見出し画像

『どん底』黒澤明全作レビュー&イラスト(17)

お疲れ様です、会社で脇役のvintageです
本作は黒澤映画常連のわき役が活躍する隠れた傑作です!!ラストシーンは強烈なインパクトだ!

ストーリーはこんな感じ(ネタバレあり)

■江戸の場末、おんぼろ長屋にどん底連中たちが暮らしている。中央の居間とかろうじて仕切りのある寝床のほか何もない。扉はがたがたで隙間風
■遊び人の喜三郎(三井弘次)、ほんとかウソか殿様と呼ばれる御家人(千秋実)、アル中の役者(藤原釜足)、夜鷹のおせん(根岸明美)など
■喧嘩っ早い泥棒の捨吉(三船敏郎)は家主の妻の妹のかよ(香川京子)に惚れている
■ある日、お遍路の嘉平(左卜全)が舞い込んでくる。嘉平は物事をよく知っておりクズの集まりだった長屋も嘉平の言動で雰囲気も落ち着いてくる。
■大家の妻お杉は捨吉の情婦であり、嫉妬からかよを折檻、逆上した捨吉は大家の六兵衛を突き飛ばしたら死んだ
■役人が駆け付けるとかよは、姉と捨吉が共謀して義兄を殺したと絶叫する。結局捨吉とお杉はお縄となる。その騒ぎの中で嘉平は姿を消した。
■長屋はいつものように酒と博奕に明け暮れバカ騒ぎの馬鹿囃子になる。そこへ殿さまが駈け込んでくる。役者が首を吊って死んだという。
喜三郎は「せっかくの踊りをぶち壊しやがって」と吐き捨てる。

ここからレビューです、、、
ほぼ室内劇であり、大スペクタクルのドラマ性はないので
あまり人気のない一作だと思いますが、いやいや傑作ですよ~
コメディタッチの群像劇であり洋画だとロバート・アルトマンの映画の雰囲気があります。

私は会社ではすっかり脇役ですので、最近は映画を見ていても脇役に感情移入してしまいます。黒澤映画といえば三船敏郎ですが、三船敏郎になれるはずもなく、、、、カッコいいとはおもいますが天井過ぎて自分に置き換えて考えられないですね。その点この『どん底』は黒澤映画常連のわき役が大活躍するという一本で親しみがわくのです。

原作はゴーリキーの同名の小説、それを江戸のおんぼろ長屋を舞台にして映画化しました。ここの連中はとにかく貧乏でクズばかりw
遊び人、妄想癖のある夜鷹、がんこじじい、盗人、売れない役者、、
一応主役は盗人の三船敏郎、元情婦の山田五十鈴、あとは妹のかよの香川京子と山田五十鈴の旦那役の中村鴈次郎です。ただ彼らスター俳優もこの世界の中では脇役なのです。そこでグイグイと出てくるのが左卜全演じるお遍路の嘉平です。お遍路の嘉平はどうみてもしょぼくれた爺さんなのですが色々知識豊富、落ち着いた話術でクズ連中を落ち着かせいつのまにか頼られる存在になります。この左卜全は黒澤映画に何本かでているみるからにお爺さんな役者で、本人も相当変わった人らしいです。wikiに詳しく書いてありますが読んでいると笑ってしまいます。このお爺さんがこの映画の中では切れ者にみえてくるから不思議です。

この映画の香川京子はかなり好きですね、もともと可愛い顔立ちなのでお嬢さん的な役のイメージがありますが、黒澤映画では本作、『悪い奴ほどよく眠る』『赤ひげ』とちょっと変わった役が多いです。本作では可愛い顔をして図々しい逆転行動にでます。

そしてなんといっても三井弘次です。戦前はスター俳優だったのですが戦後は個性派バイプレーヤー。この映画では終わりぐらいまで誰が主役かどうかはっきりしません、一応三船敏郎と山田五十鈴の痴話げんか、中村鴈次郎の死というメインストーリーはありますがクズ連中のグダグダ話が間にはさまるのでまさに群像劇です。
それがラスト1カットだけで三井弘次が主役になるのです。長屋ではラップのようなバカ囃子のどんちゃん騒ぎをしています、そこに役者が首をくくって死んだと知らせが入ります、そこで悲しむどころか正面を向いて
「せっかくの踊りをぶち壊しやがって」と一言、そこで映画はぷつっと終わります。なんというハードボイルドな!

現代でいうと雰囲気は哀川翔さんに似てますね、とにかくクールで飄々としている。

本作は万人にお勧めはできませんが、変わった群像劇が好きな人は楽しめると思います

ではでは

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?