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【R05:MUSIC】ユニットごとに異なるコンセプトを描く、多彩なギターと音楽

露木達也とvo.藤田俊亮(ふじた・しゅんすけ)のデュオ『Mauve × Dew(モーヴ デュー) 』。ハーモニカ奏者の倉井夏樹(くらい・なつき)、行川さをり(なめかわ・さおり)とのデュオやトリオでの演奏活動。それぞれの詳細を訊いた。

スポーツ観戦のように楽しむ『Mauve×Dew』の音楽

大阪を中心に活躍しているボーカリスト・藤田俊亮。露木と彼がデュオを結成したのは、藤田が横浜を拠点としていた13年ごろのことだ。「『ふたりでやってみたら?』と、知人に勧められて結成しました。当初は、お互いに乗り気ではありませんでしたね」。

藤田と露木は、性格も音楽性も正反対だ。露木いわく「藤田さんは大阪出身ということもあって情熱家だし、南米の人みたいなストレートさがあります。ロックやソウル、サルサなどをメインフィールドとしていて、ブラジル音楽はやっていません」。一方の露木は繊細で、ブラジル音楽を中心に演奏している。

「水と油みたいなふたりで、最初は全然息が合いませんでした。でも、相手のやっていることに興味があったから、今日まで続いてきました。僕がアグレッシブについていくことがあれば、藤田が静かなところから攻めてくることもあります」。

今夏に発売したアルバムは、普通のアーティストのコンセプトとはまったく違うところから出発している。「6年間ふたりでやってきたセッションをそのまま形にした感じです」。

一般的なレコーディングでは、メトロノームを使い、パートごとに別々の部屋で録音をするのが普通だ。音がねじれた部分を1秒だけ録り直したり、ピッチを修正したりもする。しかし今作は一つの部屋で、メトロノームを使わず、歌とギターを同時に録音した。

「綺麗に録ったライブ盤みたいなものですね。ちょっとした完成度より、僕ららしい作品にしたかったんです」と露木は振り返る。「いつも『どう演奏するか』を決めないでライブに臨んでいるので、『こう』と決めて録ったら全然違うものになってしまう。それは面白くないと思いました」。

「僕らは『作品を通じて誰かに何かを伝える』ということより、その時の感情を込めて、その場のお客さんと一緒になって、一筆書きのような音楽をやることに意味を見出しています」。ふたりが普段からチャレンジしている部分を注ぎ込んだ一枚になっている。

『Mauve × Dew』は、今後もライブの現場で展開していく予定だ。「関東はもちろん、藤田が拠点にしている大阪をはじめ、地方のライブハウスや店でも熱を伝えていきたいですね」。

どんな人に聴いてほしいですか?と訊ねたところ、露木はいたずらっぽく笑った。「楽器を演奏することが好きな方、特にセッションが好きな方。それと、スポーツ見るのが好きな方にもおすすめです。格闘技とまではいかないけど、時に喧嘩しているような音楽なので、エキサイトしたい人にぴったりだと思います」。

プロのセッションギタリストとセッションボーカリストがせめぎあう様子を、スポーツ観戦のように楽しんではいかがだろうか。

懐かしくて聞きやすい、場の空気を作るような音楽

ハーモニカ奏者の倉井夏樹と露木がデュオで演奏するようになったのは、19年になってからだ。「同じ地域に住んでいて、名前はよく聞いていたんですが、一緒にやる機会がなくて。たまたま知人の紹介でセッションできたのがきっかけになりました」。

倉井は普段、シンガーソングライターやブルースの奏者と演奏することが多いため、露木がメインフィールドとする南米音楽に関心を抱いた。一方の露木は、彼のポップさに惹かれた。「ジャズのプレイヤーは、いろんな角度からのアドリブを曲に込めるというような、難解な方向に行ってしまいがちです。夏木くんのアドリブはシンプルだからこそ面白いです」。

ブラジル音楽ではクロマチックハーモニカを使うことがほとんどだが、倉井はブルースハープ奏者である。「ブルースハープの良さは説得力です。キーは限られているし、やれることは少ないですが、シンプルに歌った時の説得力がすごい」と露木は語る。

「特に彼は、メロディを吹くのがすごく上手いんです。楽器奏者がメロディを奏でるだけで人を感動させるのは、なかなか大変です。アレンジをこだわったり、難しいことをやってようやく歌に近づけます。でも夏木くんはシンプルな演奏で、歌と同じかそれ以上のニュアンスを出せるんです」。

ハーモニカ奏者として器用な人は大勢いる。サックスやフルートのように器用な楽器も多い。それでもあえて『倉井のハーモニカ』と演奏するのが楽しいと露木は言う。

「彼も湘南に住んでいるからか、人間が穏やかなんです。温和で心地いい。その人柄が音楽にも出ています。風や太陽のような人で、一緒にやっていて僕が癒されるくらいです」。

ふたりが奏でるのは、心にじんわり入っていくような明るい音楽だ。「カフェが好きな人、静かにしているのが好きな人に合っていると思いますね。半分は演奏を聴きつつ、半分は物思いに沈みながら楽しんでほしい」。露木がソロ活動で表現したいと思っているものの延長線上にあるという。

『そっと手の中に』には、露木と倉井のオリジナル曲を一曲ずつと、国内外の民謡のカバーなどを収録している。一見、まったく関係ないような取り合わせだが、それぞれの歌心が詰まった、まとまりのある作品だ。「ぜひ手に取って、気軽に楽しんでほしいですね」。

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(Photo by いわいあや)

同作にゲストボーカルとして参加している行川さをりとは、『spor(スポール)』というデュオでも活動している。ノルウェー語で『軌跡』という意味の言葉だ。「彼女の独特な声を生かした音楽をやっています」。

「ボサノヴァは南米の音楽ですが、ヨーロピアンなお洒落さがありますよね。ジャズにも、曖昧な、アンニュイなものがある。そういうのを感じさせるライブをやっていきたい」と露木は言う。

「ちょうど最近、北欧のインテリアを集めたカフェでライブをしたんですが、今後はさらに『コンセプト』を強めた活動をしたいですね。音楽自体に空気感があって、部屋がその色に染まってしまうような演奏をしたい。特にsporでは、アンニュイで曇り空な音楽をやりたいと思っています」。

ユニットごとに様々なカラーを魅せる、露木のギターと音楽から目が離せない。

text:Momiji

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