お祝いのメッセージ代わりの長い〇〇
6/17、推しているグループのメインボーカルの方がお誕生日を迎えました。お祝いのメッセージの代わりに拙い小説を書きました。
なお実在の人物は(間接的にほんの一部しか)出てきませんが、こういったものが苦手な方は、ノートフォーミーだと思って、回れ右してくださいね。
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「なぜこんなことになったんだ!?」
考える余裕もなく、私はとにかく必死に足を動かした。走るというより、逃げているというのが正確だ。息は短く、妙な味のドロリとした熱い液体が喉に溜まっていく感覚・・・身体に明らかな異常が出ている。こんな経験は、はじめてだ。
私は生まれてこのかた、ハム職人として生きてきた。私の生活はずっと、適度な休息と適度な運動を取りながら、ハム工場の中でせっせとハムを作る、それだけだった。
それなのになぜ?!
なぜ、私は逃げなければならないんだ?!
今朝も、いつもどおり、私は、工場の1階にある自分の部屋で、ハムを作りはじめた。ちなみに今日は日本では、「和菓子の日」と言うらしい。
ハムづくりに大切なのは地道な努力である。作る、失敗する、改良する。また作る、という作業を気が遠くなるほど繰り返して、「これだ!」と自分が思えるものでなければ良いハムにはならない。この日も私は、試行と失敗を繰り返しながら、自分の部屋でハムづくりに没頭し、いつのまにか夜更けになっていた。
すると突然、部屋のドアが乱暴に開け放たれ、4体の人型ロボットが入ってきたのだ。
4体ともボディは白、黒のツナギのようなものを着て、目に当たる部分にはゴーグルがつけられていた。4体はそれぞれ、首に巻かれたペイズリー柄のバンダナの色が、赤、紫、黄、青という違いがあった。こんなロボットは今まで見たことがない。だいたい、一介のハム職人の自分の部屋に、ロボットが4体も来るはずがないが、一体・・・
すると赤色のロボットが一歩前に出てきて、音声を発した。
「アー ケンカ シテエ」
ケンカ・・・?
一瞬、以前に資料映像で見た「ケンカ」の様子が思い浮かんだ。
男たちが互いに殴り、蹴り、棒のようなもので叩き合い、血しぶきがとぶ、映像。
あっ、このロボットたち、私を殴るつもりだ?!
血が出て、怪我をするんだ?!
部屋の中を後ずさりすると、窓に背中がぶち当たった。得体のしれない未知の恐怖にパニックになった私は、これまで長い間、一度も開けたことのなかったその窓を開け、窓枠に足をかけて外に跳び出した。
・・・ここまでが、さっき起こった出来事である。
工場の外は、背の高さほどある草木が生い茂っていた。道もない。こんなところを走るのは生まれて初めてだ。
雨が降っていて、蒸し暑い。地面はぬかるんでいて、足がうまく動かない。暗い中、草木をかきわけて進むので、手が傷だらけになってきた。息が上がり、次第に視界がチカチカし、足も思うように動かなくなってきた。
もう走れない・・・
あきらめかけたところで突然、草木がなくなって視界が開け、目の前に建物が現れた。四角く、白い、古びた建物だ。門の両脇には二頭の猿の置物が飾られている。シーサーのようものだろうか。建物の入り口は扉が開けっ放しになっていた。なんだか学校の遺跡みたいだ。
私は門から中に入り、建物の中を覗きこんで「誰か!誰かいませんか!?」と大きな声を張り上げた。こんな声を出すのは生まれて初めてだ。というより、自分から人を呼ぶことも初めてだ。
人と人が直接触れ合うことで精神的な摩擦をうみ、身体的な病気もひろがることから、現代社会では原則として他人と直接触れ合うことはない。気温や湿度が適切に調節された建物の中で、体温や脈拍、血圧は常にデータ管理され、あらゆる健康に関する数値が正常値の範囲を逸脱しないようチェックされ、人々は生活している。だから私もこれまで、恐怖を覚えたり、体力の限界を超えて走り回ったり、大声を出したりすることはなかったし、自ら人と触れ合おうとしたこともなかった。
私の声が響くばかりで、だれからも答えはない。しかし身体の動きが鈍くなっている今、草木の生い茂る場所を走って逃げても、すぐにあのロボット達に追いつかれてしまう。
ならば建物の中でやり過ごそう。そう思って私は建物の中に入った。エントランスにはソフトクリーム屋台のようなものが置かれていたが、ずいぶん動いていないようだ。
エントランスを抜けると、左に殺風景な廊下が伸びていた。進むと廊下が角になっており、右に曲がると「6」と書かれた黒い扉が行く手をふさいでいた。
扉を開けてみると、幅は廊下そのもののまま、壁一面が黒く、床にはたくさんのコードが散らばった部屋になっていた。テレビが床にあったが画面が壊されており、傍らにはハンマーが投げ捨てられていた。誰かがケンカをしたのかもしれない。食べかけで乾涸びて転がっている赤い実はザクロだろうか。ライターも落ちていた。もしかして、この部屋には、「治安の悪いグループ」がいたのかもしれない。奥を見ると一つ扉があって、部屋の向こう側の廊下に出られるようになっているようだった。
進んでいくと足元で「バリッ」という音がした。下を見ると鏡があり、どうやら割ってしまったようだった。するとその瞬間に突然、重低音のきいた音楽が鳴りはじめ、「うば!うば!」という聞いたことのない歌詞が連呼された。
うば?!なんだそれは、どういう意味だ!?
意味は分からないが、音楽が鳴って自分の居場所が目立ってしまうとまずい。私は部屋の奥まで行き、扉を開けて外に出た。
すると部屋に入る前と同じような廊下が続いていた。進もうか戻ろうか迷っていると、外の方から、騒がしい機械音声が聞こえてきた。
「アー ハンバーグ ツクリテエ」「ツクリカタ ワカンネエ」
あのロボット達が建物に近づいてきたんだ!
エントランスに戻るとロボットたちに見つかってしまうので、私は先に進むことにした。
しばらく廊下を進むと、また扉があった。今度は「8」と書かれたピンク色の扉だ。
扉を開けて中に入ると、先ほどの暗い部屋とは違い明るさがあった。床には青い絨毯がひかれていて、古いが美しく価値のありそうな調度品が並べられていた。ベッドや風呂もあり、誰かが住んでいたのかもしれない。奥の方にはまた扉があったが、その前に、むき出しの蛍光灯が何本も打ち捨てられていた。
部屋の真ん中に、一冊の古い本が落ちていていた。どのような本なのか、手に取って拾い上げると、その瞬間、突然、音楽が流れてきた。今度の音楽は美しいが、どこかもの悲しい。そのメロディーにのって「No More Mr.Nice Guy」という歌詞が聞こえてきた。
一般的にはナイスガイであった方が良いだろうのに、なぜノーモアなのか?歌の続きを聞きたかったが、音楽を目印にロボットが建物に入ってくるのは避けたい。私は蛍光灯を割らないように気をつけながら、奥の扉を開けて部屋を出た。
部屋を出るとまた廊下が続いていた。廊下の様子をうかがっていると機械音声が反響して響く音が聞こえてきた。
「アー コーディネートバトル シテエ」「カッコイイト カワイイガ マジリアッタ サンタクロース シテエ」
音の響き方からすると、ロボット達が建物に入ってきたのではないか?
私は急いで先に進んでいった。
廊下をしばらく進むと、直角に右に曲がる曲がり角があった。曲がるとその先に、「1」と書かれたオレンジ色の扉があった。
中に入るととたんに、熱気を感じた。暗い中、目を凝らすと右の壁際にライオンの彫像があり、その前で火が燃えているのが見えた。いつから燃えているのだろう?部屋の中には、鉄骨が組み合わさったジャングルジムのようなものや、金網、ドラム缶など所狭しと置かれていた。触れると火傷をしそうなので、触れぬよう気を付けて奥の方にすすんでいった。
火に気を取られて歩いているうちに、床に倒されていた古めかしい椅子の肘置きに足をひっかけてしまった。するとその瞬間また、突然、音楽が流れ始めた。野性的で獰猛な曲調で、トラックにのって「誰も信じない夢だとしても」という歌詞が聞こえてきた。
自分の夢を信じてもらえなかったのだろうか?そうだとしたらなんと悲しいことなのだろう。「だとしても」の先には何が続くのだろう?
歌の続きを聞きたいと思ったが仕方なく、部屋の奥にあった扉から外に出た。
廊下に出て、さらに先に進んでいると、向こうの方で騒がしく響く機械音声が聞こえてきた。
「アー ハァッテイウゲーム シテエ」「チガウチガウチガウ」「ソウジャナイ」
何を言っているのか、にわかに意味が分からなかったが、ロボット達が近づいているのは間違いなさそうだ。
私は急いで先に進んでいった。
しばらく進むとまた、廊下に扉が現れた。今度は「2」と書かれた、薄緑の扉だ。
開けて入ってみると、部屋には白と青の風船が敷き詰められていた。風船から空気が抜けていないのが不思議だ。壁際にはサーフボードやイルカを模した風船がおかれていた。部屋の中央には机があり、その上にサングラスとレイ、それから緑色の液体が入ったグラスがおかれていた。
「これがサングラスか・・・」
そもそも外に出ることがほとんどなく、紫外線を気にしなければならないような事態になることは全くない。私は初めて実物を見たサングラスが珍しく、手に取ってかけてみた。するとその瞬間、またしても突然、音楽が流れてきた。今度の音楽はポップでさわやか、思わず体が縦にノリそうな楽しい感じだ。今までの3曲とは少し様子が違うなと思っていると、「クラクラしそう」という歌詞が聞こえた。
「クラクラ」だと?体に変調をきたしているのではないか?二日酔いか?
しかし考えている暇はない、私は風船をかきわけて部屋の奥までたどり着き、扉をあけて外に出た。
しばらく廊下を進むとまた曲がり角があった。右に曲がろうとしたところで先ほどより大きく、はっきりと、機械音声が聞こえてきた。
「アー ダガシ モウタベラレネエ」「オレ チョコナラタベレルヨ」
声の大きさからすると、この建物の中にロボットが入ってきているのは間違いないようだ。私は先を急ぐことにした。
曲がり角を曲がって見えた光景にぎょっとした。古いマネキンが山のように積まれていたからだ。マネキンは泥がついていて、腕や足がないものもあり、とても不気味な雰囲気だ。壁は濃い紫色の旗のような布で覆われていて、二つ前の部屋よりさらに暗く、まるで廃墟のようだった。
異様な様子に躊躇っていると、また向こうの方で騒がしい機械音声が聞こえた。
「アー レゴデ ナツ ツクリテエ」 「ショウライノ オウブノクラシ フミヤト ツクリマシタ」
なるほど、これまでも廊下を何度か曲がっていることを考えると、もしかしたら今、ちょうど向かい側あたりにロボットたちがいるのかもしれない。そうすると戻ることはできない。
私はマネキンの山をかき分け、廊下を先に進んだ。
マネキンのゾーンを抜けると、また扉があった。「2」と書かれた、青色の扉だった。この青の種類は「ピーコックブルー」という色だったか・・・
中に入ると部屋の真ん中に木が生えていて、その前にクリーム色の長椅子と一人掛けのソファが2つ置かれていた。
ソファを見た途端、私は体の疲れが限界にあることを思い出した。とにかく座って休みたい・・・
フラフラと右端にあった一人掛けのソファに腰かけるとその瞬間、また突然、音楽が流れてきた。今度はゆったりとした優しい音楽。それにのせて「ゆっゆっゆっゆ~」という歌詞が聞こえてきた。
どういう意味だ?ゆ・・・湯?
疑問は尽きなかったが仕方なく、奥の扉から出ようと部屋の奥に進んだ。木の裏側に置かれていた殺風景な机の上に、何か大型獣の角の剥製のようなものがあったのが、やたら気になった。
部屋から出ると、右手に階段があった。
上ってもいいものか迷っているとまた、後方から機械音声が聞こえてきた。
「スシクイネエ」「カメラメセンデ クレープ フタツタベテエ」
かなり近づいてきているようだ。さっきの部屋に戻るとあのロボット達と鉢合わせになってしまう。私には階段を上る以外に道はなかった。
階段の内側には窓があり、きれいに手入れされた芝生があるのが見えた。どうやらこの建物は、芝生を囲んで廊下がロの字のようになっているようだ。
階段を上りきったところに緑色の扉があり、行く手を塞いでいた。今度は数字ではなく「Time Jackerz」と書かれている。
「タイムジャッカーズ・・・」
私はこの言葉を知っている。本当に困ったとき、そしてピンチの時には、4人の「タイムジャッカーズ」が現れ、時間を操作して助けてくれるという話は、海賊王や桃太郎と同じような、大人が子どもに聞かせる童話、おとぎ話だ。タイムジャッカーズというヒーローの存在は、全世界の子どもを経験した大人が知っている。
しかし、そのおとぎ話の主人公が、なぜこのドアに書かれているのだろうか?
扉をあけて中に入ると、靄(もや)がかかっていて中が良く見えない。目を凝らして進んでいくと、部屋の真ん中に、古いブラウン管のテレビが一つあるのが見えた。一つ目の部屋で壊されていたものと同じものか?
テレビの前に立つと突然、テレビのスイッチがついた。画面に映し出されたのは、ステージ上で歌い踊る4人の男たちの姿と、それを見ているたくさんの人の姿だった。ステージ上の4人は、舞台の端から端まで移動しながら、歌い、とても激しく踊っている。黒い髪の背の高い男、赤い髪の筋肉質な男、青い髪の小柄で敏捷な男、そして金髪の長身でスマートな男の4人。
彼らの激しさに呼応するように、見ている人々も、手に持った先が光る棒を力を込めて振っている。たくさんの人が同じ方向をむいて、熱狂の渦に巻き込まれているのが画面越しにも伝わってくる。
「これが『Live』か・・・」
現代社会では人と人が直接触れ合うことはない。音楽を実際の人が、人の目の前で、歌ったり踊ったりする姿を見せることが無くなってもう久しい。実際に自分の体を音楽に合わせて動かせ、歌を歌う人間は、現代にはもういないのだ。
ハム職人の研修でチラリとしか見たことのなかった「Live」が今、このテレビで流れている。
「ハム」とはHuman Art and Music、人間の芸術と音楽である。私は生まれた時の一斉脳検査で、この分野に向いていると判定された(ちなみにこの一斉脳検査は、ベッドに並べられた赤ちゃんが頭に検査のコードを「アフロヘアー」のようにモジャモジャ付ける様子から「コインロッカーベイビーズアフロ」と呼ばれている)。食料や住環境、健康管理などの生命維持に必須の分野だけでは人口は減る一方であり、人口を維持する娯楽のため、私のようなハム職人が芸術や音楽のアイデアを生み出して電子データで人に届けている。私は特に、音楽を作ってきた。
私が作ったハムがもし「Live」になったら、一体どうだったのだろう。考えるうちにまるで、過去に時間が巻き戻された気分になった。
人が歌い、踊って、それを見て、聞き、感じた人が熱狂する。
現代ではもう忘れられているが、これはハムにとって重要な一つの要素なのではないか。こんなハムが存在する世界は、豊かで、活気があったのではないか。
私は握りしめたこぶしが震えるのを感じた。
しばらく映像に見入っていると、突然、背後のドアが開いた。
振り向くと、すでに4体のロボットが部屋に入ってきていた。
そうだ、私はロボットから逃げて、ここにいたのだ。
逃げ切るのは無理だ・・・
仕方がない、もう、ケンカしよう。
あきらめた瞬間、赤、青、紫のバンダナのロボットが、黄色のロボットを取り囲んだ。
そして、それぞれ口々に電子音声で歌いだした。
「ハッピーバースデー」「ハッピーバースデートゥーユー」
ハッピーバースデー????
・・・どうやら、ケンカはしないらしい。
私は力が抜けて、へなへなと座り込んでしまった。
誕生日を祝っているだけ・・・?
4体とも生き生きと、嬉しそうに見える。ロボットだから感情があるのか分からないが、なんとなく、そう見えた。
いつのまにか、テレビに映っていたLiveの映像は消えていた。
もしかしたら、このロボット達は、私をこの、Time Jackerzの部屋まで連れてきてくれたのかもしれない。私に、ハム作りのための一つのやり方を教えてくれたのかもしれない。不思議と、こじつけには思えなかった。
私は真ん中で囲まれていた黄色のロボットに近づき、肩に手をおいて、呼びかけた。
「お誕生日おめでとう。ここまで連れてきてくれてありがとう。」
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