山田風太郎『叛旗兵』

藤沢周平の他に直江兼続の出てくる小説を、ということで読んで見た。兼続だけではなく、本多政重も登場。『密謀』では牧静四郎だったが、こちらに登場するのはご本人。

関ヶ原合戦から十年、上杉家に難題が吹っ掛けられた。徳川家の本多正信の次男、政重を直江兼続の養女・伽羅と結婚させ、直江家の婿にしたいというのである。直江家をあかさらまに乗っ取ろうとする動きに、直江家の家臣、直江四天王を名乗る、前田利太、上泉泰綱、岡野左内、車丹波らは憤慨するが、直江兼続は婿養子の話を跳ねつけ、伽羅に別の婿を娶らせる。婿の名は正木左兵衛。八丈島に配流されていた宇喜田の旧臣で、大谷吉継の忘形見だという。
ところがこの左兵衛、長い配流生活で疲弊したのか、てんで覇気がない。直江家の跡取りとしてあまりに頼りないのに剛を煮やした伽耶は、四天王たちに左兵衛を鍛えるよう頼む。
かくて、左兵衛を連れた四天王は福島、加藤、蜂須賀、伊達といった、東軍に着いた大名たちに嫌がらせをしていく……

主人公とも言うべき直江四天王のうち、前田利益以外は死んだり上杉家を離れているはずだが、ぬけぬけと登場させるあたりは山田風太郎という感じか。
頼りない婿殿の教育のため、徳川政権家の大大名たちに喧嘩を売ってゆくが、他の作品の主人公たち(忍法帖の忍者とか)に比べるとそこまで切羽詰まったものではなく、最後の結末を除けばどことなく牧歌的。

本多政重は覆面をつけた謎の人物で、流石の四天王もたびたび窮地にたびたび現れては敵味方双方を翻弄する、この作品のキーパーソンとなっている。その正体は……史実を知らなくても流石にバレバレ。直江山城と四天王たちの迎える結末も、この作家らしけど、ある意味予定調和。
最後に一人残った兼続の姿は哀愁を誘うものの、「死場所を間違えて生き残ってしまった人間はとことん零落する」山風世界の結末としてはだいぶおとなしめの末路ではある。
総じて山田風太郎の中ではそれほどでもない感じ。

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