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一目惚れしたラブドールを一週間で手放した話。【前編】

※本記事は至極健全な内容となっておりますが、人によっては不快な表現が含まれます。あらかじめご了承ください。

【前編】【後編】に分かれていますが、どちらかだけ読んでも問題ありません。
↓↓ラブドール到着後の出来事は【後編】へ↓↓

ぷろろーぐ

東京で非常事態宣言が発令されてから数日………いや、数か月後だったか。私は極度のストレスに苛まれていた。社員の与り知らぬ間に行われた会社の方針転換や社員への杜撰な対応、一貫性のない発言や指示、慣れないテレワーク、いつ終わるとも知れぬ残業、その他もろもろ。それらを普段の娯楽では発散しきれなくなった私は、新たな癒しを求めてネットの海に溺れていた。


しかし、一時の清涼剤になれこそすれ、行き場無きストレス対処の根源的解決には程遠い。一日の大半を暗く淀んだ部屋で過ごしながら虚ろな目で日々を過ごしていたのだった。

邂逅

zoomでの空虚な終礼を終え、夕食がてらまとめサイトを流し見していた私は偶然ラブドールのスレッドに流れ着いた。以前までであれば「無用の長物」程度の認識でしかなかった私だが、心が荒んで疲弊していた事もあってか妙な興味と好奇心に駆られた。スレッドを最後まで読み終えると、早速別タブで検索。トップに出て来た販売代理店サイトを覗いた時、衝撃を受けた。アニメ顔からテンプレ洋物顔までバラエティーに富んだラインナップ、そして適度に無機質さを残した造形の美しいドールの数々。
ふつくしい………

すっかり魅せられた私は、好奇心の赴くまま商品ラインナップの閲覧に熱中していた。そんな折、ある一枚の宣材画像が目に留まった。それは、薄手のワンピースを着た童顔のドール♀がこちらを向いて座っているものだった。容姿と体型が好みだった事もあり、すぐさま商品ページに飛んで他の写真や説明欄を凝視する事数分。人生の癒しを求めていた私は、すっかりこの華奢なドールに魅了されてしまったのだった。

浮上する問題達

彼女が部屋にいれば仕事も楽しくなるかもしれない。いや、そうに違いない。性的な事をする気は全く無いが、椅子に座って作業風景を見守っていて欲しいな。うん、そうしてもらおう。

脳死状態でそう思いながら購入ボタンにマウスを置きかけるが、かろうじて残っていた理性が制止させた。そう、少し冷静に考えれば安易にラブドールをお迎えする事が如何に愚かな考えかは分かりきっているからだ。

一番の問題はお値段である。彼女達は身体を生身の人間に近付けるために様々な趣向を凝らして作られており、当然その分のコストを考慮した値段設定となっている。少し調べてもらえばわかると思うが、おおよそ私の様な安月給人間が気安く買えるような代物ではないのである。

次に問題となるのが、マメなメンテナンスの必要性だ。後から分かった事だが、身体の大部分がシリコンやTPEと呼ばれる特殊な素材で出来ている彼女達は「オイルブリード」と呼ばれる全身から油がしみ出る怪現象が発生する。そのため、定期的に洗ったりベビーパウダーを全身にまぶしたりして身体を清潔に保たねばならない。

最後の問題はメッチャ場所を取る事だ。商品に多少の差異はあるものの、彼女達のサイズは実際の人間とほぼ同じ大きさなのである。加えて、ドールの着替えやメンテナンス道具等も合わせて考慮すると、おおよそ一人暮らしの部屋に置いていい代物ではない。そう、本来ラブドールは金と部屋を持て余したおっさんの道楽なのだ(超偏見)

苦悩と決断と

どうするか悩んでいた時、どこかの誰かがこんな事を言っていたのを思い出した。
「欲しいと思ったら3日間、時間を空けて考えろ。3日が経ち、それでもまだ欲しいと思えるならソレは本当に自分が欲しいものである」

値段が値段だけに、これに倣って一旦保留する事にした。
しかし、そう簡単に切り替えられないのが人間の性。翌日も翌々日も仕事中の脳裏に浮かぶ、あのドール。正直欲しい、いやしかし……。そんな脳内問答を繰り返しながら悶々としている間に三日が過ぎた。まぁ当然欲求が静まる事も無く、悩みに悩んだ末に出した答えは「迎え入れる」だった。

準備

そうと決まれば善は急げ。終礼を終え、いそいそと以前見た商品ページへ行き宣材画像を再確認。うん、相変わらず可愛い。改めて性癖にブッ刺さった事を確認し、肌の色やウィッグ等のオプションを入念に確認。何度か見直した後、深呼吸をして購入ボタンをクリックした。

「ふぅ…」

買ってしまった。注文確定メールを見ながら、ふつふつと若干の後悔が湧いてくる。当然だ、決して安くない買い物なのだから。しかし大丈夫、俺は間違っていない。そう言い聞かせながら買い物に出た。

帰宅後、ハンバーガーを頬張りながら迎え入れの準備に取り掛かる。前述したメンテナンス用品や着せる服を物色・選定作業。翌日の朝一に入金を済ませ、メンテ方法や他に必要/便利な物・知識がないかネットで調べながら、彼女との生活に思いを馳せた。

待っている時間というのは、もどかしさと期待が入り混じった一種の興奮状態が続くもので、この時ばかりは大嫌いなテレワークも若干いつもより頑張れた気がした。

まさか、あんな惨状になるとは夢にも思わずに。

【後編】へ続く

#創作大賞2022

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