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【RS08】共感を呼ぶ「声」のアーティスト・下町金魚

下町金魚(したまちきんぎょ)の名で活動するアーティスト・池田愛唯(いけだ・あい)。様々なサポートミュージシャンとともに歌い、2月にはミュージカルへの出演を控える彼女の来歴と、表現活動への想いを聞いた。

「声」への尽きぬ興味

「結構マニアックだと思うんですけど、小学生のころ、いつもカセットレコーダーを持ち歩いていたんです」と、愛唯は笑顔で振り返る。

「いつも聞いている『自分の喋っている声』と、『録音された自分の声』の違いが面白くて。学校はもちろん、外へ遊びに行くときもレコーダーを持っていました。友達と山登りしながら、お喋りを録音して、あとで聞き直して笑っていたこともあります」。

幼いころから『声』に興味を持っていた愛唯。とはいえ、生まれも育ちも福井県の片隅で、芸能界などはテレビの向こうの遠い世界だと感じていた。

中学校では吹奏楽部へ所属。それから高校、短大と、8年間サックスを嗜んだ。

「高校生のころ、演劇やミュージカルに興味を持ちました。本当は、そういう方面の学校に進学したかったんですが、親に言えなくて。せめて音楽に関わる仕事に就きたいと考えたとき、サックスをやっていたこともあって、『楽器を直す人になろう』と」。

岐阜県の大垣女子短期大学音楽総合科へ進学した愛唯は、管打楽器リペアコースにて、サックスやフルートを整備する技術を学んだ。

だが、入学してすぐに「違う。これは私のやりたいことじゃない」と感じてしまった。幸い、学内には様々な種類の音楽の授業があったため、楽器の奏法やポップスの歌を学ぶなど、有意義に過ごすことができたという。

卒業後は地元に戻って就職。「そのころ、やっと自分のやりたいことが分かったというか、『声を使った仕事がしたい』と強く思いました」。平日は地元の会社で働き、毎週日曜日に大阪の声優養成所へ通う生活を始めた。

しばらくして、愛唯の小学校時代からの幼馴染であり、シンガーソングライターとして活動している女性から連絡が来た。

「私のライブでコーラスをやってくれない?」

それは愛唯にとって、初めて人前で歌う機会となった。

「彼女との活動を通じて、ミュージシャンの知り合いが増えていきました。みんなから『愛唯ちゃんはもっと歌をやればいいのに』と言ってもらって、その気になっていったんですよね」。

地元で働きながら、週一で大阪の養成所へ通い、たまにライブへ出演する生活を3年ほど続けたころ、愛唯は決意する。

「声優養成所の東京校へ移ろう、と。やっぱり東京の方がレベル高いだろうし、そこで勝負をしてみたいと思いました」。

たまたま、愛唯の勤め先の本社が横浜にあった。上司に自分の夢を相談し、出向願いを提出したところ、スムーズに受理してもらうことができた。

「会社の人は本当に応援してくれて、ありがたいです。いまも変わらず、その会社で働いています」。

温かい世界を描く『下町金魚』の誕生

2017年に上京した愛唯は、一年間、声優養成所の東京校に通った。

「とんでもなくレベルが高かったです。同じクラスの子たちの実力という面でも、授業内容という面でも。『私はついていけないな』と感じてしまいました」。

しかし愛唯は、行き詰ってはいなかった。

地元にいたころ、彼女の生活圏内にはボイストレーニングスクールがなかったため、本屋で見つけた教本を頼りにひとりでトレーニング行っていた。UVERworldのTAKUYA∞、May J.、Mr.Childrenの桜井和寿など、多くの一流アーティストに信頼されているボイストレーナー、佐藤涼子氏の著書だ。

彼女の技術を受け継ぐ直弟子から学べるボイストレーニングスクールが中目黒にあると知った愛唯は、「せっかく上京したんだから行ってみよう!」と足を運んだ。

そこで「それだけ歌えるなら、もっと歌うべきだ」とアドバイスを受ける。

同時期、かつて地元でライブ活動をしていた幼馴染と再会。彼女は愛唯より3年早く上京し、プロを目指して音楽活動をしていた。

「『ユニットを組んで歌ってみようか』という話になりました。彼女がギターで、私が歌で。『幅広い世代の人に親しみやすい曲を作って共有したい』『温かい気持ちになってもらいたい』という想いを込めて、ユニット名は『下町金魚』にしました」。

17年9月、ユニット結成にともなって、愛唯は声優の養成所を退所。歌をメインとしたアーティスト活動にシフトした。

しかしユニットとしての『下町金魚』は、半年ほどで解散してしまう。

「相方が『もう音楽を辞める』と言ったんです。『ずっと頑張ってきたけど、全然なにも変わらないし、他の夢に目覚めちゃった』と。『じゃあ仕方ないね』って、喧嘩とかはせず、円満に解散しました」。

18年3月からソロでの音楽活動をスタートした愛唯だが、『下町金魚』の名はそのまま使い続けている。理由を訊ねると、彼女は「単純に気に入ってしまったので」と微笑み、小さく付け加えた。

「もしかしたら、いつかまた相方が『一緒に音楽をやりたい』と言ってくれるかもしれないから。今はお客さんとして、よく私のライブに来てくれているんですよ。WEBのデザインなどのお仕事をがんばっているみたいです。私はいつでも待っています」。

協力者たちと作り上げていく音楽

上京してから作詞作曲をはじめた愛唯。最初は相方と二人で楽曲を作っていたが、解散してからは独学で努力を重ねてきた。歌詞とメロディを同時進行で作り、ボイスレコーダーに録音して繋ぎ合わせることが多いという。

これまでに作ったオリジナル曲は9曲。代表曲を訊くと、「お客さんに好評という意味では『乗り越えて』ですね」と答えてくれた。

爽やかなミドルテンポのメロディに、「乗り越えて 乗り越えて 乗り越えていく」というタイトル通りのサビの歌い出しがキャッチ―で、編者も非常に好きな曲だ。「相方と解散した時の悔しさを詰め込んで書いた曲です」と愛唯は語る。

『乗り越えて』は、19年9月に発売した2nd CD『恋を忘れた君へ』に収録されている。ちなみに、CDの装丁は、福井県の印刷会社に勤める実姉が担当。音源だけでなく、見た目もクオリティの高い作品に仕上がっている。

弾き語りが苦手な愛唯は、ユニット解散以降、毎回サポートミュージシャンを頼む形でライブ活動を続けている。

「最初は伝手が全然なかったので、ボイストレーニングの先生に『サポートミュージシャンの方を知りませんか』と相談しました。すると、先生の昔からの知り合いである松本けんじさんを紹介してくださって」。

埼玉県春日部市にてMazGuitarSchoolを運営し、アーティストのサポートやバンドでのライブ等を軸に活躍している松本氏。現在は下町金魚のライブでサポート演奏をするだけでなく、楽曲のアレンジやレコーディングにも参加している。

「松本さんに他のミュージシャンや演奏場所を多数紹介していただいたおかげで、繋がりが横に広がっていって。いまはすっかり音楽漬けの日々を送っています」。

2018年には島村楽器主催のライブコンテスト・HOTLINEのショップライブを勝ち上がり、神奈川静岡エリアファイナルへ出場した愛唯。現在は月3-4本ほど、北参道周辺や横浜市戸塚区、春日部市のライブハウスや野外イベント等へ出演している。「下北沢あたりのライブハウスにも出てみたいです。活動場所が広がっていくといいですね」と、彼女は目を輝かせた。

彼女の透き通った歌声は、真っすぐだが強すぎず、普遍的だが個性があって、どこか懐かしく心地よい。もし編者が通行人であれば、きっと足を止めるし、一度聴いたら忘れないだろう。ぜひ、読者の皆さまにもライブを見ていただきたい。

歌も芝居も楽しめる、ショーのようなライブがしたい

2020年2月22、23日には、横浜丘の手ミュージカルスタジオの一員として、オリジナルミュージカル『不思議の森の三日坊主』へ出演する愛唯。

「声優の養成所を辞めたあと、趣味としてミュージカルをはじめたんです。元々興味があったし、自分のシンガーソングライター活動にも生かせたらいいなって」。

劇団四季出身の岡本隆生氏が主宰するスクールには、子どもからシニア世代まで70人以上が所属しているという。

「今回のお芝居は、子どもがメインキャストを務める冒険活劇というか、ファンタジーというか、ちょっとしたロマンス要素もあったりして、涙あり笑いありの面白いお話です。私は、主人公の男の子の育ての親である叔母の役で、ちょっと恩着せがましいおばちゃんを演じます」。

愛唯が人前で演技をするのはこれが初めてだ。「来てくださる人に何かを残せるミュージカルを作り上げたいです」と意気込んでいた。

【あらすじ】友だちもいない、両親も亡くしてしまった、孤独な少年ひろし。ある日ひろしは、父の形見のパソコンに映し出された景色に導かれ、とある村の寺に「三日坊主修行」にやってきます。そこには、全国から同じように修行にやってきたこどもたちがいました。でもひろしが出会うのは、彼らだけではなかったのです。
呪いによって闇に閉じ込められ、百年に一度、三日間だけ生きることを許される。そんな恐ろしい運命を背負い、五百年もの間生と死の間をさまよい続けてきた少年少女たちが、ひろしを出迎えました。
そして言います。この呪いを解けるのは、ひろししかいない、と・・・。
失敗すれば、命を落とす。はたしてひろしは試練を越え、彼らを救うことができるのでしょうか。そしてその先で、ひろしが得た仲間とは・・・。
(中略)
誰もが身構えずに観られる舞台でありながら、本物の芸術でもある。こどもたちだけではなく、大人たちにもぜひご覧いただきたい公演です。
https://kids.musical.yokohama/event.html

今後の活動方針を訊ねると、「『自分の手で何かを作る』ことが好きなんですよね。料理や、絵を描くことも好きです」。歌への執着はなく、表現をする一つの手段として歌も演技もがんばりたいと言う。

5年後、10年後を見据えた目標を聞いてみた。

「歌もミュージカルもできる、ショーのようなライブがしたいですね。自分のワンマンライブだったら、好きなことを好きなようにやれるじゃないですか。まずはワンマンを開催できるように、もっと実力をつけて、ファンを増やしていきたいです」。

自分の「好き」に対して真っすぐな彼女の姿に、心洗われる思いがした。

text:Momiji

INFORMATION

2020.01.12(Sun)『太陽と月のダンス』
[会場] 真昼の月・夜の太陽
[料金] ¥2,300(ドリンク別)
[時間] open 17:30/start 18:00

2020.02.22(Sat)&23(Sun) 『不思議の森の三日坊主』
[会場] 横浜市都築公会堂
[料金] 前売券¥1,500 当日券¥1,900
[開演時間] 22(Sat)①15:00 ②18:30 / 23(Sun)③12:30 ④16:30〜
※公演によってキャストが変わります。下町金魚のお勧めは②③です。
※開場は開演の30分前です。上演時間は約2時間となります。
[チケット申し込み方法]
1.こどものためのミュージカル実行委員会事務局
 Fax:045-941-3608 / Mail:ktm.musical@gmail.com
2.都筑区役所 1階売店
3.下町金魚へのメール:shitamachikingyo.mail@gmail.com

1st single『oasis』& 2nd single『恋を忘れた君へ』
WEBショップおよびライブ会場等で販売中!
https://shitakin.official.ec/

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