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アスリートと生理100人プロジェクト VOL.6 :引退したからこそ気がついた、選手ファーストなクラブに助けられた競技生活

「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げる株式会社Reboltが企画する「アスリートと生理100人プロジェクト」。日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。

7人目のゲストは、元バレーボール選手の栗田楓さんです。現在23歳になる栗田さんは2020年の10月に現役を引退。高校卒業後すぐにバレーボール選手として実業団に加入し、5年間を現役選手として活動してきました。バレーボール選手ならではの生理の悩みなど、様々な切り口からお聞きしました。

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栗田楓。元バレーボール選手。1997年生まれ。東京都出身。
共栄学園高校出身。春の高校バレーでは最高成績3位。高校卒業後、群馬銀行グリーンウイングスにて2016年から2020年までプレー。ポジションはセッター。2020年秋に現役を引退。

欠かせない毎日の鉄分摂取

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ー栗田さんはバレーボール選手として2020年10月までプレーされていました。生理による身体の不調や悩みを抱えた経験はありますか

もともと、生理がくること自体が遅くて安定していませんでした。その関係で、生理痛が重い時に貧血のような症状で体調が悪くなる時は多々ありました。ですが、小学校や中学校で行われる定期的な健康診断では貧血と診断されず…。実業団に入って血液検査を受けてから貧血に気付きました。

ー貧血…なるほど。貧血は生理の周期の中でどの時期が一番症状が重いですか

生理前ですね。いつもの何倍にも体が重くて、コンディションも悪い。プレーの不調にも繋がっていましたね。

ーつらいですね…その状態でも練習をしていたのでしょうか

そうですね。周りの選手も、生理への理解はあっても、貧血や生理痛の強弱は人それぞれ。なので、完全に理解してもらえるわけでもありませんでした。気合いでどうにかしつつ、ロキソニンや痛み止めでごまかしながら過ごしていました。

ー薬を飲まれていたんですね

チームで血液検査をするようになってから、貧血に関わる部分の全ての数値がスポーツ選手としては全然足りてないと言われ、その時から鉄剤を飲むようになりました。普段から朝晩に鉄剤を飲むようにして、貧血とうまく向き合っていました。

ー鉄剤は生理の期間だけ飲んでいるのでしょうか

毎日です。鉄剤すべてに言えるのか分かりませんが、私が飲んでいた物は便が硬くなったり便秘ぎみになったりしてしまいます。もともとはデトックスが良いほうでしたが、貧血に特化した治療の時期は便秘になってしまって。もともとの体質とのギャップも激しくて、つらかったですね。

ー練習や試合のモチベーションにも関わってきそうですね

そうなんです。月経のサイクルがある時点で、ただでさえ大変じゃないですか。なので、かなりきつかったですね。

選手ファーストなスタッフの存在

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ー実業団に入られてから貧血が分かったとのことですが、それまではずっと貧血の症状がある中で我慢していたのでしょうか

正直、自分は貧血ではないと思っていました。肺活量や心拍数が上がるトレーニングなどをしているときでも、「みんなこれくらい疲れるのが普通」と思っていたのですが、周りから見たら私だけ顔が青ざめている状況で(笑)トレーナーに貧血なのではないかと言われ、病院に行きました。

ートレーナーさんの一声で病院に行ったのですね。

同じ頃、各選手に定期的に通う病院を作る動きがチームで行われ始めました。例えば、選手が毎回同じ産婦人科の先生に見てもらったり。そのような環境を作っていただいていたので、私含めチームのみんなが治療や現状を把握することができ、とてもありがたかったです。

ー他の選手の生理の症状はどのような症状の方がいらっしゃったのでしょうか

バレーボールは身長が大きい人から小さい人まで体格に差があります。私がいたチームでは、一番大きい人が184cm。一番小さい方で155cmあるかないか。それだけ体格が違う選手が一緒にやっていると、経血量や生理痛のひどさ、お腹が痛い・腰が痛いタイプとか、色々なパターンの選手がいました。

ー各選手、どのような対処をしていましたか

私のチームでは、ピルの使用を選択する選手が多かったです。

ーピルの使用は、産婦人科の先生の指導で使い始めた方が多かったのでしょうか

トレーナーさんと密にコミュニケーションが取れる環境を、トレーナーさん自身作ってくれていました。トレーナーさんは男性でしたが、毎日の体調の報告が当たり前に行われていたので、生理前の体調不良や生理痛などの相談をしていたんです。その中で「産婦人科に行って、ピルの服用について聞いてみたらどう?」であったり、「ピルを服用して生理と上手く付き合っている人も多いから、産婦人科で相談してみたら?」などの提案をしてもらったという流れです。

ーなるほど。

例えば、「体脂肪が落ちすぎて生理がきていないんです」「生理前で体調が悪いです」「生理中で生理痛がひどいです」なんてことも報告できました。

ーなんでも相談できるのですね。

月に1回ほど栄養のことや食事サポートなどについて、講師の話を聞く勉強会もありました。自分の身体のコンディションや生理のことなど様々な情報を教えていただいていて、そこに男性スタッフも同席して一緒に理解してもらっていましたね。

ーそのような環境作りはクラブの運営側の方針なのですか

いつもスタッフが選手ファーストに考えてくれていて。ケアや私生活や身体のことについて、どうすべきか・なにをすべきかを考えてくれていました。そこから、スポンサーの方に相談して了承を得つつ、チームに考えを反映させて環境作りを進めてくれていました。

ースタッフの方々の考えが反映されていたんですね

私のチームのスタッフは、長年バレー界で生きてきて、色んなレベルのチームを持った経験のあるスタッフが集まっていました。なので、色んなことを知っていて、選手の為のケアや身体のこと、私生活をどうすべきかまで絞り出してくれていました。

今、私が引退して思うのは、選手任せにしているチームが、ちょっとでも選手ファーストな考えになったら、絶対プラスに働くんだろうなと。金銭的に難しいこともあるとは思いますが、女性アスリートの寿命が伸びたり、アスリートとして競技に没頭できると思う。選手の気持ちからしたらサポートが手厚いのは安心ですし、ありがたいです。

ー栗田さんが所属されていたチームが、ロールモデルのような形でマネしてくれるチームがでてきたらいいですね。アスリートは知識がなかったり、どのように記録したらいいか分からないことも多いと思うので、チームがサポートしてくれると助かりますよね。

本当にそうですね。入りたての18歳の頃は、チームがやってるからやる感覚だったのですが。でも、スタッフと連携を長い間とっていると、自分の身体を自分で知ることの大事さを分かるようになりました。

ー自分の身体を自分で知ることの大事さ…

そのように考えられるようになったのも、スタッフの環境作りがあったからだと思います。

丈の短いユニフォームと生理用品の相性の悪さ

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バレーボールのユニフォームはとても丈が短いですよね。ユニフォームのデザインによって生理時に悩んだ経験はありますか

ユニフォームの短さは怖かったですね。ユニフォームの短パンの下にもう一枚スパッツを履いて見えないようにケアしている選手は多かったです。

チームの中だと、夜用のナプキンを使う選手もいました。経血の量が多い悩みを持つ選手は、特に大変そうでしたね。私は経血の量での悩みはあまりありませんでしたが、動いたときにの横モレが怖くて...。その対策としても、スパッツを履くこともありました。

ー周りの選手はナプキンとタンポンどちらを使用している方のほうが多いですか

ナプキンだと思います。私のチームはVリーグのディヴィジョン2、男子サッカーで表すとJ2にあたるリーグに所属していましたが、他のチームの仲が良い選手とも生理の話をすることがありました。その中で、経血の量で悩んでいる選手はタンポンとナプキンの併用をしていました。

試合中はトイレに行くことができない中で、経血の量の悩みが無かった自分でさえ怖かったので、普段から経血の量に悩んでいる選手は特に心配だと思いました。

ーバレーのユニフォームは他競技と比べても特に短いですよね

サイズを間違えるとお尻が出ることもあり、本当に危ないです(笑)観客との距離が近いのでたまたまパンツラインやお尻が見えたり、脇から下着が見えることもありますね。

ただでさえデリケートな部分があるので、バレーボール選手は生理を気にしている選手が多いと思います。


「結婚したら引退」に少しでも疑問があるなら――。

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ーReboltは「ジェンダーのアタリマエを超えていく」をビジョンに掲げています。これは、代表2人が女子サッカー界・女性スポーツ界に身を置く中で「女の子だから」「女性だから」と選択肢が制限されたり、表現の自由を奪われることが多いと感じてきた経験から生まれています。最後の質問になりますが、栗田さんの中でバレーボール界・女性スポーツ界で感じた「ジェンダーのアタリマエ」はありますか?

私がバレーボール界にいたから感じることなのかもしれませんが、妊娠・出産・結婚したら競技は終わりのような風潮があって。"結婚したら選手は引退する”流れがなんとなく強い気がします。もちろん決まってる訳ではないとは思います。実際に結婚されても続けている方、出産されたあとに戻ってきて現役でやられている方もいますが、本当にごくわずかで。

私が引退して思うのは、少しでも選手ファーストという考えが増えれば、女性のアスリートの寿命が伸びたり、アスリートとして競技に没頭できたり、プラスに働くのではと。

ーなぜ結婚したら引退だと考えているのでしょうか

私のチームはケアが厚かったので、食事管理などもしてもらっていました。選手である間は選手寮に住んでいて、そこからは出られないと思っていました。なので、結婚したら引退するのが自然であると感じていたのだと思います。

男性のサッカー選手などは結婚してお子さんもいて、そこから10年から15年ほど、レジェンドでしたら何十年も選手を続けていきますし、それが普通になっていると思います。女子バレーボール選手で、結婚を機に引退したいと考えているのであれば良いのですが、もし「もう少しできるのにな」などと思っている方がいたら、私は引退してしまうのがもったいないなって思いますね。

----------編集後記----------


「自分では貧血だと思っていなかったのに貧血だった」

周りの環境のおかげで、自身が貧血だと気付くことができた栗田さん。「トレーニングだから疲れるのは当たり前」と思わずに、周りのチームメイトの些細な変化にも気づき合える環境が理想ではないかと感じました。

また、栗田さんのチームの選手にとって救いとなったのは、トップチームに匹敵するほどの充実した選手のサポート環境と、「学ぶ姿勢と選手ファースト」の考えを持つスタッフの存在だったのではないでしょうか。

生理そのものに対する悩みが無くても、ユニフォームの形状によって悩みが生じるケースがあることも分かりました。華麗にプレーする姿の裏には想像以上の苦労があるということも、多くの方に知って欲しいです。

(編集:仮谷真歩)

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