほとんどない。
2019年に『シェンムーⅢ』がリリースされるまで、約18年間シリーズは途絶えていた。『III』は、当たり前だが近年で最もシェンムーらしいゲームだった。しかし本作が出るまでの間、あるはずの無いシェンムーに似たゲームを求め続けていたという方も多いのではないのだろうか。
リリースされる見込みの無い『Ⅲ』に代わり、どうにかしてシェンムーに近い体験ができるゲームはないのか、そうした探求は、私に様々なゲームをプレイするきっかけをもたらしくれた。
今回はそうした探求をするうちに触れてきたゲームを幾つか紹介する。

ミザーナフォールズ

MIZZURNA FALLS 1998,ヒューマン

ヒューマンから1998年12月23日に発売されたPS用アドベンチャーゲーム。北米の雪深い田舎町を舞台に、主人公・マシューが猟奇殺人事件の調査をしていくことがゲームの目的だ。オープンワールドの始祖という言葉はシェンムーに対してよく使われるが、ひとつなぎのフィールドを探索でき、自動車を運転できるなど、むしろ本作の方がGTAIII以降のオープンワールドに近いシステムを持ったゲームといえる。定められた期間のうちに謎を解き明かす必要があり、町の住人たちはそれぞれ時間帯と状況に則した行動をとるようプログラムされている。こうした面はシェンムーに近いものの、ゲームプレイ中の切迫感はシェンムーのゆったりしたものとは真逆だ。事件解決まで刻限が迫り、プレイ中の心持ちは常に緊張をはらんでいる。本作を開発したヒューマンは、過去に『クロックタワー』や『セプテントリオン』といった横スクロール画面のアドベンチャーゲームを手がけており、本作はその流れを汲みつつ、3Dフィールドの町に推し進めた作品と言える。前述の作品群と同様に、開始からエンディングに至るまでの制限として、時間がゲームシステム上重要な装置として作用している。その時々の進行状況に応じて蠢く人の群れは、まるで街がひとつの生き物であるかのように感じさせてくれる。

ロード・オブ・フィスト

LORD OF FIST メディアワークス/ポリゴンマジック,1999

メディアワークス発売・ポリゴンマジック開発の近代中国を舞台とした武術家格闘アドベンチャーゲーム。
武術はシェンムーでも重要な要素だったが、本作はより格闘ゲームの側に寄った作りで武術を取り入れている。
本作ははじめに流派を選択し、選んだ流派別に用意されたストーリーが展開される。基本はRPGで、敵との戦闘を格闘ゲームで行う建付けとなっている。本作の珍しい部分は、見下ろし型のRPGながらフィールドを主観視点で見られることで、グラフィックこそそれなりだが、スズメが地面を飛び跳ねていたりと細かい部分が作りこまれている。

GERMS 狙われた街

GERMS 狙われた街 1999,K・A・J

主人公が帰郷した街で起きている異変を調査するSFアドベンチャー作品。
「狙われた街」というタイトルは、特撮番組『ウルトラセブン』のオマージュだろうか。
一人称視点を採用し、PS世代のゲームで現在のオープンワールドに近いプレイを実現している。モノトーン調の色彩を持つ三次元空間は独特の雰囲気を放つ。街並みは一見すると外国のように見えるが、キャラクターや地名を見る限り日本を舞台としている。
フィールドはひとつの街をまるごと再現していて、自動車での移動も可能。街全体に不気味な雰囲気が漂う怪奇ホラー色の色濃いゲームで、時にはFPSのような戦闘をすることもある。

龍が如く

龍が如く 2005,SEGA

PlaystationJAPAN公式YouTubeチャンネル

架空の歓楽街・神室町を舞台とした、元極道・桐生一馬が主人公のアクションアドベンチャー。本シリーズは2022年現在、外伝となる作品を含めセガの看板タイトルとなっている。発表当時はセガからの発売ということもあってシェンムーや当時日本でも流行し始めていた「grand theft auto」シリーズのようなオープンワールドゲームなのでは?という憶測を呼んだ。
一作目である『龍が如く』の時点では、現代の歓楽街が舞台のRPGといった様相のゲームで、のちのシリーズで徐々にオープンワールド的な比重が増えるものの、基本的には規模を大きくせず、街のディティールやサブイベントを描くことに注力している。
実際のところ龍が如くとシェンムーには似通った部分はさほど無い。しかし現代日本を舞台にしたある程度自由な進行のゲームが少なく、またセガからリリースされていることもあってか、何かと比較されることが多い。


パチプロ風雲録(パチパラシリーズ)

パチパラ13スーパー海とパチプロ風雲録 アイレムソフトウェアエンジニアリング,2006

パチンコが非常に強い影響力を持つ舞台設定のRPG。
三洋のパチンコ筐体「海物語」シリーズのシミュレーターである『パチパラ』シリーズだが、本シリーズには「パチプロ風雲録」というRPGモードが収録されている。『パチパラ12』~『パチパラ14』までのパチプロ風雲録は、やや昭和の雰囲気が残る現代日本を舞台に、パチンコを用いたバトルやサスペンスタッチのストーリーが展開される。
パチンコを中心に、食事や部屋の模様替え、恋愛、車の運転などストーリーを追うだけに留まらない様々な要素を持つ本作は『The Sims』や『どうぶつの森』のようなライフシミュレーターの趣きを備えている。ゲームの根幹は同社の『絶体絶命都市』や『バンピートロット』と同様のものを使用しているようで、似通った部分も多い。時間とともに姿を変える情景豊かな街の姿を描いたかと思えば、恋人ととのキスですらミニゲームにしてしまうふざけた部分を持っている本作は、PS2時代の日本製フリーローミング系ゲームの傑作だ。

喧嘩番長

喧嘩番長 2005,スパイク/ワイズケイ

スパイク発売、ワイズケイ開発のアクションアドベンチャー。
不良高校生がライバル校の番長を倒しながら、地域を牛耳ろうと目論む「黒真連合」の打倒を目指す。
『くにおくん』シリーズに代表されるベルトスクロールアクションを3Dフィールドで再現したようなゲームで、公園や駅前、高校といったロケーションが用意されていて、周辺をたむろする不良にメンチを切るとバトルが発生する。日本の住宅街が主な舞台となっているという意味ではシェンムーに近いが、こちらはプレイグラウンドとしての比重が大きく、入れる施設も多くはない。現在、ナンバリングタイトルは6作目まで出ており、その他にも外伝が存在する息の長いシリーズとなった。また、スパイクの日本製オープンワールドゲーム『新宿の狼』は本作を開発したワイズケイが製作しており、アクションの挙動などで似通る部分も多い。

ポータブル・アイランド 手のひらのリゾート

https://www.jp.playstation.com/software/title/uljs00031.html
ポータブル・アイランド 2006,バンダイナムコエンターテインメント/キャトルコール

PSPソフトウェアカタログ

ナムコから発売された南の島を舞台にしたリゾートシミュレーションゲーム。公式には「のんびり癒しツール」というジャンルが付けられている。島で出来ることに報酬のような概念は殆ど無く、物語もない。ゲーム内では現実と同じように時間が流れ、島を散策したり、食事や釣りを楽しめる。本作はシェンムー以上に自分でやりたいことを見つける必要がある。そして究極的には何もしなくてよい。

レッドシーズプロファイル

 Red Seeds Profile 2010,Marverous,ACCESS GAMES

アメリカの田舎町グリーンベイルで発生した猟奇殺人事件を捜査するアクションアドベンチャーゲーム。先述した『ミザーナフォールズ』とよく似ているが、それは両作ともにテレビドラマ『ツインピークス』をオマージュした作品だからだろう。主人公「フランシス・ヨーク・モーガン」の人物造形はより『ツインピークス』を思わせる、ひと癖あるものになっている。
町の住人たちは時間帯によって居場所を変え、イベントの発生時間も決められていることがある。捜査現場や深夜の町では、世界は「常世」へと変わり、怪異や悪霊が襲ってくる。本作の特徴は、のどかだが閉鎖的な田舎町の雰囲気と、主人公のキャラクター性だ。ゲームを終えたプレイヤーは、グリーンベイルとヨークに対しきっと郷愁を感じるだろう。

ラストストーリー

THE LAST STORY 2011,Nintendo/MISTWALKER

「ルリ島」という島を舞台とした西洋ファンタジー風の世界観を持つRPG。傭兵団の一員である主人公・エルザと、彼とは身分違いのヒロインとのラブストーリー、傭兵から貴族に成り上がろうとする者たちと階級社会の軋轢が物語のテーマとなっている。
拠点の街を中心に各所にあるダンジョンで任務に挑みながらストーリーは進んでいく。戦闘はアクション要素の強いRTSといった趣で、エルザに備わった特殊能力「ギャザリング」で敵意のコントロールを行ったり、地形にある物を駆使した戦略的なものとなっている。
本作最大の特徴は細やかに作り込まれた街だ。狭い裏路地の多い古びた街並みは、数ある日本のRPGのなかでもあまり例がないもので、発見に満ちた魅力的な舞台となっている。こうした街の細やかさにシェンムーの匂いを感じ、プレイした人も多いのではないだろうか。


おわりに

様々なゲームをプレイしてみたが、シェンムーのようなゲームはなかった。
だからといってシェンムーだけが特別な存在だ、とは思わない。
もちろんとても好きなゲームであることに間違いない。しかし似た傾向を持つと信じて自分が直感的に選んだゲームは、どれも特色があり、遊んでよかったと思えるタイトルばかりで、結果的にビデオゲームをより広く深く楽しめるようになったと確信している。
今回記事には取り上げなかったタイトルも幾つかある。自分が好きなものと似た傾向を持っている、皆さんがそう思ったタイトルは何だろうか。
シェンムーでも、そうでなくても教えてもらいたい。

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