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【R21:STORY】ひとの「生き様」を切り撮る・ 浅香郁絵

都内を中心にフリーカメラマンとして活動している浅香郁絵(あさかいくえ)。バンドのライブ撮影をはじめ、プロフィール写真や、七五三などの記念写真の撮影も請け負っている。彼女が写真を撮り続ける理由とは何か。

写真好きな子どもが、カメラマンの仕事を始めるまで

神奈川県川崎市出身の浅香郁絵は、芸術に関心を寄せる子どもだった。

「姉はふたりとも頭がよくて、進学校に通っていましたが、私は勉強が苦手でした。音楽と美術だけは好きで、それなりの成績がとれました」。

とりわけ、写真を撮ることに興味があった。

「物心ついたころには、使い捨てカメラで遊んでいた記憶があります。小学5年生のときには、親が、私専用のカメラを買ってくれました。サンリオのキャラクターがついた子ども用のカメラで、色んなものをバシバシ撮っていました」。

その後、本格的な一眼レフカメラを買うといった行動には至らなかったものの、修学旅行などのイベントでは積極的に写真を撮っていた。

高校を卒業する際には、進路の一つとして、カメラマンを考えた。

「大学に行くか、カメラの専門学校に行くか、迷いました。でも当時は遊びで撮っていただけだし、周りの意見もあって県内の大学へ進学しました」。

大学では、ウェブデザインを専攻した。

「Adobe Photoshopなどの画像編集ソフトの扱い方を習ったり、『みんなで雑誌を作ろう』という授業では、学校の一眼レフで写真を撮ったりもしました。大学で学んだことは、今の活動にも活きています」。

卒業後は一般企業へ就職。写真は趣味として続けていたが、社会人2年目になるころ、転機が訪れる。

「お金に余裕ができたので、ずっと気になっていた一眼レフを買ったんです」。

とはいえ購入直後は、スナップ写真を撮ったり、旅行先で記念写真を撮るぐらいだった。

「『他に撮れるものがないかな?』と考えたとき、もうひとつの趣味の『音楽』が思い浮かびました。実は、中学生くらいから、ライブハウスに入り浸っていたんです」。

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(浅香が撮影した、FeelAroundのライブ写真)

だが、彼女はあくまで観客であり、バンドマンたちと直接のつながりをもってはいなかった。考えた末に、SNSを通じて撮影対象を探すことにした。

「Twitterで自分をフォローしてくれているバンドを見つけて、『ライブ写真を撮らせてもらえませんか?』とDMしました」。

彼女が声をかけたのは、都内で活動していたロックバンド・雨鳥(アマドリ)だった。

「『ぜひ撮ってください』とお返事をいただいて、初めて撮ったのが、下北沢RéGでのライブでした」。

こうして2016年秋、カメラマンとして活動開始。以降、一ヶ月に一回ほどのペースで撮影を重ねた。徐々に横の繋がりが増え、様々な人からライブ写真やプロフィール写真の撮影を頼まれるようになった。

「一年くらい経つと、仕事として、報酬をいただけるようになりました。そのあたりから、意識が変わりましたね」。

活動を始めて3年ほど過ぎたころには、カメラマンと撮影依頼者をマッチングする仲介サイトに登録。保育園のスナップ撮影や七五三の記念撮影など、音楽関係以外の仕事も請け負いはじめた。

人物撮影以外のジャンルにも挑戦した。

「カメラマンとしてどうしていきたいか分からなくなった時期に、スキルアップを兼ねて、静物写真や商品写真の撮影をやってみました」。

プロカメラマンのアシスタントとしてスタジオに入り、ライティングなどに携わった。

そこで、新たな気づきを得る。

「物撮りが苦痛すぎたんです。今なら理解できるけど、当時は『光をこうしたらこうなるんだ!』なんて感動しなかったし、全然面白くありませんでした。『私は、写真を撮ることで人とコミュニケーションするのが好きなんだ』と気づきました」。

音楽関係を中心に、好きなものを撮り続ける

現在は都内を拠点に、フリーカメラマンとして活動している浅香。担当する案件の半分以上は、ライブハウスでの撮影だ。

「やっぱり音楽関係が一番好きだし、撮っていますね。最近は、マッチングアプリやお見合い用など、プロフィール写真のご依頼も増えました。ご時世柄かもしれません」。

どのような方法で依頼を受けているのだろうか?

「ライブ撮影の場合は、会場で『僕らも撮ってください』と声をかけてもらうことが多いですね。あとはTwitterやInstagramでDMをもらったり。プロフィール写真の場合は、仲介サイト経由や紹介がほとんどです」。

ライブ撮影においては、同じバンドを撮り続けることにこだわっている。

「自主企画に必ず呼んでくれるバンドとか、ライブをするたびに声をかけてくれるバンドとか、本当にありがたいです」。

それは、写真のクオリティに大きく関わると言う。

「動いている演者を綺麗に撮るのは大変です。長く同じバンドを撮ることで、演者の癖や、曲のキメ、照明の感じなどが分かってきます。回数を重ねるほど良いものが撮れるし、楽しさも倍増するんです。バンドと一体になる感じで、最高に気持ちいいですね」。 

初めて撮影するバンドは、事前に音源を聴いて予習している。

「『カッコいい写真が撮れるのは、そのバンドがカッコいいからだ』と、いつも思っています。私の写真を見てくれた人が、『このバンドカッコいいな、音源聞いてみよう、ライブ行ってみよう』ってなってくれたら、嬉しいですね」。

バンドだけでなく、ソロの弾き語りアーティストや、アイドルを撮ることもある。「特にアイドルさんは難しいですね。歌って踊って、バンドより激しいんじゃないかな」。どのような形態であれ、相手の人柄と音楽に向き合うことを大切にしている。

プロフィール写真や記念撮影でも同じだ。

「撮影に慣れていない人が多いので、しっかりコミュニケーションをとって、自然な表情を引き出せるように工夫しています。特に、お子さんの撮影は気を遣います」。

七五三のシーズンには、一日に三件以上の依頼が入ることも珍しくない。

「たいていのお子さんは、撮った写真を見せてあげると、緊張がほぐれますね。人見知りをする子の場合は、親御さんの了解を取ったうえで、望遠で撮ったりもします」。

撮りためた写真は、主催するライブイベントや個展、SNSなどで発表してきた。また、一般販売しなかったものを含めると、これまでに5冊の写真集を制作している。

今後の展望を訊ねると、「あんまり変わらない気がします」。

「5年後、10年後の自分って、うまく想像できません。ただ、写真を撮っていることに変わりはないと思います。技術面ではパワーアップしていたいですが。特に、ライブ写真は、体が動く限り撮っていたいですね」。

カメラマンとして生計を立てることより、自分の生きやすい環境で、好きなものをたくさん撮り続けることを重視している。

「私の好きなミュージシャンのひとりに、永原真夏さんがいます。彼女の『あそんでいきよう』という曲を聴いて、好きなことを好きと言い続けていいんだなって、とても感動したんです。」。

好きなことだけで生きることは難しい。年を重ねるごとに「自分はこれでいいのか?」と疑問をもつことも増えた。それでも一度きりの人生を、自分らしく生きたいと考えている。

「常に、今を大事にして生きています。今が楽しければ、未来もよくなると思うので」。それゆえに、過去への後悔は一切ないと言う。

「その時その時、悩むことはたくさんあるけれど、結局は自分で選んだ道を進んでいるからでしょうね」。

彼女のキャッチコピーは『ひとの生き様を切り撮ります!』だ。

「ライブ写真でも、プロフィール写真でも、絶対に、ひとの生き様が表れるものですから」。

自分の人生を大切にしている彼女だからこそ、撮れる写真があるのだろうと思った。

text:Momiji photo:TAMA

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