祖母の死が私に与えた違和感
私はしがない配達員。
離婚を経て2児のシングルマザーとなり8年目。
2021年の夏、毎年恒例のお中元の繁忙期に揉まれていた。
ずっとお天気が悪く、仕事の進みが遅くなるので憂鬱な毎日が続いている。
朝5時に起きて暫くボーッとしてから朝の支度を始める。
これが私の日課である。
今日は日が昇り窓から射す光と、青空が嬉しくて気持ちが高まった。
母ちゃんの朝は忙しい。
子供達に声をかけるが中々起きない。
毎日、支度の合間に掛ける声は時間が迫るにつれて、私の中のキレ母ちゃんが登場する。
そんないつもと変わらない朝のはずだった。
私が2階で慌ただしく化粧の続きをしていると、同居する父から
「おぃ、ヒロコ… 」
もう、この時点で何かあったと分かる。
同居はしているが生活スペースが離れている為、普段父はこちらのスペースには来る事がほぼないのだ。
私は咄嗟に階段を駆け降りる。
父は俯きながら
握った拳をもう片方の手で摩りながら、私にこう伝えた。
「婆さんが亡くなったから…」
全身から血の気が引いていくのが分かる。
「え?!え?!何でー?! え?!嘘でしょう!!」
言葉にならない声が、心の中で叫びに変わる。
動揺を抱えながら、祖母の部屋へ駆け込んだ。
今でも忘れられない光景。
そして忘れられない感覚。
和室の布団の上で母が祖母に寄り添い、父が救急隊の指示を受けながら心臓マッサージをしている。
祖母の腕は前で組まれ、既に死後硬直をしているのが分かる。
目の前で展開される視界に映る光景に、強い動揺と言い知れない悲しみが込み上げてくるのと同時に、私は不思議な違和感を感じていたのだ。
部屋に満ちてる空気が
とても穏やかで柔らかくて優しい
とても受け入れがたい現実を目にしているのに、私の皮膚から感じるエネルギーはそれとは真逆の感覚だった。
遠くから救急車の音が聞こえる。
私はお婆ちゃんに触れ、あまりにも突然な別れに悲しみの思いと今までの感謝を心の中で伝えた。
子供達を起こし、対面させる。
近所に住む叔母も駆け付けた。
救急隊に、警察も到着した。
自宅の中で人が亡くなるということは大変である。
この辺りの描写は私としては書きたいが、既に気分を害されてしまう方もおられると思うので割愛する。
悲しみに暮れる暇なく、自宅の捜査が入る。
私はただただ、その時に必要な動作を言われるがまま行っていた。
警察が帰った後、私は思考が働かない中で、無意識に部屋の片づけをし出していた。
いつも忙しさを理由に出されたままの洋服をクローゼットにしまったり、物が溢れる居間を片付けていた。
今だから分かる。
この日を境に、私の中で何かが変わりだした。
お婆ちゃんが私の中のトリガーを弾いてくれたと。
目に見えないエネルギーの重要さを知るきっかけとなった。
2021年7月12日のことだった。
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