見出し画像

帰京する前に、

今夜、帰京する。
その前に、まず近所の氏神様に、第二種電気工事士の技能試験合格の報告と、家族が笑顔になる、幸せになる、笑える、そんな吉報を実家に持ち帰ってくることが出来ますように、とお願いした。ほんと願うばかりだが、私にはそれしかない。神に願うことしか出来ない。
神社を後にするとポツポツと雨が降ってきたが、私には行きたい処があった。それは初恋の少女の家と才女で実は演劇少女だった同級生の家。実家はほんと何もなく、ずっと家にいたら体がなまってしまうし、第一あまり気分のいいものではない。だから、運動もかねて、うちとは中学校を真ん中に置くと全くの正反対に位置する町内まで行ってみたかったし、前回、記憶を遡って行った後、地図で確認したからそんなに道に迷うことはないと思った。
そして、まず真ん中に位置する中学校に行くとグラウンドでは、野球部が他校との練習試合をしていた。部員が少ないのか、外野に明らかに大人が混じっていたが、内野は少年たちだった。まず思ったのは、体が小さいのと、ピッチャーの球がやまなりで、中学時代、同じ野球をしていた先輩としては、「中学生だとあんなものなのか」と思った。それでも数名、観覧している両親らしき人もいてどこか微笑ましかった。その少年たちの姿を横目に初恋の少女が歩いたであろう、道を歩いた。今度は迷うことなく彼女の家の前まで来れた。家を見るとここには彼女の両親しか住んでいない。傘立てには女性ものはない。両親も私の父と同じで八十代ぐらいだろう。とても静かだ。ほんと中学二年で初めて人を好きになり、シンデレラよりお姫様だった彼女がドラえもんののび太が住むような昭和のしかもこじんまりした家に住んでいることに驚きを強く感じた。
それから、二百メートルあるかないかの処に才女にして演劇少女の家がある。そこまで行く道に迷ったが見つかった。外車のコンパクトカーが停まっていて、今日は外までテレビの音が聞こえてきた。車の他にバイクや自転車があったが子供がいる気配はなかった。彼女もまた嫁いだのかもしれない。なにせ眉目秀麗、才色兼備な人だ。
それから、私は彼女たちが通ったであろう道を歩いた。
初恋詣で、ではあるが、やってることは、今ならストーカーと呼ぶ人もいるし、不審者扱いする人もいるだろう。だが私にとって実家には何もない。気持ちが高揚する場所、喜ぶ場所はない。しかし、初恋の少女の家と才女の家には、どこか思いがあり、私を郷愁の世界に誘う。
そして、こうして今、その想いを書き記している。すくなくとも、今、限りなくピュアな自分が存在する。それは実家に引きこもってテレビを見ていたら、この感情は経験できないのだ。

これで私は今夜、帰京する。このピュアな気持ちをもって、今年、あと135日を前向きに前に進む。昨日の自分と違う今日の自分に、いや、午前中の自分と違う午後の自分になるために、1ミリでも前に。ここに書き記した気持ちだって、家にいたら得られなかったのだから、それだけでも午前中の私と午後、今の私は違う。

実家には、初恋がある。
初恋詣で、けして悪いものではない。もしあなたの実家を見ている人がいたら、初恋詣でをしている人かも知れない。気さくに声をかけて、もしそうなら思い出を共有した学校に行って、遠い昔のあの頃にタイムスリップしてはいかがですか?

一時間強、いい運動になりました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?