見出し画像

【R33:WORKS】昔ながらの良さを大切にしながら、新しく開かれた「書道」を目指す

国内外での展示やライブパフォーマンスなどで活躍している書道アーティスト・遼太郎(りょうたろう)。彼が東京2020応援プログラム芸術祭『25th OASIS 2020 Osaka & TOKYO』へ出展した代表作『響動(どよめき)』や、書道への思いを聞いた。


代表作『響動』と、書道アーティストとしての矜持

遼太郎の代表作は、東京2020応援プログラム芸術祭『25th OASIS 2020 Osaka & TOKYO』へ出展した『響動(どよめき)』だ。

「これを書いたのは、芸術祭に応募する数年前、19歳ぐらいのときです。『響』という漢字が好きなので、自分にとって『ザ・書道』と呼べるような作品にしたいと思いながら制作しました」。

力強くも優美な線は、まさに振動する空気を写しとったかのようだ。

「筆の持つ魅力、『とめ』『はね』『はらい』や独特のかすれの味わい深さを、沢山の人に見てほしいです」。

『響動』という字を『どよめき』と読ませるところにも、面白さがある。

「僕の作品は、実在する漢字や熟語を書くだけじゃありません。字体もそうですが、既にあるものを発信するなら、他の人と同じですから。基礎を踏まえつつ、自分の書きたいように書くことが、僕だけの正解です」。

書道アーティストには、『書く』技術はもちろん、卓越した国語力が必要になりそうだ。「読書などをされるんですか?」と訊ねたところ、彼は「哲学書が好きです」と笑った。

遼太郎のこだわりは、彼自身の衣装や髪型にも発揮されている。これまでの展示会やイベントで着用した衣装は、岡山県井原市の青木被服株式会社に特注したものだ。

「ONE OK ROCKのTAKAさんのライブ衣装を制作したり、パリやミラノでメンズコレクションを発表したり、国内外で高く評価されている『井原デニム』のブランドです。視覚的なカッコよさはもちろん、新しさと伝統を感じさせる衣装を作ってもらっています」。

書道アーティストとして、作品はもとより、自分自身も憧れられる存在になりたいと語る遼太郎。次はどんな活躍を見せてくれるのか、期待したい。

アナログの良さを残しつつ、新しい景色を探求する

「もし、生まれたときからずっと、スマホやタブレットしか触らない世界になったら嫌だな。つまんないと思うんですよね」と、遼太郎は語る。

そう言われてみると、編者は様々な道具を使いながら成長してきた。生まれて初めて文字や絵を書いたときは、親に与えられたクレヨン。小学生になると鉛筆、中学生になるとシャープペンシルやボールペン。漫画家に憧れてGペンと墨を買った時期もある。

それらの道具を使うことで、表現自体はもちろん、クレヨンを舐めて「不味い」と顔をしかめたり、シャープペンシルの芯を繰り出す「カチッ」という音で切なくなったり、墨の匂いに懐かしさを覚えたり、五感への刺激を楽しんでいた。

しかし、パソコンとスマートフォンを手に入れてから、様子は一変した。お絵描きソフトを使えば、モノクロもカラーも自由自在。文書を書きたいときは、ワードアプリであっという間。今や、自分の手でメモを取ることすら少なくなった。その代わり、自分の身体に残るのは、無機質な機械の感触だけだ。便利さと引き換えに失ったものは大きい。

遼太郎は頷いて、「AIが作った文章やデジタルで作られた文字には、感情がありません。手書きの文字ならではの表現、僕にしか書けないものを追求していきたいです」。

とはいえ、デジタル技術を使わないわけではない。

23年6月3日、下北沢DYCUBEにて開催されたライブイベント『蒲田めい×犬塚モブ企画【雨のち太陽】』では、題字を揮毫。半紙に墨で書いた後、スマートフォンのアプリで着色している。

「主催者の一人である蒲田さんから、イベントへの思いなどを聞いて制作しました。背景は窓ガラス越しに見える雨の風景を、文字の色は雨上がりの夕焼けをイメージしています」。

他にも、自身の書を使用したタオルやポスター、マグカップなど、様々なグッズの制作に取り組んでいる。「よりよい活動をしていくために、色んな技術を使いたいと思っています。伝統的な技法も、デジタルも」。

遼太郎にとって、書道とは「メッセージを投げかけること」だ。

「文字と言葉でしか表現できない世界を、色んな人に楽しんでほしいです。なんとなく僕の書を見て、『カッコいい』とだけ思ってくれるだけでも、こちらの世界に引きこめているので。細かいことは、分かる人は分かってくれると思うし、見る側の自由でもあります」。

彼は小学生のころから書道を習い、何度も展示会に参加するなかで、思ったことがある。

「『世界で最も著名な能書家』と呼ばれる王義之や、『日本書道の礎を築いた一人』とされる空海の書を見ても、何が書いてあるか分からないんですよね。僕たちみたいに書道を学んでいる人間はまだしも、一般の方々は『迫力あるな』とか、全体像でしか見られなかったりします」。

それは、書かれた時代が古いという問題だけではない。現代の書道家の作品でも、同じような状態に陥りがちだ。『書道』は自己満足の側面が強い、と遼太郎は感じている。

「僕は『こういう字が書けて凄い』とか、『自分がこれを見てほしい』ではなく、ちゃんと内容を伝えたいと思っています」。

書道界のなかだけで受け継がれる空気や文脈に、閉じこもりたくないと語る。

「個展で僕の書を見てくれた人が『この文字に救われました』とか『元気をもらいました』とか言ってくれたとき、本当に嬉しかったです。これからも、ちゃんとメッセージを伝えられる書を残していきたいです」。

書道に詳しい人も、そうでない人も、ぜひ一度、遼太郎の書に触れてみてほしい。

text:Momiji

INFORMATION

Instagramにて、作品などを公開中!

関連記事


お読みいただき、ありがとうございます。皆さまからのご支援は、新たな「好き」探しに役立て、各地のアーティストさんへ還元してまいります!