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【SSW09:WORKS】誰もがイメージできる『普通』のメッセージを歌い上げる

ギター弾き語りシンガーソングライター・yamathan。彼の曲作りへのこだわりと、20年6月にリリースした1st EPの内容を訊いた。

石の中に眠る魂を解き放つような曲作り

『yamathan』という芸名は、大学生時代からのあだ名だ。

「元々英語が好きですし、留学も意識していたので、外国の方にもちゃんと読んでいただけるスペルにしました。『ヤマサン』『ヤマタン』どちらで呼んでいただいてもいいです」。

綴りが全て小文字なのは、「その方が綺麗だから」と言う。

「何についても、こだわりが強いんですよね。物心ついたときから『俺は絶対に正しい』と意地を張って生きてきました。価値観が変わった感覚はありません」。たとえるなら、植木の剪定だ。「この枝いらないな、と思ったら切って、残った枝で今日まで来ているんですよね」。

そんな彼の根幹にあるのが『普通』に対する考え方である。

「昔から、地味なものが好きなんです。背伸びもしません」。

彼曰く、『普通』には完全性がある。

「『普通』のものを『最高』だという人はいませんが、『最低』だと否定する人もいません。圧倒的多数から一定の評価を受けている、『みんなが同じことを感じている』という個性なんです」。

そんな彼が作る楽曲のコンセプトは「誰ものためにあるみんなのうた」。誰にでも言えるような普遍的なことを、少しだけドラマチックに歌っている。

「僕の曲作りは、彫刻に近いんです」。コード進行を思いついたら、それに合う歌詞が出来上がるまで弾き続ける。「歌詞をほじくりだすまでギターを弾き続ける、っていう表現がしっくりきます」。

「彫刻家のミケランジェロを知っていますか? 彼は自身の行為を、石を彫って形を作っているのではなく、石のなかに眠る魂を解き放っているんだと語ったそうです。実際、晩年になって目が見えなくなっても、作品を彫ることができたという逸話もあります。僕は彼の考え方に感動したんです」。

まさにその好例と言える楽曲が、1st EPのなかで最も再生回数の多い『アナタノハナシ』だ。「『アナタノハナシ』は、もっとあっけらかんとポップな曲になる予定でした。客観的に見て出来もよかったんです。でも『何かがおかしい』という違和感が拭えなくて、コードを弾き続けていたら、ある日、今の形がでてきました。二段階で彫った曲ですね。だいぶ削りました」。

「話をきいて!」というサビの歌詞が印象的なミドル・ナンバーは、切なくも微笑ましくも聞こえる。「タイトルをカタカナにしたのもこだわりです。ちょっとメンヘラっぽいでしょう?」。

彼が今後、どんな楽曲を掘り出してくれるのか、期待したい。

1st EP 『living』について

20年6月17日にリリースした1st EP『living』は、制作に先立って固めたコンセプトがある。

「最初は『Kitchen』ってタイトルにしようと思っていたんです。派手ではないけれど足りなくもない。確かな生活感があって…」と、彼は語る。

「『今、自分ができる最大限をやろう』という気持ちは料理に似ています。カレーが食べたい気分だけど、わざわざ材料を揃えるために買い物へ行きたくはない。冷蔵庫に入っている食材だけで、さぁどうしようか、って。そんな風に『背伸びはしないけど、持っているものは全部出すぞ』と、一人暮らしのキッチンで料理をするような気持ちでアルバムを作り始めたんです」。

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しかし、制作を進めるうちに、楽曲が成長していった。

「それぞれがメッセージ性を帯びてきて、『これに「Kitchen」は合わないな』と思うようになりました」。

そんな折、『星海』をシングルカットして先行リリース。「ギターとボーカルを録って、残りは打ち込みで、自分ひとりで全ての音を決めて整えました」。リリース後、友人知人に感想を求めたところ、一人から「電話で話せるか?」と返事が来た。

「海外のアーティストの音源のミキシングやマスタリングを担当している、プロのエンジニアの方です。彼に『録っている音自体はすごくいいのに、惜しい」と言われました。『もし音源を送ってくれたら、俺なりに手を加えてみるよ』と。試しにお願いしたところ、仕上がりがまったく違って、聴きやすくなっていたんです」。

yamathanは目を輝かせる。

「自分の名刺代わりになる最初のアルバムだから、完璧に、良いものにしたい。だから、彼にディレクションをお願いすることにしました」。

他にも多くの人の意見を取り入れ、楽曲をブラッシュアップした。

「ギターを録りなおして、アレンジも変えました。単純に練習したので、練度も上がっています」。

そうして収録されたアルバム版の『星海』には、サブタイトルがついている。『-song for all livings-』。直訳すれば「すべての生きとし生けるもののための歌」だ。

「僕は『誰ものためにある歌』と意訳しています。シングル版を聴いてアドバイスをくれたみんなへ、『みんなからのアドバイスを全部つめこんで改善したよ』という感謝をこめてつけました。そのとき、『アルバムのタイトルも『living』にしよう』と思いついたんです」。

こうして『beginning of usual day』からはじまり『星海 -song for all livings-』に終わる、全6曲のEPが完成した。「夜の曲で終わって、朝の曲ではじまるのがこだわりです」。

たしかに今作は非常にシネマチックである。穏やかで爽やかな幕開けから、物語性の豊かな4曲が展開し、イントルードを挟んでの『星海』で大団円を迎えるのだ。

「『path to the star ocean -intrude-』は、文字通り『春の雪』から『星海』へ繋ぐために書き下ろした曲です。他の楽曲のレコーディングの最中に閃いて、23時半に家へ帰り、1時半に作り終えました。アレンジャーさんにも『このIntrudeはいい仕事してるね』と褒めてもらえて嬉しかったですね」。

yamathanの世界観が味わえる贅沢な一枚、ぜひ通して聴いてみてほしい。

text:Momiji

INFORMATION

毎月第4火曜日夜 「yamathanのOpen Mic」
[会場] 東中野ALT SPEAKER(東京都中野区東中野1-25-10)
[料金] 観覧者:¥1100+DRINK(税込)演奏者:¥1650+DRINK(税込)
[出演]「皆さま」とyamathan

2020.06.17発売 1st EP『Living』(6曲入/¥1,222)

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