人の繋がりは横須賀のかたち『Shenmue the Animation』第4話「桎梏」

『Shenmue the Animation』第四話「桎梏」の感想を書く。
第三話の感想はこちら。

今回は、涼が港でアルバイトをするところが描かれる。ゲームでは何かと語り草になるフォークリフトのパートだ。第四話は省略されている所と新たに追加された部分とのバランスがよく、観ていて単純に気持ちのいいものだと感じられた。

あらすじ
前話で仇の藍帝が香港に向かうことを知った涼は自身も香港に行くことを決意。旅費を稼ぐためにアルバイト先を探し、港の貿易会社でフォークリフトを使った荷物運びの仕事を見つける。

ゴローの新たな一面

前回、港でカツアゲしているチンピラを懲らしめた涼。今回はそのチンピラである三橋五郎(ゴロー)が一転、涼を慕うキャラクターとして登場し、アルバイト先を知るきっかけをもたらす。
地味な印象の人物が多いシェンムーのなかでは、珍しくコメディタッチで類型的なキャラクターだったゴローだが、アニメ版で追加されたエピソードによって、より立体的な人間味を感じられる人物となった。ゴローが涼の強さに惚れ込んでいる点はゲームとアニメで差異はない。しかしアニメ版で彼が涼の助けになろうとする大きな理由は、自身の父親が蒸発しているというバックグラウンドにある。亡き父の姿を追い求める涼の姿にゴローは感銘を受け、自身がこれまで探せずにいた父親を探そうと思えたことを涼に語る。彼に先述のような事情があっても何らおかしくないし、その後のやや空回った奮闘ぶりや、涼とのコントのような会話はゲーム同様据え置きなので、キャラクターとしておかしいと感じる部分も無く、ゲーム版以上にいい描かれ方をしていると思う。また、ゴローと涼、弁当屋の麻衣との関係性など、横須賀の人間にどういった繋がりがあるのかが、短いシーンのなかでも見て取れるようになっている。

涼のフォークリフト奮闘記

港でのフォークリフト作業は淡々としていることもあり、当然のごとく短くなったが、それでも印象に残るようになっている。ほぼ同じ構図のシーンを繰り返し出すことで日々アルバイトしている様子が伝わるし、その合間でゴローが港の情報を教えてくれるため物語が進行しているのがわかる。
また、フォークリフト操作に慣れない涼が後ろに下がりすぎたり、うっかりフォークリフトのツメをぶつけてしまう様子が差し挟まれている。私自身もフォークリフトの操作経験があるのだが、こうした感覚はリアルでよくわかる。荷物の入れ方に苦労する涼に対し、最初はぶっきらぼうだった職場の先輩のマークが荷物の入れ方を指導してくれるシーンはまるで職場を題材としたアニメを観ているかのようだった。

老獪な陳大人、自らの意思を持つ貴章

涼が港で仕事を始めた裏で、陳大人と貴章の会話シーンが入る。
前回の感想で述べたように、アニメ版の陳大人は組織の長としての計算高さが強調されており、今回も自身の組織と藍帝の蚩尤門の抗争が激化しないよう、火種となりうる涼に直接的な支援はせず裏から監視し、貴章にも手出ししないよう命じている。
一方の貴章は陳大人に従いつつも、内心では涼を案じており、それが今回涼に「燕旋降脚」という脚技を伝授する場面に繋がっている。自らが直接手を出せない分、涼自身に強くなってもらおうという、貴章が出来る最大のバックアップだ。彼自身が元来、親や組織に忠実であることに対して多少なり抗う気持ちがあったのかも知れないが、自分の属する枠組みから離れ、自分の意志を持って考えられるきっかけになったのは涼との出会いが大きいのだろう。先述したゴローもそうだが、涼が父を追い求める姿を軸に様々な親子関係を描こうとするのがアニメ版の特徴なのだと感じた。

それぞれの思惑で駆動するアニメの物語

これまでの回でも暗躍してきた「マッドエンジェルス」がいよいよ本格的に涼に関わり、その首魁であるテリーが登場する。
原崎がマッドエンジェルスにさらわれるのはゲームと同じ展開だが、そこに至るまでの経緯や、途中経過に変更が加えられている。
ゲームでは特に理由なく涼をおびき寄せる人質としてさらわれていた原崎だったが、アニメでは原崎がマッドエンジェルスについて調べていたところを彼らに見つかり捕らえられてしまう内容となっている。前段として原崎の働く花屋で、マッドエンジェルスについて涼が調べていることをゴローが喋ってしまい、そこから彼女自身がマッドエンジェルスの名前を知る、といういきさつがある。原崎とゴローに直接的な繋がりは無いが、弁当屋の麻衣は共通の知人であり、ゴローが麻衣と共に花屋に訪れた理由も、涼の父の墓参りがしたいというもので、これまでの経緯を考えればごく自然な成り行きだ。
また、それ以前に夜の公園で原崎と涼が会話する場面があり、涼が港でアルバイトをしながら父親の死の真相を追っていることを聞いている。原崎は涼を心配していることは認めつつ、涼に「芭月くんが正しいと思うようにやるべきだと思う」と言葉を掛けたことも、彼女が行動を起こす一因になる。
こうしたゲームに無かった点は、それぞれの登場人物の思惑を掘り下げ、ゲーム以上の説得力で物語を補強する。本来原崎は、親からカナダへの移住の誘いを受けていることを涼に相談しようと考えていた。しかし涼の姿を見てそれを伝えられないまま家路につき、祖母とカナダ移住について話し合う。ゲームにもあった公園のシーンは原崎と涼、二人の間にある関係しかわからなかったが、アニメでは原崎と家族の関係に至るまでを視聴者が想像できるように作られている。
原崎を人質に取られた涼は、彼女を解放する条件として貴章と戦うようにテリーから取引を持ち掛けられ、やむを得ずその取引を呑む。
ゲームではその時点で原崎は一旦解放され、翌日貴章と戦うことになるが、アニメでは人質を取られたまま、貴章との戦いを強いられる。省略されているが、流れとして違和感はなくスピーディーだ。今回は格闘シーンの差し合いが重点的に描かれていて、これまでの回よりも戦いに緊迫した雰囲気が感じられる。テリーが二人の戦いを見物する中、技を伝授した者とされた者が、互いに燕旋降脚をぶつけ合って倒れるラストシーンは、アニメで生まれた文脈が含まれることで、よりエモーショナルなシーンに変貌している。

第四話は見どころの多い回だった。今回もこれまで同様に話が詰め込まれてはいたはずだが、展開が早すぎると感じることもない。もしかしたら自分がこのテンポに慣れてしまったのかも知れないが。
涼の居ないところで何が起こっているのか、それぞれの人物たちはどんな思いを抱えているのか、ゲームで見られなかったものが見られる『Shenmue the Animation』を今後も楽しみに見ていきたい。


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