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【SSW02:STORY】『人』に寄り添う物語を紡ぐ歌い手・金田一芙弥

物語性の強い楽曲やライブが特徴的なシンガーソングライター、金田一芙弥(きんだいち・はすみ)。彼女が現在のスタイルに至るまでの歴史や今後の目標、田村麻実氏とともに共同店主を務めるMusic Bar Accordの開店経緯などについて訊いた。

ミュージカルを学び、シンガーソングライターの道へ

北海道札幌市に生まれた金田一は、2歳からクラシックバレエを習っていた。また、図書館が好きで、多くの本を読んで育ったという。

「日本語って、すごく綺麗ですよね。昔から『文章』に興味がありました」。中学を卒業するころには、自分でも詩や小説を書いていた。

歌うことも好きだった。「高校では、女の子ばかりでバンドを組んで、レベッカなどをカバーしていました」。だが、芸能の道に進もうとは思っていなかった。「臨床心理士の資格をとって、地元に残るつもりでした」。

しかし高校3年生になるころ、学校の教師から「ミュージカルの学校に行ってみろ」とアドバイスされたことで意識が変わる。

「社会の先生なんですけど、音楽が好きで、自分でもジャズバンドをされている方です。私のバンド活動にも興味を持ってくれていて、声をかけてくれました。今でも、私が実家に帰るときは連絡して飲みに行くし、先生が東京に来るときは連絡をくださいます」。

恩師の言葉に背中を押された金田一は上京し、桐朋学園芸術短期大学演劇専攻へ入学。ミュージカル科にて演技力、歌唱力、ダンスの力などを磨いた。

卒業後は役者として舞台を中心に活動しながら、時折シンガーとしてライブへ出演。2014年6月には、Zepp東京で開催された天下一音楽会・第3回シンガーガールズコレクションにて優勝を果たした。

彼女が舞台への出演を止め、シンガーソングライターとしての活動に集中するようになったのは、17年ごろからだ。

「色んな方のステージを見ているうちに、改めて音楽の素晴らしさに気づいたというか、『ライブって素敵だな』と思って。

お客さんも、スタッフさんも、演者も、セットリストも全部、その場限りのものです。それによって皆さんにエネルギーを与えられるって素晴らしいですよね。舞台よりコンスタントに皆さんに会えるし、もっと自分で音楽を作って聞いてもらいたい、と」。

特に17年7月、赤坂グラフィティで開催したバースデイワンマンライブは、現在の彼女のスタイルが確立したライブとして強く記憶に残っている。「あの日を忘れちゃいけないなと思っています」。

『物語』にこだわるソロ活動と、ユニットでの活動

金田一のライブの大きな特徴は、単純に一つ一つの楽曲を歌い上げていくのではなく、全体として一つの作品となるように構成していることだ。

ワンマンライブはもちろん、持ち時間の長くないブッキングライブでも同様だというから、そのこだわりには並々ならぬものがある。

この構成について、彼女は「3パターンの作り方があります」と言う。

最も多いのは、演奏する楽曲を先に決めて、それぞれに物語を埋め込んでいくパターンだ。この場合、ストーリーは一曲ずつ完結していて、ライブはさながらオムニバス映画の様相を呈する。

逆に、『今回のライブで表現したい物語』を決めてから、ストーリーに合う楽曲を並べていくこともある。折衷的な作り方として、セットリストを先に決めつつ、それぞれを繋ぐ一つのストーリーを考えるパターンもある。

さらに彼女は、ライブごとの物語を完成させるために、新曲を制作している。「『この曲のアンサーソングを作ろう』とか『あの曲と同じテーマで作れば話が繋がるな』とか。既存曲ばかりを並べていると、同じお話になっちゃうので」。

 一般的なシンガーソングライターのライブでも、セットリストの構築は難しい作業だ。ライブ会場やイベントの雰囲気、サポートミュージシャンの特徴、自分がプッシュしたい楽曲とファンに人気の楽曲のバランスなど、様々な要素を考慮する必要がある。

そこに『物語』をも組み込むとなると、気を配る範囲がさらに広がる。想像するだけで大変そうだが、彼女は「やりがいがあって楽しいですよ」と笑顔を見せる。

「物語を作る時は、まず最初と最後を決めます。普段、読書をするときからそうなんですよね。まず最初の一文を見て、次に最後の一文を見て、「おっ」となったら本格的に読み始める、みたいな」。

彼女とともに物語を作り上げるサポートミュージシャンたちの存在も重要だ。ピアノを嗜んではいるものの、ステージではシンガーとして歌うことに集中している金田一は、様々な音楽家に演奏を依頼している。

「最近、絵本が好きなんですよ。文と絵の共同作業っていうところが、私のやっていることに似てるなって。サポートミュージシャンの方がいて、私がいて、一つの世界を作っているので。勝手に親近感がわいています」と、彼女は文学少女らしい喩えで彼らとの絆を語ってくれた。

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金田一の表現の場は、ソロ活動だけではない。自身の楽曲のアレンジも依頼している作編曲家・よる。氏とのユニット、owl(オゥル)では、これまでにシングル3枚とミニアルバム1枚をリリースしている。

「ふたりともすごく動物が好きなので、音楽を通じて動物を救いたいという思いで結成しました。活動は不定期ですが、ライブやCD販売での収益を寄付しています」。

さらにもうひとつ、O'RAMA Rock'n'Roll Band(オーラマロックンロールバンド)は、『楽器を持たず、歌を歌わず、ダンスによって曲の持つ世界観から物語を「演奏」するロックンロールバンド』だ。短大時代の同級生と結成し、メンバーの脱退や加入もありながら8年以上活動を続けている。

「オーラマは、メンバーのキャラクターがはっきりしていて、担当楽器も決まっています。私はキーボードの担当なので、キーボードの音が鳴っているとき、一人だけ違う動きをしたりしています。また、私だけ女の子役で、他はイケメン役です」。

宝塚とまではいかないが、カッコよさを追求したステージには女性のファンが多いとのことだ。

夢を集めて開店したMusic Bar Accord

「もともと、私はお酒がすごく好きなんです。お客さんと飲みながら喋るだけの『スナックはすみ』という名前のイベントを、不定期に開催していました」と金田一は振り返る。

「いつか自分がステージを降りても、みんなが歌を聴きたいときに来れる、歌いたいときに歌える、家のような場所を作れたらいいな、と思っていました。隠居したらそういう生活をしたいなって」。

そんな彼女の夢に共感する人物がいた。キーボーディストの田村麻実(たむら・まみ)氏だ。

「麻実ちゃんと話していたら『私もお店がやりたいと思ってた』と言ってくれて。ふたりでお金を貯め始めて。なんとなく物件を見に行き始めて。なんとなくいい物件が見つかって。まだお金は貯まり切ってなかったけど、これも何かのご縁だからやってみよう、と」。

こうして19年2月19日、赤坂見附から駅から徒歩3分の地に、金田一と田村氏が共同店主を務めるMusic Bar Accord(ミュージックバー・アコード)がオープンした。

生演奏を楽しみつつ、自由に歌えるセッションバーで、定休日は日曜と月曜。彼女たちのファンはもちろん、ふらっと訪れる音楽好きも少なくない。

しかし、素人ふたりがミュージックバーを開店するのは並大抵の苦労ではないだろう。編者が問うと、彼女は静かに頷いた。「本当に多くの方の協力があって出来たお店です」。

特にお世話になったのが、彼女たちのバーから徒歩30秒の距離にあった老舗ライブハウス・赤坂グラフィティだ。

「『お店をやることにした』と伝えたら、オーナーさんから音響さんまで、みんなが応援してくれて。PAシステムの調整をしてくれたり、楽器やスピーカーを寄付してくれたりしました」。

19年5月6日に惜しまれながら閉店した赤坂グラフィティ。その魂の一部が、彼女たちの店に引き継がれていると言えるだろう。

誰かの生活の一部になりたい

今後の目標として、金田一は「自分にしかできないことをやっていきたい」と意気込む。ドームツアーや武道館を目標を掲げるアーティストは多いが、彼女は、規模にはこだわっていないと言う。

「物語をモチーフにしたステージを続けていきたいので、たとえばチャペルやプラネタリウムのような、すべてを一体化できる会場でライブしたいですね。プラネタリウムを貸し切りにして、ギリシャ神話をテーマにした物語を演奏して、アロマを焚くとか。お客様が五感全部で物語を感じられるようなステージを届けていきたいです」。

18年は創(つくる)、19年は彩(いろどり)というテーマで活動してきた金田一。20年のテーマは「翔(かける)」だ。

「自分がつくってきたものに彩りを増やす、という目標は達成できたので、それらを外に送り出そうと。これまでは東京を拠点に、たまに地元の北海道で演奏するくらいでしたが、遠征ライブを増やしていきたいです。新しい場所で歌いたい気持ちもあって、野外イベントなども、ご縁があれば出演したいですね」。

たしかに、セットリスト全体を通して一つの世界観を作り上げる彼女のライブは、悪く言えば『閉じた』印象を受ける。曲間にも語りが入るため、どこで拍手をすればいいのかさえ迷ってしまう。

しかし、金田一自身は「どの楽曲も、語りも、物語も、世に出した時点で私のものではなく、お客様のものだと思っています。だから、どう解釈してもらっても構わないし、自由に楽しんでほしいです」と言う。

「『〇日に芙弥のライブを見に行くからそれまで仕事を頑張ろう』とか、『悲しいことがあったから芙弥の暗い曲を聴いて泣こう』とか、『うまくいかないことがあったから芙弥たちのお店に相談へ行こう』とか、そんな風に誰かの生活の一部になれたら嬉しいです。『人に寄り添えるアーティスト』というか、人間になりたいですね」。

演者と観客、歌うだけ、聴くだけといった一方的な関係ではなく、双方向的な関係を築いていきたいと語る。「誰かの生活の一部になりたい」との言葉は、彼女が13年に書いたブログの記事にも散見され、昔から抱き続けている思いであることがうかがえる。

編者自身、ライブでの彼女の厳かともいえる神秘的な姿と、取材時の明るくて人当たりの良い姿のギャップに、良い意味で戸惑った。そうした人間性の魅力が、彼女の紡ぐ物語に説得力を与えているに違いない。

まずは本屋で立ち読みをするように、気になった本をパラっとめくるような気楽さで、彼女のライブや店に立ち寄ってみてはいかがだろうか。

text:Momiji

INFORMATION

2020.02.26(Wed) open 19:00 / start 20:00
GRAPES KITASANDO 4th Anniversary

金田一芙弥レコ発ワンマンライブ
〜developpe〜

[会場] GRAPES KITASANDO
[料金] ¥3,500+1drink&1snack
[出演]金田一芙弥 / Pf. たんちか

2020.03.06(Fri) open 19:30 / start 20:00
金田一芙弥ワンマンライブ
〜とあるCafe&Barのおはなし〜

[会場] 板橋ファイト!
[料金] ¥3,000+1drink
[出演]金田一芙弥 / Pf 山本佳祐 / Perc Saku / Dance yu-ki

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