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うっすらとした記憶。

私鉄の線路脇、踏み切りを渡ってすぐの古くも新しくもないアパート。
大家さんがやってる小さなお店の脇を抜けて入ると左手に何の変哲もないドア。わたしが生まれて初めて自分で借りた部屋だ。

うら若き女の子だったはずのくせに1階の部屋とか借りてしまったので、その部屋には小さな庭があった。一坪も無い白っぽい砂利だらけの地面の向こうには高いブロック塀しかない、なんて殺風景にもほどがある庭だったけども太陽の光をそこそこ反射してくれるおかげで、日当たりの割に部屋はいつもほんのり明るかった。

バイトするやら劇団やるやらひとりの男性を口説き倒すやら、なかなかとっちらかった生活を送っていたので、喜怒哀楽に満ちた思い出がその小さな部屋にはたくさんあるはずなのに、何年も何年も経った今、思い出すのはその頃よく聞いていた曲のアコースティックギターの音と、砂利だらけの庭だというのもおかしな話だ。

そういえば、今もあるのかしらあのアパート、とネットで地図を調べてみたらちゃんと線路脇に存在していてくれていて、自分でもびっくりするくらいに懐かしく愛おしい感情がわいてきた。道路に面した外壁だけ修繕してたりとかドアが変な青色になってたりとかするけどあの一坪の庭もちゃんと残ってる!

そうかあ、今日もあの部屋がうっすら明るく照らされているのかあ、と思うだけでこの項を書き始めた甲斐を得たようで、わたしはいますごくうれしい。

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