見出し画像

エコ旅の思い出 黒い森

シュバルツバルト(黒い森)で見たドイツ国民の暮らし方

 気候変動による地球規模での環境破壊の赤信号が点滅している昨今、環境先進国としてドイツの事例が頻繁に紹介されている。海岸線や原野を無数の巨大な風車が回りつづけ、家々の屋根やビルの壁面、サッカースタジアムの天井屋根をソーラー発電機が覆っている風景は見慣れたものとなった。ドイツ人の勤勉さと緻密さが、京都議定書で定められたノルマを軽々とクリアし、日本では想像できないほどのCO2排出削減を達成しようとしている。科学技術などで日本人と並び賞されてきたドイツ人だからできることなのか? 「ワンダーフォーゲル」や「ハト時計」「温泉療法」などの単語や地方の景観からは別の背景も見えてくる。
 ドイツ南西部、フランスとスイスに接する南北160km東西50kmに広がるシュバルツバルト(黒い森)はドイツ最大の森林地帯だ。中世以前の時代にブナの深く茂る有様が「暗く=(黒く)」見えたことからの地名だという。しかし、この森ほど実際に目にした人と話を聞いただけの人とのイメージのギャップがあるところは珍しい。ツアーに同行した全員からでる言葉は「こんなはずじゃなかった。ここは黒い森というより明るい農村じゃないか・・・」など、その気持ちには安堵感のようなものが含まれていた。日当たりのいい丘陵地帯に小さな村が点在し、村々を繋ぐトレイル(林道)が網の目のように整備されている。村にはたくさんの木骨建築の民宿があり、周辺を散策する人々のために、休憩場所も至るところに用意されている。
トレイルを2本のストックを持って歩いている人たちを多く見かける。これは山登り用のストックではなく、ノルディックウォーキングと呼ばれる全身運動のための道具で、平地で利用されることが多い。重いリュックを担ぐことなく、トレイルを軽快に歩いている姿を想像して欲しい。ノルディックウォーキングを楽しみながら小高い丘を目指した。2時間のエクササイズのご褒美はシュパーゲル(ホワイトアスパラ)とソーセージ。ヨーロッパ最古のソーラー屋根を持つ農家レストランはエネルギーを自給していた。前日訪ねた酪農農家は家畜の糞尿からのメタンガスで発電し電力会社に売電していた。内緒で聞いたが、酪農より収益がいいとのこと・・・。
黒い森の裾野を流れるライン川沿いにはワインの産地が多い。ドイツでは最も日射量の多いバーデン地方のエコワイン農家は、優秀なワインを生産している。ドイツワインというイメージから想像できないパンチのある赤だ。
黒い森を「裏山」とするフライブルク市は緑の街である。環境首都として飛躍するようになったのには森に理由があるのでは。
黒い森と共生してきたドイツ国民のライフスタイルに学ぶべきものは多くはないか。日本の森林面積はドイツに引けをとらない、森林文化の歴史も古い。しかし、都市の住民は身近な森という存在を忘れてはいないか。
地球環境と人心の荒廃が嘆かれる今日、日本人のライフスタイルに森との関りが戻ることで光明を求めてはどうだろうか。そうすれば、循環型社会が見えてくるかもしれない。

374.フライブルク     シュバルツバルトのメルヒャーホフチーズ農場

・・・と書いたのは2007年頃、日本でもFIT制度が導入され、再生可能エネルギーにシフトしたいといううねりができ、福島のおぞましい悲劇が起こる前だった。そして、今は世界中が再生可能エネルギーをメインストリームとして動いているのに、日本はまだ、コロナ禍対策に膨大な予算がかかる今でも、原発関連や防衛費など浪費されているのが悲しい。毎年のように訪ねたドイツを家飲みで思い出す。やっぱり、シュパーゲルとバイツエンかな。

2010年、日本でも流行ってきたノルディックウォーキングを本場で実践した

2010mayドイツNW6

2010mayドイツNW4

画像2

そして、今でもドイツに学びに行く人々は多い。そこで不屈の精神や哲学を感じることができるのは現場の人々との交流によるところが多い。






そんなに長くない残りの人生、これからは、いかに自分が幸運な人間であったかを勝手に伝えたい。たとえそれがささやかな幸せであったとしても、それを誇ることでこれまでの恩人たちに謝意を表したい。