「濁った星、生き残る道」改訂版
※こちらは、2020年7月のオンライン個展内で発表したファンタジー私小説に修正を加えたものです。
濁った星、生き残る道
3年くらい前だった。
ショッピングモールを歩いていると、少し離れた場所で人が倒れるのが見えた。
可愛らしい服装の若い女だった。
わたしは動揺しつつも、近付こうとした。
ところが、一瞬にして彼女の周りには人間の壁ができてしまう。
皆何かを話すわけでもなく、ただだんまりとしたまま床に貼りついた彼女のことを見つめたり、写真を撮り続けたり。
わたしは固まった。
何とかしなければと頭を捻る。
しかし、考えれば考えるほど脳内は掻き乱され、遂にはパニック状態に。
焦って雑貨屋の店員に声をかけてしまう。
「人が倒れています!手を貸してください」
店員は辺りを見渡すも全く相手にしてくれない。
目の前が真っ暗になる。
***
その時。
群がっていた人間の1人、大柄な男が声を上げた。
「うわっ!なんだ!前が見えない」
手で顔についた「何か」を取り払おうとしている。
「何これ!顔になんかついてる!」
「ちょ、やばいって、目見えないしなんか気持ち悪いし・・・助けて、誰か」
その後も次々と騒ぎ始める人たち。
スーツを着た女、茶髪の若い男、制服姿の学生たち・・・
瞬く間に崩れていった「人間の壁」の隙間に、身体を起こしている女の姿が見える。
安堵しかけたが、よく見るとその女は別人だった。
ネイビーブルーの服にボブヘアー、胸には輝く琥珀色のペンダント。
こちらを振り返った女の顔面には、赤と青のドレープカーテンが揺れていた。
***
「お客さん、あの子起きてるじゃないですか」
店員は「こんなつまらないことで呼ばないでほしい」という顔で去っていく。
前方を見渡すと、倒れていた若い女は床の上で起き上がって座り込んでいた。
顔は真っ青だった。
群がっていた人々は、まるで映画を見終わってシアターから出て行くお客のように皆散り散りに去っていった。
よろよろと立ち上がった若い女は、何事もなかったかのように歩き出す。
前を向いて、ただ淡々と。
だんだん遠くなる彼女の背中。
パステルカラーのリュックサックには、薄紫色の流れ星のモチーフがひらひらのレースで囲われてくっ付いていた。
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