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いじめにどう対応するか。

学校の課題の1つに、いじめがあります。

どのようにすればいじめが減らせる、無くすことができるのでしょうか。


1.いじめの定義

「いじめ」は、いじめ防止対策推進法という法律の中で次のように定義されています。

第二条 この法律において「いじめ」とは、児童等に対して、当該児童等が在籍する学校に在籍している等当該児童等と一定の人的関係にある他の児童等が行う心理的又は物理的な影響を与える行為(インターネットを通じて行われるものを含む。)であって、当該行為の対象となった児童等が心身の苦痛を感じているものをいう。

 現在ではこのように定義されていますが、初めからこのように定義されていたわけではありません。例えば、昭和61年度からの定義では、

「①自分より弱い者に対して一方的に、②身体的・心理的な攻撃を継続的に加え、③相手が深刻な苦痛を感じているものであって、学校としてその事実(関係児童生徒、いじめの内容等)を確認しているもの。なお、起こった場所は学校の内外を問わないもの」とする。

参考:文部科学省 いじめの定義の変遷

現在の定義と比較すると、過去のいじめの該当条件が限定的であることがわかります。

現在の定義に照らして考えると、いじめを受けている本人が心身の苦痛を感じてさえいれば、いじめに該当することになります。

例えば、たとえ善意に基づく行為であっても、その行為を受けた児童等が苦痛を感じれば、いじめに該当しますので、注意が必要です。


2.いじめの現状

現状の理解として、いじめの認知(発生)件数を見ていきましょう。

いじめの発生件数推移

こちらは、令和元年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果についてから引用したグラフです。

いじめの認知件数の推移が示されています。H6、H18、H25に波線が入っているのは、いじめの定義が改められたことを表しています。

特に注目すべきポイントは、H25以降にいじめの認知件数が急増していること。

これは、いじめの発生件数そのものが増えたというよりは、定義が変わって、積極的に認知するようになったことが大きな要因です。文部科学省も、「いじめの認知件数が多いことは、教職員の目が行き届いていることの証である」として、いじめを積極的に認知するよう呼びかけています。

学年別いじめの認知件数

こちらは、学年別いじめの認知件数のグラフです。小学校2年生のいじめが最も多く、小6までは学年が上がるにつれて減少、中1で再び増加が見られます。

認知されているいじめの中では、「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」が約6割、「仲間はずれ、集団による無視をされる」が約1割を占めています。(校種によっても多少の差異が見られます)

いじめ認知の課題に、インターネット上のいじめが発見されにくいことがあります。インターネットに書き込まれた誹謗中傷なども、いじめの定義に該当しますが、学校が子供のインターネット利用を監視するのは非常に難しいです。認知されているいじめの態様のなかで、インターネットに関わるものが少ないのは、そういった背景があるからと考えられます。


3.どんな対応ができるのか

いじめに対する主な対応には、未然防止早期発見の2つが大切であるとされています。それぞれについて考えていきましょう。

(1)未然防止

いじめに対する態度

いじめを起こさないためには、全ての児童生徒が「いじめは絶対に許されない、あってはならない」という考えを持つことが重要だと思います。そのためには、人間観、倫理観、生命の大切さなどを時間をかけて養っていかなければなりません。

児童生徒にストレスを感じさせない学級づくり

また、いじめは児童生徒のストレスから発生することがあります。学校としてできることは、児童生徒にストレスを感じさせない学級づくりをすることだと思います。担任の先生は、心地よい居場所としての学級づくりが求められます。

場合によっては、家庭環境がストレスの原因となっていることもあるため、スクールソーシャルワーカーなど専門機関と連携した働きかけが必要になることもあります。

多様性の尊重

クラスには、いろいろな児童生徒が集まるため、自分との違いや多様性を認めることが大切。こうであるべき、こうであってはならないという固定観念を取り払い、自分とは違う個性を認められるような教育をしていく必要があります。これは、グローバル化が進行する現代社会、インクルーシブ教育にも通ずる考え方だと思います。


(2)早期発見

残念ながら、未然防止の対策をとっていても、いじめが起きてしまうことはあると思います。その際、大切なのは早期発見をして、迅速に適切な指導を行うこと。早期発見ができないと、大人の知らないところでいじめが悪化してしまい、重大事態を招いてしまうおそれがあります。


児童生徒理解

いじめを早期発見するためには、児童生徒のちょっとした変化に気づけるようになることが重要です。例えば、「普段は授業に積極的な生徒が、元気がないように感じる」「登校する時間が遅くなる」など、いじめを受けている生徒にこのような変化が見られることがあると思います。

これらの変化に気づくためには、普段の様子を知っておかなければなりません。授業時間以外にも、生徒と関わることは、信頼関係を築くだけでなく、いじめの早期発見にも役立ちます。

※ちなみに、文部科学省は、家庭でのいじめを早期に発見するため、「いじめのサイン発見シート」を配布しています。


定期的なアンケート調査の実施

いじめが発見されるきっかけのほぼ半数は、アンケート調査等の学校の取組によって発見されています。そのため、定期的にアンケートを取ることが重要だと考えられます。

ですが、アンケートを取るときにも注意が必要。アンケートの記入内容が他の人に漏れないように、情報を管理しなければなりません。

もし、アンケートによっていじめがあることが発覚した場合は、早期に聞き取り調査等の対応をする必要があります。

教員の不祥事として、いじめアンケートを紛失してしまったり、アンケート内容を改ざんしたりというニュースを聞いたことがありますが、決してそのようなことがないように、組織的な対応が求められます。


家庭との連携

家庭との連携をすることも非常に大切です。例えば、子供がお小遣いをせびるようになる、お金を持ち出す、帰宅時間が遅くなる、学校に行きたがらない、携帯の通知音に怯えるなどの様子は、学校よりも家庭の方が気が付きやすいもの。

このような情報を学校に伝え、連携していじめに対応していくことも、早期発見に重要な役割を果たします。


4.もし、いじめを発見したら

もし、いじめを発見したらどのように対応すればよいのでしょうか。

大きく分けて、いじめられていた生徒に対する対応、いじめを行っていた生徒に対する対応があります。

(1)いじめられた生徒に対する対応

いじめを受けた生徒は、心のケアが大切です。安全を確保し、学級担任だけでなく、スクールカウンセラー等を活用し、長期的な支援を行う必要があります。

再びいじめを受けることのないように、いじめを許さない学級づくりを再度行うことも大切です。


(2)いじめを行っていた生徒に対する対応

いじめを行っていた生徒が、今度は反対にいじめられることも考えられます。そのため、一定の配慮を行った上で、指導をすることが大切です。いじめの程度によっては、犯罪行為にあたるものもあるため、警察との連携、ほかの児童生徒の学習機会を確保するため、いじめを行った生徒を出席停止にすることもあります。

その他、座席替えやクラス替え、転学の措置なども弾力的に対応すべきとされています。


5.まとめ

心理学の用語に、「黒い羊効果」というものがあります。

黒い羊効果とは、

仲間集団の一員でありながら、集団に馴染めない者を、仲間とは認めず逸脱者として卑下し、排除する傾向

のことを言います。同調圧力に従わない人を排除することです。

いじめが無くならないことの原因として、このような人間の心理的性質があるのかもしれませんが、それでも、いじめを無くすための取り組みを行っていく必要があります。


すべての子供たちが、いじめのない安全な環境で楽しく学べることを願っています。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。