コロナ禍で存在を消された私たち メディアの壁とTwitterで戦う私たちの軌跡

「新型コロナに後遺症か」という一報が地方の新聞で取り上げられたのは、2020年7月頃だった。陽性となった若い学生の2人が、積極的に取材に応じてくれたことで日本でも少しずつ後遺症があることが認知され始めた。
ただ、メディアから流れる後遺症の情報は「陽性者」に限られていた。実際に2020年春には私たちの中には新聞記者などから取材を申し込まれて答えていたし、夏〜秋にかけては後遺症が話題になり始めたことで、結構な人数の検査難民や偽陰性組の仲間たちが様々なテレビ局から取材を受けた。しかし、「陽性者ではない」という理由からなのか、放送日当日になると私たちが受けた取材内容はことごとくカットされ、テレビから私たちの情報が流れることは一度もなかった。
また、最初に記載した「新型コロナに後遺症か」という7月の新聞記事には、記録者の一人がTwitterで行ったアンケート結果が取材により掲載されたが、その者自身が検査難民であるという情報は明記されず、伏せられた。ただ、当時としては世間に「後遺症がある」という認知すらなかったので、陽性者に限られる情報とはいえ、後遺症のことを記事にしてくれたのは心からありがたかった。

このようにメディアが後遺症に着目し始めた2020年7月、Twitterで行われたアンケートがある。
そのアンケートによると、回答者の471人中、症状が続く陽性者は7%、症状が続くにも関わらず陰性となった人は26%、症状が続くにも関わらず検査を受けられなかった人は67%、という結果だった。
つまり、世の中でコロナ陽性者と同じような症状があるにも関わらず、検査難民と偽陰性となった人は当時93%もいたことになる。テレビで流れる後遺症の話は、同じような症状が続く者たちのたった7%の人の情報に限られていたのである。

Twitterでは各自が考えたアンケートもよく実施されていた。下記の資料は、記録者の一人が行ったアンケートと、仲間の一人が行ったアンケートとの合作で作られたものである。

後遺症アンケート結果まとめ3

海外では早期からこのようなデータが集められたり、メディアから流れたりと、後遺症(Long COVID)についての研究も早くから行われていた。私たちがTwitterで独自に実施したこのアンケート結果は、海外の情報ともほぼ一致していた。後に記載するが、2020年夏にこの画像も使いTwitterデモを行ったり、テレビ局へ声を送ったりしたが、日本のメディアからこのような後遺症のデータが流れるのは2020年秋〜冬にかけてであり、その情報源は陽性者に限られた。

仲間の一人が元々通院していたクリニックがある。そのクリニックの平畑医師は当時世間では認知されていなかった長く続く微熱症状などの患者と向き合い、Twitterでも2020年夏頃から症状について徐々に発信し始めた。検査難民、偽陰性組の私たちも、Twitterを通じて平畑医師と何度もやりとりさせて頂いた。
後に、平畑医師が「駆け込み寺」とも言われコロナ後遺症患者の診察を積極的に取り組んでくださることになる。コロナ後遺症についても世間の認知が足りないことから、平畑医師が積極的にテレビ取材に応じ、医師からの視点で後遺症の症状について言及した。平畑医師がテレビに出始めたのは2020年10月である。NHKの番組では「PCR検査を受けられなかった人もいる」とやんわりではあるが報道された。このように、私たちの情報が初めてメディアから流れたのも平畑医師による取材であり、2020年12月、ほんの一言ではあるが「当時検査を受けられなかった人が驚くほど多い」とハッキリと言及し、それがテレビから流れたのだ。
しかし、メディアから当時どれくらいの人が検査を受けられなかったかなど、そのことを社会的に問題視するようなことは未だに報道されていない。


私たちがなぜ次々とTwitterに集まったか。
上記のように、そもそも自分たちの情報はマスメディアから流れてこない。4月発症の記録者の一人は、緊急事態宣言明けの6月、「感染者数が少ない」というメディア報道を鵜呑みにした人がコロナに対し「もうそんなに騒がなくていいんじゃないか?」とツイートしているのを見かけ、「(検査難民の存在を)知らされてないから知らないんだ」と危機感を募らせていた。当時の新聞報道では「感染者数が少なく抑えられている」という政府発表の統計をそのまま引用し、その理由を「国民の自発的な協力で感染爆発を回避できた」とし、政府の見方に片寄った報道傾向にあったという新聞社説のフレーミング分析結果も出てきている。
テレビや新聞では連日感染者数や感染した芸能人のことを報道するばかりで、重症患者へのアビガン投与などの情報しか聞こえてこない。感染してしまった場合の具体的な対処法や、自宅療養する者へのアドバイス、食事のことなど、得たい情報をメディアからでは全く得ることができない。
少しでも治す情報がほしい、家族を守りたい、その一心で不慣れなTwitterに新規登録する仲間も多かった。そこには「新型コロナ疑い」「コロナ疑似」「コロナ疑惑」などとアカウント名に名前を付け、同じような症状で医療機関から同じような対応をされた人がたくさんいることを、私たち自身もそこで初めて知ることになる。むしろ当時は陽性者の方が稀であった。自身の症状は新型コロナだと確信があるにも関わらずPCR検査が受けられず、何ヶ月経っても症状が続くことから、自分たちのことを「検査難民」「偽陰性」「長期微熱組」「長期不調組」などとも名乗っていた。

Twitterではcovid-19に対する海外の論文データも多く流れてくるため、翻訳ソフトなどを使い理解できないながらも読み漁っていた。自分たちに起こっている体の謎の症状の原因について、何か少しでもヒントが欲しかったためである。
私たちに激震が走った海外からのひとつの情報がある。2020年4月13日、イタリアの医師からの情報で新型コロナの真の死因は「微小血栓」ではないか、というものだった。
その日の私たちのツイートは血栓説で持ち切りとなった。「私の症状、まさにこれだ」「血栓説、しっくりくる」など、自分たちが抱える症状の原因の感覚と初めて一致する情報が流れたのだ。もちろん血栓以外による症状もあるだろうが、今まで未知で謎しかない気味の悪い体の症状に対して、「血栓」というひとつのヒントをやっと得ることが出来た私たちは大いに盛り上がった。私たちが初期から情報交換していた「緑茶を飲むと効いている気がする」とは、「緑茶のカテキンによる血小板凝集抑制作用によるもの」と、初めてここでひとつの答え合わせが出来たのであった。
この日から、血栓予防や血液サラサラのための食事の情報や、足首の体操、かかとの上げ下げなど、自分たちでできる方法を日々探し、試し、情報交換し合ってきた。

2020年5月には、イギリスではTwitter上で、いち早く「#Long COVID」というハッシュタグが生まれ、新型コロナによる症状が長期化する人たちの声が集まっていた。イギリスではLong COVIDの人たちの顔写真を集めたwebサイトも登場した。Facebookには、『COVID-19 Support Group』という名前のグループが作られ、アメリカやイギリスから多くのLong COVID患者の声が投稿され、日本の私たちと同様に医師からまともに取り扱われないことや、変化し続ける奇妙な症状、慢性疲労、長期化するといった生の声が集まっていた。
私たちもそのような海外からの情報に感化され、まず自分たちの認知を上げようと動き始めた。(下記の海外メディア年表に一部を取り上げる)

2020年6月、Twitterの仲間により、某教授へ「長期微熱組(推定陽性)に関する嘆願書」を提出しようと呼びかけが始まる。各自自身の症状や医療での検査結果を論文形式でまとめ、かつその症状をグラフ化し提出させて頂いた。
2020年7月と8月、Twitterの仲間の呼び掛けにより、「#長期微熱組や長期不良組を救ってください」 というハッシュタグをつけて、時間を限定して一斉にツイートを行うというTwitterデモを行った。
同7月、NPO法人 筋痛性脳脊髄炎の会(ME/CFSの会)とのやりとりにより、それまで陽性者向けの新型コロナ感染後に続く体調不良アンケートについて、検査難民や偽陰性向けのアンケートも実施して頂けることになった。
続く2020年9月、7月に起こしたデモと同じハッシュタグとさらに「#LongCovid」というハッシュタグも追加して第二弾のTwitterデモを行った。私たちだけでなく、Twitterで出会った私たちのことを応援してくださるフォロワーさん達も拡散に協力してくれるなど、2回目のデモは地域によるがTwitterで検索上位まで拡散することができた。
下記の図は、実際にTwitterデモに投稿された当時のツイートの一部である。

ツイデモ画像8つ

2020年9月には仲間の二人が立ち上げた日本版『long covid-19』のwebサイトがある。日本におけるLong COVIDの現状を発信し、世界的な認知を広めるために活動していた。(現在は休止中)
同9月、『陰性でも後遺症、陽性でも後遺症』というwebサイトも仲間たちにより立ち上がり、多くの体験談が寄せられていた。(現在は休止中)

2020年、私たちが歩んだ日々を改めて振り返る。

《Twitter(主に日本)・私たちの活動》
4月 イタリアの医師による血栓説浮上
   指の霜焼けのような症状は毛細血管の壊死説
5月 Dダイマー情報
   海外Long Covid 情報
   長期微熱・長期不調としてテレビ局などに声を送り始める
6月 某医師宛に長期微熱組28人のデータを送付
7月 某教授宛に「長期微熱組(推定陽性)」に関する嘆願書を作成
   Twitterデモ第一弾1回目(7月26日)
8月 Twitterデモ第一弾2回目(8月2日)
9月 Twitterデモ第二弾(9月5日)
   日本版long covid-19のサイト立ち上げ
   後遺症体験談のサイト立ち上げ
《日本メディア 政府》
1月 武漢肺炎、新型肺炎情報(高熱・肺炎)
   DP号の船内で陽性確認
   日本国内で陽性1例目(武漢からの帰国者)
2月 DP号から下船した人が国内で陽性
   イタリアで死者11名
   世界各国で初の感染者が確認
   日本国内でもイベントの延期や中止の情報
3月 「無症状」文言削除
   野球選手(陽性者)の嗅覚異常と味覚異常の情報
   志村けんさんの訃報
4月 岡江久美子さんの訃報
   仲間の一部がメディアから取材を受け始める(報道なし)
   緊急事態宣言の施行
5月 緊急事態宣言の終了
   政府発言「37.5度以上4日間ルールは国民の勘違い」
   政府記者会見「(感染者数は)主要先進国の中でも圧倒的に少ない水準」「日本モデル」   
   大手新聞社A社説「各国に比べて日本の感染者数は少ない」「国民の自発的協力」政府統計を引用し「新規感染者数が10万人当たり0.5人程度を下回る」
   大手新聞社B社説「PCR検査の実施件数が少ない」等懸念を示すも「国民の自発的な協力で感染爆発を回避できた」
6月 政府記者会見「世界で日本のクラスター対策に注目が集まっている」
   NHK「新型コロナ 元感染者たちの告白」長引く症状としての第一報(6月24日)
7月 「新型コロナに後遺症か」新聞記事の一報
   テレビでも後遺症について少しずつ報道され始める(陽性者に限る)
   仲間の多くがメディアから取材を受ける(報道なし)
8月 
9月 
10月 コロナ後遺症について平畑医師がメディアの取材を受け始める
   NHK クローズアップ現代(平畑医師「検査が受けられなかった人もいる」言及)
   後遺症のひとつに脱毛症情報
11月 民放局 Long COVID情報の第一報
      検査難民、偽陰性組の仲間が週刊ポストの雑誌取材を受ける
12月 民放局 平畑医師「検査が受けられなかった人が驚くほど多い」言及
《海外メディア及び海外Twitter》
2月 欧州「味覚、嗅覚について報道」
3月 [Twitter]症状に苦しむ患者たちが自身の多様で複雑な症状について発信し、その不安な体験を何千人の仲間と共有した(Pope,2020)。
4月 英国BBC「味覚や嗅覚の喪失はコロナ感染判断に良い方法。感染者150万人のうち59%が自覚あり」
   英国研究チーム「嗅覚や味覚の異常が新型コロナウイルスの感染を判断する重要な要素となると発表」
   新聞各社がCovid -19の症状がいかに長く続くものか、患者の体験談を掲載し始めた(Cuomo,C.,2020a)。
5月 [Twitter]イタリアのElisa PeregoがCovid-19から回復した後も続く症状について、ハッシュタグをつけて"Long-COVID-19"という用語でTwitterに投稿したのが始まりだと言われている(Garg et al.,2021)。

これらの年表からも分かるように「未知のウィルス」だった新型コロナウィルスが、私たちやコロナ陽性者、平畑医師、海外の声によりだんだんと報道され始め、長く症状が続く後遺症についても数ヶ月遅れで徐々に日本の社会にも認知されていくのが伺える。
冒頭に記述したように2020年7月、複数のメディアが「後遺症」に着目し報道し始めた裏にも、私たちの活動が隠れている。2020年5月頃から、Twitterでは皆でテレビ局などに「長期微熱」「長期不調」の実態の声を送ろうとなったのだ。陽性となった者も一緒に活動し、2020年6月、NHKの番組で「退院した元感染者」として症状が長引いていることが報道された。このときはまだ「後遺症」という言葉は使われていないが、この番組が「長引く症状」について地上波から流れた第一報と記憶している。この番組では体験談を募集していたため、私たちの声かけで多くの仲間が声を送った。実際に番組で取り上げられたのは陽性者(元感染者)に限られたが、これを皮切りに世間へ「後遺症がある」という情報が広がり始めた。
「Long COVID」という呼称も、TwitterやFacebook等のSNSを通じて、おそらく医学史上初めて患者によって命名された病名だと言われている(Alwan,2021)。
しかし当時、日本のメディアは後遺症の情報も偏った内容が多く、人々が反応しやすい味覚、嗅覚、脱毛症などがよく取り上げられ、実際に私たちが経験した倦怠感と世間の倦怠感のイメージにおいてもズレが生じていた。
とは言え、私たちがTwitterなどを通して活動してきたことは、少なからず世の中に影響を与え、少しずつ社会を変えてきたと言える。後遺症について全く認められなかった社会から、後遺症が認められる社会へと変わったのである。駆け込み寺と言われた平畑医師も、Twitterを通じて多くの私たちの声に耳を傾け、例え検査難民や偽陰性組であったとしても、症状により「コロナ後遺症」として診てくださるようになった。
つまり、私たち一人ひとりの生の声が、社会を変えたのだ。

LongCOVID(後遺症)は様々な奇妙な症状と長く戦うことになるが、半年、1年、1年半と時間の経過とともに症状は和らぎ寛解する人も多い。時間が経てば急性期のような激しい痛みはなくなるが、何かしらの症状は続いている人が多い印象を持つ。
ただ記録者にもいるように、私たちの一部の者はウィルス感染後による「ME/CFS(筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群)」と診断されている。患者の3割はほぼ寝たきりという状態の病いである。私たちの中にも発症から2年近く経っても社会復帰できない人が何人もいる。先に記載したように2020年には私たち向けのNPO法人筋痛性脳脊髄炎の会によるアンケートも実施してくださったが、この病についての認知は世間ではまだ低く、ほんの少しの散歩やちょっとした家事でクラッシュして何ヶ月も寝たきりへと移行してしまうなど、生活面において周囲からの理解も必要とされる。
メディアからME/CFSの情報が流れることを切に願い、研究が進み、今も苦しむ方の症状が少しでも緩和することを願う。

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