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冬眠していた春の夢 第17話 過去と夢の関係

 お墓参りを終えると、お寺さんのお座敷での会食だった。
 私は名古屋の叔父から遠く、そして、もしかしたら知っている事を話してくれそうな、前の家のお隣の恵子さんの前に座った。
 豊橋での暮らしぶりや、学校の事を聞かれ、それに答えながら、頭の中ではどうやって聞こうかと、その事で頭がいっぱいだった。

 きっと母から釘を刺されているだろうから、直接「ハルちゃん」と言った事について聞いても、誤魔化されるだけだろう。
 その内に恵子さんの面影が、ある記憶と重なった。
 母と手を繋いで砂浜を歩いている風景。隣を歩く神子のような年配の女性と小柄な女性。その小柄な女性と、目の前の恵子さんのイメージが重なった。

 「あの、昔私が全身に湿疹ができた時、どこかの海へ一緒に行きましたか?」
 恵子さんは、すぐにピンときたようだった。
 「そうそう!病院に行って薬を塗っても全然治らなくてね。原因不明だって言われたし、お母さんが困り果てて私に相談してきたの。でね、私の知り合いにお祓いをしてくれる人がいるからって、一緒に行ったのよ。そしてお祓いをしてもらって、その時に美月ちゃんの全身を撫でた榊を海に投げて、振り返らないようにして戻ってきたの。そうしたら、翌日にはすっかり治ってたのよ〜」

 「そうなんですね…。その節はありがとうございました。でも、原因不明って何だったんでしょうね」
 「本当にね〜。たぶん、漆かなんかの葉っぱでも触ったんじゃないかって、子供だから、わからないうちに何でも触っちゃうからね〜」
 「そうですか…」
 「でも、もっと不思議な事に…あ!」
 恵子さんはハッとして、
 「私も10年以上も前の事だから、詳しくは覚えていないのよ〜」と言って、「あら、まだイクラが残っているじゃない」と、寿司桶に手を伸ばした。

 やっぱり私の過去には秘密がある。
 母との間に距離があるのも、あのずっと見てきた夢の意味も、過去に隠されている。

 「美月ちゃんは、おばあちゃんに入信させられなかったのかい?」
 ぐるぐると頭の中で色々な思いを巡らせていると、不意に祖父方の親戚だというおじいさんに話しかけられた。
 「…え?」
 「吉次郎さんは、心から信心していたわけじゃないだろうからねぇ」
 私が急なことで答えられずにいると、もう1人のおじいさんが代わりに答えるように言った。
 「まぁ、そうだねぇ、藤代さんのイキすぎを見守る為だったからねぇ」
 私に声をかけてきたおじいさんも、それに同意した。

 私は、祖父母に育ててもらったくせに、祖父母の事を全くわかっていない自分が薄情な気がして嫌だったから、祖父の親戚のおじいさん達に、知っている事を教えてほしいとお願いした。
 それから祖父方の親戚のお2人が、私が全く知らなかった祖父の人生や思いを話してくれた。

第18話に続く。

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