NPO等による「体験格差」是正の取り組みへの懸念

2024年6月29日

前置き

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下記の、特に企業側の節税メリットについてご理解いただくために書きました。
宅食事業等で寄付先の頭数が増えたことで、食品寄付を起点に高額な化粧品等の配布が行われていることは、メーカーの節税メリットが極大、困窮している方々のメリットが微妙なこともあり得るので「何とも言えないなあ」という記事です。
「体験格差」是正の取り組みに用いるチケット等の寄付等にも似たような視点が必要だと思います。予め読んでもらえると嬉しいです。
上記を踏まえ、現在のNPO等が主導する「体験格差」是正の取り組みについての懸念する事項等を書いてみました。
別の記事の「NPO等が疑われてしまう理由」に繋がります。

1、「体験格差」是正の取組について

  • さて、上記記事を踏まえた上で最近流行している「体験格差是正」について考えてみましょう。

  • 最近は何をするにもお金がかかります。親御さんに時間とお金の両方がないと充分な(何を以て充分とするのかわかりませんが)経験を子供にさせてあげられないというのが前提としてあり、それらは家庭により格差がある。それを少しでも是正しよう!という理屈のようです。

  • 私が確認した範囲の「格差是正」の試みを簡単にジャンル分けしてみます。

1、イベントの開催
ハイキングやらBBQやらキャンプやら等のイベントに参加してもらおうという取り組みですね。まあ昔からあります。
また、変わったところでは企業が工場見学会を主催するような取り組みもあるようです。

2、スクールへの参加
ピアノ教室、水泳教室、サッカー教室等々に数回参加できるというもの。
これらは比較的長期継続してこそ意味がある「体験」ですが、「お金に余裕がないが一つだけなら習い事をさせてあげられる」という家庭もあるでしょう。
無料体験よりも密度の高い体験をさせてあげることについて、一定の意味はあるかもしれません。

3、「箱物」への入場
美術館、レジャー施設等へのおそらく入場券を配るという試みの様子です。
こちらに関しては当該箱物に需要がどの程度あるのかという点が気になります。

  • 全額ではないにしても習い事の費用や遊興費の一部を補填するという試みについては一定の意義はあろうと思います。

  • ただし困窮した方々に喜んでもらえる形態で「体験」が提供されるというのが前提になります。

2、事業者側のカネの話

  • 上記のような取り組みは、大変結構だとは思いますが、反面、お金の流れがブラックボックス化していることについて、若干の懸念を感じます。

① 体験の提供

  • 別に利用する側は自分の懐が傷まない話なので気にはしないと思いますが、迂遠な特定団体・施設への資金支援みたいなことにならないかが少し心配です。

  • 別にここが特に問題があるとは思っていませんが、一例としてチャンスフォーチルドレンさんのクラウドファンディングを出します。

  • 集めた資金全額を奨学金の費用として使用するらしいですが、その奨学金の使い道は基本的には「地域の体験活動」とやらに参加する対価になる様子です。

上記記事より
  • 先ほど紹介した「2泊3日で3万円/人」というのが一例ですね。

  • この金額ってサービス相応なんでしょうか?

  • 使い道を特定団体のイベント等に限定するのであれば、その「特権」にあぐらをかいて、サービスの対価以上の金銭を求める事業者が現れてもおかしくない気もします。

  • 従来の私設補助金の考え方からすると、事業者や施設に対して、地域の子どもを対象とした行事やら体験会やら無料デーの開催費用の実費を補助するみたいな様態が本筋のはずです。

  • もしくは多少の流用は覚悟して、資金を保護者に渡し切るパターンでもいいでしょう。

  • 本件は困窮したご家庭に対して地域の団体・施設へのイベント等への参加費を渡す取り組みのようですが、その支払いが適正範囲に収まっているかをどのようにチェックするかが寄付募集ページからは読み取れず、気がかりです。

② チケット等の提供

  • こちらに関しては、単なる企業の節税ツールと化さないかが少し心配です。

  • 別にここが特に問題があるとは思っていませんが、一例として経済同友会さんとフローレンスさんのクラウドファンディングを出します。

  • 集めたお金はプラットフォームの運営費等に使われる様子なので、前項の「体験の利用料」に費やされる取り組みとは若干異なる様子です。

  • また本件の「体験」の提供方法は企業からチケット提供等になるのに対して、前項の取り組みの場合は協力する地域の施設・団体になるようなので、その部分でも違いがあります。

上記記事より
  • こちらの場合、寄付の税制優遇が雑に使われないかが心配です。

  • 食品は全額、食品以外の化粧品等も制限の範囲内で、事業者は商品を寄付をすることで税務メリットを享受することができます。

  • この「体験」のために供されるチケットはどうなのでしょうか?

  • 名前は出しませんが各種チケットを時価相当額で寄付金として引き受けているNPO等は探せばすぐに見つかります。

  • おそらく販売価格2千円のチケットであれば2千円の価格で領収書を切って寄付を受け入れるのだと思います。

  • 食品やら化粧品やらは需要予測が外れて多く作ってしまうことはあるにしても、初めから無駄に製造することはありません。当たり前ですが、損失になるからです。

  • 一方でチケットの発行それ自体にはほぼコストはかかりませんので、例えば母体が黒字の事業者が抱える不人気施設のチケットや客足が伸びない平日限定のチケットを刷ってばら撒けば、損金算入上限額までは寄付金による赤字でめっちゃ節税できたりしませんかね、これ。

  • 協働先が経済同友会さんであり、営利企業が寄付の主体になることを踏まえると、心配です。

  • 今までそれができなかったのは大量の寄付を受け入れる先がいないからだと思いますが、本件プラットフォームを活用すれば「ばら撒き先」を確保できてしまいます。

  • あくまでも可能性の話だけで、実際に疑っているわけではありませんが、企業の節税を達成するために不人気施設・サービスのチケットが困窮している方々に押し付けられるようなことが起こらないことを祈っています。

3、まとめ

  • 以上、別記事の通り、食品の寄付についてはフードロス防止の観点からも私は概ね好意的に見ています。

  • 宅食でもフードバンクでも子ども食堂でも大いにやれば良かろうと思います。

  • しかし化粧品等の高額かつ人を選ぶ商品の寄付については、困窮した方々の需要は二の次で、メーカーの節税ツールとして使われていないか?と若干の懸念を抱いています。

  • そして最近存在感を増している「体験格差」是正。
    事業者へ支払われる金員については「体験」提供の対価として適正な範囲に収まるのか、「箱物」への入場券等については企業の節税ツール化しないか等、気になることはあります。

  • こういった取り組みについて、良いとも悪いともコメントするつもりはありませんが、困窮した方々の需要が二の次になり、団体・施設や企業の利益創出・節税ツールとして使われないか、気にしておきたいです。

  • 困窮した方々もハッピー、団体・施設や企業も相応のメリットを得られてハッピーというのが理想ですね。

以上

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