悪質ホストクラブ対策は消契法での対応は難しそうなので代案。
2023年11月17日
(12/2微修正、12/14冒頭部に検討結果追加)
最近国会で取り扱われ、ニュースにもなった悪質ホストクラブ対策。
ニュースの内容をかいつまむと要はデート商法に類するものとして消費者契約法に基づく契約取消なんかができるのでは?との発言があったようです。
現実問題として難しく、また効果も薄かろうと思います。
フォロワーの方とのTwitterのやり取りで面白い方法を提案してもらったので調べて見ると、思いのほか上手くいきそうな感じもありましたので記事にしてみました。
思考実験の域を超えませんが、物になりそうであれば政治家のセンセイお願いします。
12/14追加 検討結果
拙稿に基づき金融庁総合政策局リスク分析総括課の方と、別件で用事のあった金融法・債権法等に強い大先生の見解を聞いてみました。ハードルは二つ。
結論、理論上はとにかく立証が難しいので活用はしにくそうとのこと。
1、当たり前だが債権の移転だとしたら貸金行為ではない
こちらは従来から議論がある、「売掛」を飲食代金債権の移転と解釈するか準消費貸借と解釈するかという話ですね。
前者とみなす場合はそもそも貸金行為が成立しようがないので、前提からしてダメです。
「売掛」契約の個々の様態で解釈が変わり得るかと思います。
2、「立替」は現に行ったかどうかで判定(約束だけだと×)
回収の時期・成否に関わらずホスト報酬から「翌月天引き」になる場合等は、「売掛」発生時点で「店の債権、ホストの債務」「ホストの債権、客の債務」が別個に分離し、「立替」成立と解釈する余地があるかも?とのこと。
ただ立証が難しそう。
1、消費者契約法での対応が難しく・効果が薄い理由
① 前提としてホストクラブの売掛について
まず「売掛」という言葉自体を全く理解できない方は少ないのではないかと思います。いわゆるツケ払い・後払いのことですね。
ホストクラブでの飲食にあたり、資産も支払能力もない若い女性に対して過剰な「売掛」を背負わせて、風俗店や売春等で返済をさせるという手法が最近批判を浴びているわけです。
もちろん若さ×容姿は個人資産ですから、それをどう消費するかは個々人の自由です。
一方で悲しいことに境界知能と呼ばれる方々やメンタルのバランスが思わしくない方なんかを半ば騙して債務を背負わせたりするような悪質なホストも一部にはいるようです。
悪い人たちにとってはいつの世も若い女性は『商材』ですから、これらについては「被害」と形容しても差し支えなかろうと思います。
さて、この問題に取り組むにあたっては「売掛」の契約関係を正しく理解する必要があります。
正確ではない表現かもしれませんが、ざっくり言うと、建前上はホストは独立した個人事業主であり、ホストクラブは事業者に場所を貸しているだけです。
そして売掛というのはこれも建前上は「顧客がホストクラブに払えないお金をホストが立て替えてあげている」ことになっています。そして「店はホストに対して請求を待ってあげている」(ホストは店から報酬の前借りをしているという形式。当該前借り金はバンスと呼ばれ、転じて売掛そのものを指すこともあります)ということにもなっています。
「売掛」の契約関係を整理すると「債権者:店、債務者:ホスト」「債権者:ホスト、債務者:顧客」という二つの契約が成立していることになります。
なぜこんなことをするかというと、客が支払いできなかったり逃げたりした場合、店側がホストに当該「売掛」を請求できるようにするためです。
「債権者:店、債務者:顧客」という関係だと、それができませんからね。
このやや特殊な契約関係を踏まえておく必要があります。
② 消費者契約法の取消事由
国会での発言はおそらく「消費者契約法第4条3項6号」を意識してのものだと思います。
取消対象にはいわゆるデート商法に引っかかって行った契約なんかが該当します。ちょっと前まではワンルームマンション投資詐欺なんかが流行していました。
SNSやマッチングアプリ等で知り合った「投資に強い」女性から不動産投資を進められ、実際の流通価格よりも高い価格で物件購入をさせられてしまうという手口が有名です。こんなの。
③ 悪質ホストクラブの被害救済に当該条項が役立つか?
取消要件は、上記に引用した通りですが、ホストクラブでの飲食にこれを当てはめることができるでしょうか?
特に「恋愛感情の誤信」という部分が難しかろうと思います。要はホストクラブというのは疑似恋愛を楽しむ場所とも言えますから、当然ながら色恋的な営業は一定程度許容されるでしょう。
(もちろん結婚を匂わせて「店に借金があるので返済し終わったら結婚しよう。応援して欲しい」だとか、「親の難病を治すために莫大な治療費が必要だ」等と虚偽を述べて客を来店させるような行為は詐欺罪が成立します。これは現行法でも対応可能ですし、事例も沢山あります。)そして何よりも問題なのは、この条項を適用して契約を取り消すには「被害の認識」及び「被害の申し出」が必要になります。このハードルは「騙されている」方にとっては相当高く、消費者契約法の当該条項摘要の条件が多少緩和されたところで、救済される方は少ないと思われます。
求められるのは騙されている女性が網羅的に救済されたり、今後発生しなくなるような仕組み作りです。
また契約の一方的な取消権のハードルを安易に下げることは、まったく別方面に波及し、取消権の濫用を招く可能性も懸念されるので注意が必要です。
2、貸金業法を利用した対策
① きっかけ
フォロワーさんとのやり取りの中でこんな意見をいただきました。
なるほど、たしかにホストは顧客に反復継続して金銭を貸し付けているとみなすことができるかもしれません。
この考え方を適用できれば、契約無効は難しいにしても、貸金業法違反で悪質なホストを逮捕することが可能になります。
無登録の貸金業法営業は重罪です。10年以下の懲役もしくは3000万円以下の罰金(またはその併科)になります。もしも要件に当てはまるのであれば詐欺罪と違って立証も比較的容易なはずですから、「売掛」への強い抑止力になり、実質的に「売掛」制度をなくすことに寄与しそうです。
② 貸金業の定義とホストの「売掛」との関係
さて、では何をしていたら貸金業に該当するのでしょうか?
上記を太字にした「貸付け」および「業として行う」の定義が重要です。
キーワードは反復・継続です。宅建業法なんかではこれに加えて「不特定多数に」という条件もつきます。これを踏まえると、ホストの「売掛」は「業」に該当するとの見方もできそうです。
しかしまた別の疑問も出てきます。ホストが行っているのは「立て替え払い」であって、別にその行為で利益を得ているわけではありません。それでも「業」と見なすことができるのでしょうか?
(※ちなみに店がホストに対して、あるいはホストが顧客に対して売掛に対する利息・延滞金等を付加することもあります。)私が知る判例が二つあります。
他にも類似の判決はあるようでした。
ホストクラブで発生する「売掛」について、利息等の利益を取っていないからといって「業」と見なせないとまでは言えなさそうです。
では次に「立て替え払い」は「金銭の貸付け又は金銭の貸借の媒介」に該当する行為と言えるのでしょうか?
グレーゾーン解消制度に基づく金融庁の回答によると当該行為が「信用供与」を目的とするかどうかが重要なようです。
「信用供与」をわかりやすく伝えるのは難しいですが、要は「相手を信用してお金を融通する」ことです。
当該照会を行った事業者は教育機関が宿泊実習中に生徒を病院に受診させた際の料金を保護者の代わりに一旦学校等へ支払い、学校の代わりに保護者から回収を代行するサービスを行おうとしており、それが貸金業にあたるかを照会しています。
当該事例では「信用供与」ではなく、貸金業には当たらないとの判断がなされています。立て替えるのが単なる実費相当額であり、事業の目的が資金を融通するというよりも、教育機関・保護者双方の手間を省くのが主と見なされたこと等が判断の根拠になっているようです。
ホストクラブ及びホストは顧客の容姿、若さ、健康度合い等で相手により供与する「信用」(金額・期間等)を変えているので、ホストが行う立て替え払いを「信用供与」と見る余地は十二分にありそうです。
③ まとめ
以上を踏まえると、悪質なホストを「無登録の貸金業者」と見なして逮捕することも不可能ではないかもしれません。
もちろん「貸金業法の恣意的な運用は『闇金業者等の取り締まり』等の立法趣旨に反するのではないか?」との疑問等もありますので、かなり荒っぽい考え方であろうとは思います。
しかしこれが実現できれば少なくともホストクラブは顧客に対して過剰債務を負わせることができなくなるため、「被害」女性の発生を抑えることが可能になるかと思います。
繰り返しになりますが消契法を適用しての契約取消は「被害の認識」と「被害の申し出」のハードルが高く、救われるべき「被害」女性の利益になるとも思えません。
また妙なところに波及して契約取消が濫用されないとも限らず、リスクを孕んでいます。
どういう手段が適当かは中々難しいとは思いますが、場当たり的なものではなく、包括的に「被害」を抑えるための仕組み作りを政治家の方々にはお願いしたいものです。
以上
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