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アスリートと生理100人プロジェクト VOL.9 :WEリーグの成功にも繋がる「アタリマエ」を作っていくということ

「ノーノーマル」を掲げるReboltが、世の中に存在する「ジェンダーの当たり前」に問いかけるべくスタートした「アスリートと生理100人プロジェクト」。

日々挑戦し続けるアスリートは、生理とどのように向き合ってきたのか。そのリアルな声を、生理で悩む人たちへの解決策・周囲がサポートするきっかけへと繋げることを目的としています。

第9回目となるアスリートと生理100人プロジェクト、11.12人目のゲストはWEリーグINAC神戸レオネッサに所属する後藤三知選手、スペイン2部リーグAEM Lleida(ジェイダ)に所属する羽座妃粋(はざひすい)選手です。

女子サッカーは2021年9月、日本初のプロリーグWEリーグが始まります。そのWEリーグに所属するINAC神戸レオネッサに、スペインリーグのチームから今季移籍した後藤選手。そして、2019年までINACに所属したのち、スペインリーグで活躍する羽座選手。(※今回のインタビュー後、羽座選手のINAC神戸レオネッサへの加入が発表されています。)

世代別・フル代表どちらにも選ばれた経歴のある女子サッカー界のトッププレーヤーならではの視点からお話をお聞きします。

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また今回は「アスリートと生理100人プロジェクト」が生まれた100banchが主催する“ナナナナ祭”に参戦。普段はZOOMにてオンラインでインタビューを実施していますが、今回は特別出張版として公開収録&生配信を行いました。

会場に足をはこんでくださったお客さんは、男性の方や小学5年生の女の子、子供に性教育を行なっているママさんなど様々。イベント後の質疑応答の時間も、生理へのタブー感が全くない状態でオープンにお話ができました。

それぞれがスペインに渡ることを決断した理由

ー後藤選手は2017年から羽座選手は2019年から、それぞれスペインのクラブに所属していました。お二人とも日本のトップリーグでプレーしていた中で、スペインに渡ることを決めた理由を教えてください。

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後藤選手:私は、サッカー選手としての挑戦、そしてもっと広い世界を見てみたいという気持ちで行きました。

浦和レッズレディースに8シーズン在籍していて、入団当初の2009年と2014年に優勝を経験したのですが、そういった中で「選手としての幅を広げたい」「自分の知らない世界に飛びこんでプレーを磨いてみたい」と思う気持ちが生まれたのがきっかけです。

また、小学生のころにアメリカ遠征をしたことがあって。初めて日本の外に出たときに自分の中の世界がすごく広がった経験をしました。いつか遠征ではなくて、その国で生活をしながらサッカーをしたい、海外に行ってチャレンジしたい、そういう気持ちは当初からありましたね。

ー羽座選手はいかがでしょうか?

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羽座選手:私も元々海外でサッカーをしたい考えはありました。日本の選手とは体格が全然違う海外の選手と対峙してみたい気持ちがあって。INACのシーズンの途中にオファーを頂いて、スペインに行くことになりました。

ただサッカーの部分だけでなく、文化や考え方の違いなど、サッカーを辞めたあとのキャリアの部分でも幅が広がっていくだろうと思っていたので、色々なことを学びたくて決断しました。

ースペインを選択したことで良かったことや後悔したことはありますか?

後藤選手:私がスペインに渡ってからの4年半、もちろんその前からですが、スペインリーグは変化していく4年半でした。日本と同じくスペインも今年、本格的にプロリーグになるので、その過程を現地で経験できたのは大きなことだったと思います。

羽座選手:私も後悔したことは特にありません。プロリーグになるにあたって一部のチームがボイコットをして賃金などの環境を良くするための行動を起こしていて。日本ではなかなかないような、海外と日本の違いなどを身近に感じられたのはとても新鮮でした。

スペインでは生理に対して自然とオープンになれた

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ースペインで「生理」に関するカルチャーショックや価値観の違いに触れた経験はありますか?

後藤選手:生理を扱う仕組みには違いがありました。スペインでも日本と同じように選手間での「今日生理だからお腹痛い」などのコミュニケーションはあります。

ただ、スペインでは生理だけではなく日々の変化をチームに報告する手段としてアプリが取り入れられていました。それによって日本にいるときと比べて、仲間にはもちろん、同じ目的で集まっているチーム全体に対してオープンになれていたと思います。


ー日本では「チームメイトには話せるけど、指導者には恥ずかしい」などの話も耳にしますが、スペインでは誰に対してもフランクに話すのですか?

羽座選手:日本だと男性のスタッフには話しにくいなどがあると思いますが、私のチームでは全然ありませんでした。女性が気にせずに話すので、男性も受け取りやすい環境ができていたのかなと思います。

私のチームもアプリで管理する仕組みがあり、「生理何日目か」「経血量」「身体の調子」などを管理するのが男性のスタッフだったことも、気軽にコミュニケーションを取れる理由のひとつだったのかなと。

ー指導者と選手もフランクに話すのですか?

羽座選手:そうですね。私のチームは生理のことなどさまざまなことを話します。日本に比べて選手と監督の距離感が近くて、監督に対してフランクに意見することは多かったですね。どんな場面でも自分の意見を言うのが当たり前である環境だったと感じました。


ー普段の生活から、選手と指導者・スタッフの関係がオープンだからこそ、生理の話ができる空気があるのですね。

後藤選手:はい。さらに、生理に対して「お手洗いに行く」くらい誰にでも起こる自然なことのように扱っていて、特別視していないようにも感じました。なので、普段のコミュニケーションの流れで生理のことも話せるのかなと。

羽座選手:日本ではまだ、生理は怪我などと比べて軽視されがちだと思うのですが、生理が重い人はプレーに影響がでてきます。スペインでは生理についてしっかり受け入れてくれる環境があったので、とてもありがたかったですね。

ースペインはアプリによる生理の管理をいち早く取り入れていますが、理由は何だと考えていますか?

後藤選手:生理がどれほど体調に影響を与えるかなどの、目に見えない部分をデータ化して、目に見えるようにするためだと私は感じました。

例えば、背中にGPSをつけて走行距離を確認するのと同じですね。目に見えないからこそ、どのようにして見えるようにするか。もちろんデータが全てではない前提ですが、少しでも情報を増やすことができるからではないでしょうか。

ーお二人のチームでもアプリを使用されていたとのことですが、実際に生理が重い選手がいた場合、チームの対応はあったのですか?

羽座選手:別メニューにするのか、休むのかなどを指導者や監督に言いやすい環境作りはありました。生理のことに限らず怪我もそうですが、実際に練習を100パーセントできる状況でなければ指導者や監督に伝えていましたね。


生理不順、疲労骨折...選択肢のひとつとしてピルを

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ー生理に関する経験についてお伺いします。そもそも、これまでに生理に対して悩んだ経験はありますか?

羽座選手:私は生理不順と生理痛に悩まされたことがありました。

高校時代は生理がこないこともあったのですが、そのときは知識がなくて「生理がこないと楽だ」と感じて放置してしまうことも多かったです。

しかし講義で、「生理がこないと女性ホルモンが分泌されず疲労骨折にも繋がる可能性がある」などと、怪我にも影響がでることを早い段階で教えてもらいました。そのあとはピルを服用して生理がくるようにしたり、生理痛がとひどいときは早めに痛みどめを飲んだりするようにしましたね。

生理の悩みについては根性論でどうにかするのではなく、しっかり自分と向き合う必要があると思うので、今でも付き合い方を模索しています。

ーピルを使用して良かったことや困ったことはありますか?

羽座選手:日にちをずらすことができるので、試合があるときにこないようにできるのはメリットだと思いますね。

身体が浮腫みやすくなるなどの副作用に関しては、個人によって異なると思いますし、ピルにもさまざまな種類があるので、一概に全てのピルをおすすめすることはできません。ですが、ひとつの選択肢としてピルがあれば良いなと思います。

ー後藤選手はいかがですか?

後藤選手:私は高校時代から親元を離れて寮生活が始まって、それと同じ時期くらいに生理不順になりました。個人差はあると思いますが、環境が変わるタイミングだったからですかね。

産婦人科では「スポーツ選手によくあるタイプだね」と言われ、ホルモンの塗り薬などを使用していました。

ーホルモンの塗り薬があるのですか?

後藤選手:私も初めての経験だったのですが、ホルモンの数値を安定化させる塗り薬だそうです。スポーツの選手も扱っている産婦人科の選手だったのですが、なるべく生理がくるようにと、塗り薬を出してくれました。

生理不順のときに疲労骨折も経験してしまったので、ちゃんと自分の身体も知っていかないとだめだなと思いましたね。

現役選手がWEリーグ成功のために求めること

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ー今年の9月、日本で初めての女子プロサッカーリーグWEリーグが開幕します。後藤選手が所属されているINAC神戸レオネッサもWEリーグに参画しますが、今後プロリーグのクラブで選手として活動するにあたり、生理に関する問題については向き合っていかなければいけない問題なのではと思います。その点、お二人はリーグやクラブに求めているサポートはありますか?

後藤選手:まずは「WEリーグ」をより多くの人に知ってもらうことかなと思います。今後、目指してもらえるようなリーグにすることがWEリーグの成功に繋がると思うので。

そして、WEリーグに所属する私たち選手や関係者の方によって良い環境を作っていけるはずだと考えています。まさに生理に関しても、WEリーグとしてアクションを起こすことで、あとに続く世代の環境も変わっていくと思っています。

私たちはスペインでの経験がありますが、まだ生理に関して分からないことが多い男性のスタッフも多いはずです。そこで生理を特別視せず、自然なこととして話題にすることで、自分たちがこれからの環境を変えていけると思います。

リーグやチームに頼るだけでなはく、必要なことがあれば自覚を持ってやっていけたら良いですよね。

ー具体的にリーグやクラブに起こして欲しいアクションはありますか?

後藤選手:先日WEリーグ主催の研修が行われたのですが、その中で産婦人科の先生から生理やコンディションの話を聞かせて頂きました。そこで専門家の方から「いつでも相談を受けますよ」と伝えられて。

このような知識を得る環境や相談できる場所が、アップデートされながら継続されていくことが今望むことですね。

ーなるほど。

羽座選手:私は、今回のような機会を頂いてようやく生理のことを発信することができました。つまり、まだまだ発信しにくい環境があったり、言いづらいと悩んでいる方も多くいるのだと思います。

なので、今回のように話している機会をより多くの方に認知して頂くことが重要であって、それこそ経験がない男性の指導者にも理解してもらうための環境作りが大事だと思います。


自分たちの活動が「アタリマエ」を作っていける

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ーアスリートと生理100人プロジェクトは、「ノーノーマル」を掲げるReboltが、世の中に存在する「ジェンダーの当たり前」に問いかけるべくスタートしたプロジェクトです。これは女子サッカー界や女性スポーツ界にいる中で、「女の子だから」「女性だから」という「ジェンダーのアタリマエ」で選択肢が制限されることが多いと感じてきた経験から生まれたビジョンです。

今回、女子サッカー界を引っ張り続けてきているお二人から、女子サッカー界や女性スポーツ界の「ジェンダーのアタリマエ」があれば、ぜひ教えてください。


羽座選手:やはり「出産」があると思います。女性は子どもを身籠るとその間はアスリートとして活動できなくなりますよね。アスリートの選手生命は長いものではなく、とはいえ引退後に出産になると遅くなってしまう。

そうした中でチームのサポートや仕組みが当たり前になっていくと、出産の悩みも踏まえてアスリートが長く活躍できるかなと思います。


ー「アタリマエ」を問題として見ず、新しい「アタリマエ」を作る視点ですね。後藤選手はいかがですか?

後藤選手:先日WEリーグの研修で、なでしこジャパンが2011年に優勝するまでは「サッカー=男子サッカー」が当たり前だったと聞きました。そのあとなでしこが活躍することで、わざわざ「男子」サッカーとつける必要が出てきて。

この話を聞いたときに、「確かに」と感じました。でも、なでしこジャパンが優勝する前から、いろんな方に女子サッカーを支えて頂いて、優勝を機により多くの人に知って頂いた流れがあって。

このこと自体が当たり前を変えたひとつの例だと思います。

ーさまざまな方の支えがあったからこそ、なでしこジャパンの優勝がひとつのアタリマエを変えたのですね。

私が生まれ育った三重県の鈴鹿市では、週末にサッカーをしたくても女子が11人集まらない環境で、「女の子がサッカー?」と言われる経験をしてきました。

それからなでしこジャパンが優勝したことで女子サッカーが日本の中で当たり前になって、女の子が伸び伸びとサッカーできる環境を作るきっかけになったという意味でも、ひとつの結果が当たり前を変えるという経験をさせてもらったので。

自分たちの活動によって新しい当たり前を作っていける可能性があることはすごく素敵なことだと思いました。

イベント当日の様子はこちらの動画にてお楽しみください。
「アスリートと生理100人プロジェクト特別出張 公開収録&LIVE配信」

--------編集後記--------

生理の扱い方はもちろん価値観が全く異なるスペインで過ごしてきたお二人。WEリーグの発展や成功についても現役選手からお話を聞ける貴重な機会でした。

生理や出産など、すべて含めて当たり前になったら良い。そしてその当たり前は自分たちが作っていける。女子サッカーが当たり前になる瞬間を実際に経験されてきたからこそ言葉に重みを感じました。

サッカー界を引っ張っていくお二人、そしてWEリーグの発展に今後も目が離せません。

(編集:仮谷真歩)

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