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【RS05】何気ない日常にドラマを見出すピアノ弾き語りSSW・渡辺みちる

都内のライブハウスを中心に、ピアノ弾き語りで活動しているシンガーソングライター・渡辺(わたなべ)みちる。あるときは哀愁を漂わせ、またあるときは温かみのあるサウンドを奏でる彼女のバックボーンを探ってみたい。

自分の存在意義を求めて、音楽の道へ

幼いころからピアノを習っていた渡辺。小学校から高校までは、吹奏楽部でトランペットを吹いていた。歌に目覚めたのは中学生のころだ。

「『どうせ生きていくんだったら、人の役に立ちたい。誰かに必要とされたい。少しでも自分の存在意義を見出したい』と思って。ほら、中学生って病んでるじゃないですか」と、渡辺は笑いながら当時を振り返る。

「そのころから作詞や作曲をしていたので、『これで生きていきたいな』と。別に芝居や絵でもよかったんでしょうけど、たまたま歌っていたから、シンガーソングライターを目指しました」

尊敬しているアーティストを訊くと、映画『ゲド戦記』の挿入歌『テルーの唄』の作曲などで知られる谷山浩子や、サザンオールスターズの原由子の名を挙げた。

「姉がよく聴いていたこともあって、小学生くらいからずっと好きで。めちゃめちゃ病んでる歌が多いんですけど、だからこそ惹かれたというか」

幼いころから音楽に触れてきた渡辺が、シンガーソングライターを目指したのは必然だったのかもしれない。筆者が言うと、渡辺も頷いて、

「谷山さんも原さんも、ピアノの弾き語りのシンガーソングライターなんですよね。だから私も『ピアノ弾き語りをしよう!』と決意してはじめたわけじゃないんですけど、やっぱり、感化されたんだと思います」

高校卒業後は、本格的に音楽を学ぶべく、専門学校へ進学。サウンドクリエイティブ能力を磨き、着々と知識を蓄えながら、ライブ活動や楽曲制作に取り組んだ。彼女の武器は、安定した歌唱力と、思わず口ずさみたくなるようなキャッチーな歌詞、心に残るメロディーだ。

音楽活動は順調だったが、専門学校の卒業を期に、一年間休止することを決める。「ただライブを繰り返すだけの日々に、本質を見いだす事ができなくなったんですよね」と渡辺は遠い目をする。

代わりに「今までやったことのないことをしよう」と考えた彼女は、単身で岐阜県へ赴き、住み込みのバイトを始めた。

「生まれてからずっと実家暮らしだったので、いきなり見知らぬ土地に身を置いて、知らない人ばかりの環境で、何ができるか試したかったんです」

そこで渡辺が感じたのは、人々の温かさ、つながりだった。

「周りの人はみんな優しく迎え入れてくれました。私が音楽やってることを言ったら、『歌ってよ』と言ってくれたり。今では、第2の故郷になってます」

一面の銀世界のなかでギターを弾き語るなど、東京ではありえないような経験もした。岐阜の地で感じたこと、考えたことは、彼女の音楽観に大きな影響を与えた。

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何より、活動を休止して改めて『ライブをすることの大切さ』に気づいたという。

「休止中も楽曲は作り続けていたし、歌っていたけれど、やっぱりお客さんを前にして歌うのは全然違います。それによって自分の表現が成長していくので、場数を踏むことは大事なんだと分かりました」

専門学校時代の同級生たちの変貌ぶりにも刺激を受けた。

「私も私なりに実のある時間を過ごしました。けれど同級生たちは、たった一年間で大きく変わっていました。頑張っていた人は頑張っていたなりに、シンガーソングライターとして成長しているのを目の当たりにして、『私もやらなきゃ!』と思ったんです」

何気ない日常に潜む『ありがたさ』を歌いたい

現在は月に2、3本ほど、都内を中心にライブを行っている渡辺。レパートリーとなっているオリジナル曲は30曲以上あり、その3分の1は活動休止期間に作ったものだという。

作詞作曲、アレンジまで自分一人でこなしており、特に力を入れているのは『歌詞』だ。

「自分の気持ちから派生してできる曲もありますし、周りを観察して作る曲もあります。例えば道行く人を見て、『どこへ向かっているんだろう』『これから何をするんだろう』『普段はどんな暮らしをしているのかな』と妄想して、勝手にストーリーを考えて、曲にすることがありますね」

渡辺のオリジナル曲には『素敵なステーキ』『肉じゃがの匂い』『チョコチップクッキー』など、食べ物を題材にしたものが多い。タイトルこそ少しコミカルだが、誰もが共感できる日常の切なさを描いたバラードや、甘いラブソングなど、共感しやすい歌詞とメロディーが印象的だ。

「専門学校時代に『素敵なステーキ』を作って、ライブで歌ってみたら、同期や先生の受けがとても良くて。『これは狙い目だ』と思って、同じコンセプトの曲を増やしました」

渡辺のSNSを見ると、定期的に食べ物の写真が上がっている。食べることが大好きな彼女だからこそ、そうした着想を得られるのだろう。

何気ない日常に潜む幸せを歌いたいという渡辺。「当たり前すぎて気づく事のできない『人の温かさ』や『食事ができる素晴らしさ』、色んな物事のありがたさを伝えていきたいですね」。日ごろから細やかに周囲を観察し、些細なことまで深く考える彼女ならではだ。

「たくさんの人に、私の歌を聴いてもらいたいです。小さな子どもからお年寄りの方まで、幅広く聴いてもらえる歌だと思っています」

今後の目標を訊ねると、「まずは、もっと精力的にライブ活動をしていくことですね。ちゃんとしたCDも制作したいです。いつか、自分の書いた曲がNHKの『みんなのうた』に採用されたらいいな」。

日常の出来事や食べ物を題材にした、共感しやすい歌詞の楽曲群は、『みんなのうた』にピッタリである。彼女の歌声が、可愛らしいイラストとともにテレビで流れている様子が、容易に目に浮かぶ。

最終的な目標として掲げているのは、日本全国を巡るドームツアーである。「これはずっと昔から変わりません。どんなに叶わなそうな夢でも、言ってやろうって決めてます」。

アーティストなら誰もが目標とする大舞台。高みを目指す渡辺の歩みは、まだ始まったばかりだ。

text:Tsubasa Suzuki edit:Momiji

INFORMATION

2019.11.20(水)shibu-LOW presents 『Soul love vol.28』
【会場】駒沢STRAWBERRY FIELDS
【Open/Start】18:30/19:00
【前売/当日】¥2,000/¥2,300(各ドリンク別)
【出演】イタガキアラシ/木村夏月/246(日曜夜更かし倶楽部)/緑川真菜/宮田崇寿/渡辺みちる ※みちる出演は20時~

2019.12.13 (金)赤羽Enab
2019.12.30 (月)DOMe柏
2020.01.05 (日)水道橋words
 and more...

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