NPOへの寄付が脱税等の不正に用いられるということの解説

2024年7月30日
(7/31 言い回し等微修正)

このツイートについて、「匿名質問箱」に登録して始めての質問だったので、いそいそと文章もロクに推敲もしないまま回答したところ、何故か沢山の方に拡散されてしまい、戸惑っています。

もう少し言葉を加えないとあらぬ誤解を招きかねないとも思い、以下の通り説明させてもらいます。

1、前置き

① NPOへの物品寄付のルールについて

  • NPO会計基準のサイトや、NPO会計の大家である脇坂先生の記事を参照しましょう。

  • 要は物品寄付は「公正な評価額」で評価することが定められていることや、現物寄付でもその価額に応じた領収書を切れるということがわかります。

上記URLより
この話の本筋はPSTの話ですが。

② 実際の運用の状況

  • 度々話題になる、定価等でメーカー側が寄付を行った場合の仕訳については以下の通りです。

  • 以下の例は定価ではなく仕切り価格での計算なので、それに倣います。単位は「万」を採用します。

  • まず、原価60万円の商品を寄付した場合、寄付費用60万円が計上されると共に、60万円の棚卸資産が減るという当たり前のことが書いています。

  • 次に、推奨はされないものの、仕切り価格100万円でNPO等に寄付を受けいれてもらった場合、見せかけの利益が40万円上がり、棚卸資産が60万円減るということが書いています。この場合でもトータルの損益は特に影響はありません、100万円の赤字 ー 40万円の黒字 なのでトータルでは60万円の赤字(資産の減少)に変わりはないからです。私のツイートの通りですね。(下掲画像の赤枠)

  • 下掲画像は最大手のフードバンク関連団体が加盟団体向けに作ったQ&Aであり、仕切り価格で寄付を受け入れる想定が存在していることを示しています。

  • なお、文中には原価での寄付受け入れが望ましいと記載されていることには注意が必要です。

某フードバンク関連団体が作っているQ&A
  • また、もう1例挙げるとすると、実際に某認定NPOのHPでは、計算が難しい物品寄附については領収書を原則発行しないものの、新品などの価格が計算しやすい商品をまとまった量で提供される場合は、特別に領収書を発行する旨が記載されており、実際に上述のような運用がなされている旨もわかります。
    (もちろんこの団体が原価か仕切り価格のどちらで寄付を受け入れているのかは知りませんが)

某認定NPOのHPより

③ 「不正」のボリューム

  • 「不正」に用いるためのNPOへの寄付は損金として計上できる金額に制限があります。

上記URLより
  • 上記の通り、所得2千万円、資本金2千万円のケースでは、後述する手法で不正に「節税」するために必要な、損金算入の上限額は約80万円です。

  • もっと言葉を加えると実効税率をざっくり20%とした場合、約80万円の赤字で所得を圧縮したとしても、それで可能な「節税」は16万円に過ぎず、そんなに目を見張るほどの効果はありません。

  • お金を抜くにしても損金算入額が基準になるので、もう少し規模の大きい法人を想定した場合でも、「巨額不正」ほどの規模になることは少ないかもしれません。

  • なお、全額損金算入が可能なフードバンク等への「社内ルールに基づいた商品廃棄処理の一環で行われる取引」による寄付は、かなり条件が厳しいので、これを使って不正をしている方々はそんなに多くないんじゃないかと、私としては思っています。

2、私が書いた不正の手法について

  • まず前提として、単価の安い食品ではなく、単価の高いアパレル商品や化粧品などでよく使われる手法ではあります。

  • 私が他の記事で単価の高い化粧品の受け入れをやや疑問視しているのはそのためです。

① 法人による不正

  • 上掲画像を例に用いるのがわかりやすいと思うので、ツイートで用いた数字ではなく、こちらを使うことにします。

  • まず、NPO側が仕切り価格を基準にした寄付価額で領収書を切る行為は何ら問題ありません。定められた通り公正な評価で寄付を受け入れているだけなので。

  • しかし当然ながら、寄付をした側の法人の対応は問題がありますね。

  • 通常60万円しか計上できない赤字を40万円水増しして100万円にしているので、その分だけ払うべき税金が安くなります。

  • また経営者等のポケットに40万円が入りますが、不正な方法で取得した現金を収入として申告するはずもないので、横領及び相当額の脱税ということになります。

  • 税務調査に入られた場合はリスクがある行為にはなりますが、領収書に細かな内訳が記載されていない限り一見してバレることはないので、スルーされることが多いらしいです。

  • 私は良く知りませんが士業同士の集まりではそんな話を聞きます。

② 個人での不正について

  • 個人の場合は法人と違い、寄付金額に応じて所得税が最大50%減るという、プラスアルファのボーナスがあります。

  • 個人に安価に在庫を販売するなり、廃棄したことにした在庫をこっそり回して、それは仕切り価格もしくは多少割り引いた評価額でNPO等に物品を引き取ってもらい、相応額の寄付の領収書をもらうやり方があるというのは冒頭ツイートの通りです。

  • しかし個人に対して大量に不良在庫を販売すると商品の横流し等を疑われかねません。

  • そのため単価の低い食品などではなく、単価の高い商品で行われることが多いと聞きます。

  • また同様に、物品によっては廃棄処理経路について厳しいチェックがなされることもありますので、物を選ぶ手法であることは間違いありません。

3、まとめ

  • 「前置き」でも述べた通り、この手法による不正が一定数あるにしても、超巨額にはなり得ないとは思います。

  • また、NPO等にとっては得になる話ではないので、ご紹介した手法に関して「不正」という言葉を用いる際は文脈に注意する必要もあるでしょう。

  • さらに言えばこの不正は純然たる違法行為であり、これらの行為が摘発された場合は重い処罰が下ることが予想されますので、決してカジュアルに手を染められる不正ではありません。

  • そのため監査法人の関与がある大手企業や、上場企業が当該不正に及ぶ可能性は低いものと推定されますので、ご留意ください。

  • 一方で、株式会社とNPOを実質的に経営し、共謀させることで実質的な脱税等を行っている事例は実際にあります。

  • 私が10年以上前に見た事例では、実質的に同じ経営者が運営している株式会社とNPOには不自然な相互取引がありましたが、その経営者は違法な連鎖販売取引(マルチ商法)に起因したトラブルで逮捕されました。

  • その折に、詐欺等と合わせて上述のような取引を行なうことで脱税めいた行為もしていたことも併せて発覚したと聞き及んでいます。

  • NPOは一定規模までは税務署に決算書を出す義務がないですし、収益事業を営んでいない場合は追徴課税等が発生することが物理的にないので、税務署は実質的に中身をほとんどチェックしませんし、調査にも入りません。

  • また所管庁である都道府県に対しては必ず決算書が提出されるものの、コンビニ並みに多いNPOの決算書はチェックされていないのが実情です。

  • 営利企業同士の取引であれば相手側の税務調査等から自身の不正が発覚することもありますが、相手がNPOであればそれも起こりにくいです。

  • そういうところに着目して、悪い方々がNPOを不正の道具として使う、あるいはNPOが使われるという側面は確実にありますので、ルール見直しが必要だというのは事実だと思います。

以上

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