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野球が好きなのにサッカーを習っていた私 【後編・気づいたら恋の話】

 友だちに誘われ、野球が好きなのにサッカークラブに入った私。
 あまりに下手すぎて、その友だちに試合中に叱責され辞めた。
 5歳で周りに流される経験をし
 7歳で、もう周りに流されない!と決心した。
 付和雷同しない意志の強い子どもに成長したのだが、周りに流されてMさんと付き合うことに。本当はTさんが好きなんだが‥

 東京オリンピックの開催が決まり、だいたいの人の心が希望で満ちていた頃、NHKのニュースで、ジュニア世代の強化に関してこんな報道がされていた。
 曰く、適性検査や遺伝子検査を通じて、その人に向いている種目を提案することで、いろんな種目で世界と戦えるように強化する、とのこと。
 番組では、メジャーなスポーツをやっていた女の子が、マイナーなスポーツを提案されて、それを受け入れ、東京オリンピックを目指そうとしている様子が報じられていた。
 「科学」という修飾語が付いているが、本質はメジャースポーツでナショナルチームに入れない選手にマイナースポーツを提案するということだ。遺伝子がどうであれ、逆はないだろう。
 このニュースで思い出したのが山際淳司の短編「たった一人のオリンピック」。有名進学校から2浪して3流大学に進学した主人公が、麻雀に明け暮れ、そこすら留年しそうになる。そこで思い立ち「モントリオールオリンピックでメダルを取る」ことを目指すというノンフィクション。マイナースポーツを選択して取り組むと、その世界の旧態依然とした状況に幻滅し、独学で力をつけていく。そしてついにオリンピック代表に選ばれる。
 都合上、私はこう書いたけど、実は、読者は物語の最初から彼がモスクワオリンピックの代表だったと知らされている。
 凄い話だな。世の中にこんな人がいるんだから。
 前述した女の子が、その後どうなったのかは知らない。でも、思うんだが、「やりたいかやりたくないか」それだけだよな。その女の子も、マイナースポーツに触れてみて、やりたいと思ってやったのなら、それでいい。何人にも強制されずに選択したなら。
 大人の誘導はあったんだろうけど、極論、部屋から出るのも、練習に行くのも、その子の意志がないとできない。不登校も、引きこもりも。

 Tさんのことが好きなのに、そのTさんから持ちかけられた話に乗っかってMさんと付き合うことになった私。Mさんとは一度も話したこともない。
 付き合うとは何なのか。好きとは何なのか。私の選択は、一般的におかしいよなぁ
 難しいけれど、これも結局「やりたいかやりたくないか」それだけじゃないか?やりたいと思ってやったのなら、それでいいだろ?
 あーあ。言っちゃったよ。ダブルミーニングだ。結局それなんだよな。いくら取り繕っても仕方がない。保健の教科書風に言えば異性への興味だ。それだ。それは仕方がない。中学一年だから、健全だろう。

 TさんとOさんが、セッティングしてくれた週末のボーリング。駅に集合して隣町へ行く。
 付き合い始めたが、まともに会話したことがないMさん。
 中学入学以来好きになった同じクラスのTさん。
 中学で3本の指に入る美人のOさん。

 …ん? もう一人知らないちっさいやつがいる…

浅野いにお風の知らないやつがいた

 髪型はまさに↑こんな感じ。女子含めて背が一番低い見知らぬ男。

 聞けば、女子3人と同じ部活のやつらしい。後に知ったことだが、TさんとOさんは、告白のときに助け舟を出してくれたAくんに同行をお願いしたが、断られたので(週明けにAくんに聞いたら「面倒くせえ」と)、浅野いにおにお願いしたんだとか。
 僕はこの辺の感覚がよく分からなくて、男子が二人いたほうがいいという発想がなかった。それなら、僕自身が気のおけない人物を誘えばよかった。なにせ、Mさんとまともに話せていないのに、さらにもう一人話したことのないやつがいて、こいつとどう向き合うか考えなくてはならない。人見知りにとって酷だ。Mさんとの壁をなくすことに集中したいのに。

 隣町について、ボーリング場への道すがら、同級生男子5人組とすれ違った。
 「おー」
 やあ
 「どこ行くの?」
 ボーリング
 「ふーん」
 これで終わった。なんか絡んでくるかなと思い警戒したのだが、一切なし。
 おそらくこれはOさんの御威光によるものだろう。5人組はいわゆる二軍の連中だ。バリバリのメジャーリーガーO谷さんの前では茶化すこともできないのだ。
 僕も昨日まではあちら側の人間だったので、この体験は新鮮だった。

こち亀のこのシーンを思い出した
圧勝だ!

 人生で唯一のトロフィーワイフ的体験であった。

 ボーリングを2ゲームくらいやった。
 結局、この間、会話が盛り上がることはなかった。一歩が踏み出せない。

 この先の予定は何も決まっていない。ボーリングをしに行こう、としか話していないのだ。とりあえず一行はヨーカドーに向けて歩を進めた。
 ヨーカドーの店先で、クレープかソフトクリームだかを食べた。その間、男子と女子で少し物理的距離が置かれた。
 女子3人が今後のことについて話しているのだろう。
 Mさんの「えーー。それはまずいよぉ」という声が聞こえる。いったい何が話し合われているのか。緊張して来た。
 OさんとTさんが近づいてくる。
 「ねぇねぇ」Oさんが笑顔で話しかけてくる。

 「これからすずかっち(私)の家に遊びに行かない?」 

 私は、
 流されずに即答した。
 「ちょっと、それは無理かな」

 OさんとTさんは困った顔をした。少し食い下がられたが、断りきってしまった。

 まず、部屋はきれいではない。そして、机の棚を開けられたらエロ本が入っている。それはどうしても見られたくない。

 それ以上に嫌だったのが、家族に会わせることだ。女子を連れてきたことは一度もない。兄弟とも、両親とも、異性に関する話なんて一切しない家庭だった。例えば、兄弟でボキャブラだったか空耳アワーだったかの特番を見ていて、下ネタ特集でおっぱいがバンバン出てきたとき、気まずくなって消して寝ちゃうような間柄だった。両親も若干厳しめの家庭で、性的なことをフランクに話す雰囲気ではなかった。

 だから、この提案を断った。付き合うときは流されたのだが、ここでは嫌なものは嫌だと流されなかった。

 嗚呼!タイムリープしたい‥
 流されるべきだった。こんな懸念は全て喉元過ぎれば熱さ忘れる類のものだった。
 想像してみる。
 親も弟も、え?って思うだろうが、それだけで基本、あっちから絡んでこない。弟は弟の部屋でプレステやってるから、まあ、OさんとTさんから少し絡みにいくくらいだろう。美人を連れてきて兄貴の面目躍如だ。
 で、私の部屋に5人。狭いは狭いけど無理はない。 
 マンガはいっぱいあるので、その話をしたり、卒アル見たりするのではなかろうか。
 もしエロ本を見られたとして、現在の感覚では、もはやそれはご褒美である。引かれるような嗜好性の強いものは無かったなぁ。

 そして、想像なのだが、ここで「あとは若い二人で」砲が炸裂したのではなかろうか?絶対にそうだ。そうに違いない。OさんとTさんは浅野いにおを連れて帰るのだ。ニヤニヤしながら。

 そうして二人残されたなら‥
 そりゃ流石に一歩踏み出して喋ります。何かしら頑張って喋るよ。
 そして電話番号も聞いただろう。
 そうこうしているうちに5時
 うちの母親が割り込んでくるはず。
 「あら、こんにちわ〜」
 「もう5時だけどお家はどこなの?」
 いや、まだ5時だろ…と心のなかで思う私
 家は結構遠い
 「どうやって帰るの?」
 歩いて帰りますとか、電話して迎えに来てもらいますとかMさんは言うと思う。私はMさんの家まで往復2時間位歩きで行って帰る心つもり
 「車で送っていくから!さっ、支度して!」 
 プー。送り届け完了
 帰り
 「ねぇ、どういう関係なの?」
 最悪だそしてそれは最高だった。この瞬間だけ我慢すれば、全てが好転するのだ。喉元過ぎればなんとやらだったのだ。夜電話してもいいのだ。
 後に理科の先生が、交際するなら親公認にしなさい、楽だから。と言っていた。これなのだ。こうなるはずだったのだ。でも、その壁に直面するのが怖くて、嫌なことは嫌だと断ったのだ。
 何と愚かナッッ。

 私は、
 流されずに即答した。
 「ちょっと、それは無理かな」
 OさんとTさんは困った顔をした。少し食い下がられたが、断りきってしまった。
 これからどうする?と息が詰まる雰囲気になり、何となくヨーカドーのゲームセンターフロアに行った。まあ、そこくらいしか行くところはないのだ。
 そこで、朝すれ違った5人組に再度遭遇した。

 そこで僕は、なぜそんな行動を取ったのか、今となってはさっぱりわからないのだが…
 浅野いにおも含めて5人組と合流して遊び始めた。
 しばらくしてOさんが「すずかっち、私たち帰るね」と言ってきた。うん、と返事をした。
 5人組とのゲーセン遊びは異常なほど面白かった。ただし、ヨーカドーから去るときの下りエスカレーターで「なんてことをしてしまったんだ」とひとり途方に暮れた。5人組の誰も女子3人のことに触れなかったもの今考えれば異常だ。二軍の仲間意識がそうさせたのかもしれない。

 週明けの学校。
 Tさんは丸一日、私の顔を見るたび「サイテー」とだけ言った。
 好きなTさんに「サイテー」と言われ続けるのだ。性癖をドMに転換しなければ平静を保てない。
 この一連の出来事は、酷い話としてすぐ広まっただろう。ネタが僕だから、持続力のない話だろうが。
 それ以来、OさんとTさんはおせっかいを焼いてくれなくなった。
 Mさんと全然会話できていないのに、OさんとTさんが仲立ちしてくれなかったら、どうにもならないのだ。
 いや、いくらでもどうにでもなるのだが、当時の僕には、どうにもできなかった。今の実力なら3人とも抱いてる。

 その年のバレンタインデー。放課後に自転車置き場でOさんとTさんに呼び止められた。Mさんからのチョコレートを代理で渡してくれたのだ。
 ホワイトデーのお返しを躊躇して渡せなかった私。それ以降、Mさんと関わりを持つことはなかった。自然消滅したのだ。

 帰宅して、もらったチョコレートを食べながらプレステをやっていた。別の記事で書いたジーワンジョッキーだ。
 すると、どこで嗅ぎつけたのか、普段この時間に来ること無いのに、母がやってきた。
 「そのチョコどしたん?」
 もらった
 「ふーん」
 母は去っていった。
 なんだよ、、チッ。
 ドタドタドタ!母が舞い戻ってきた。
 「あのさぁ、避妊だけはきちんとしてよね!
 母は足早にまた去っていった。

 ハァ??!?( ´Д`)=3
 ふざけんじゃねえよクソババアァァッ!!
 
ずかずか踏み込んできやがって、だから家に連れてきたくなかったんだっつーのっ!
 そして、てめえのせがれは成人式に出るのに帰省した時点ですらクソ童貞だっつーの!!避妊もくそもあるかボケェ!

 いままでそんな性的な会話なんてしたこと無かったのに。こっちも驚いたよ。母は母で子どもとの距離感とか色々試行錯誤して悩んでもいたのだろう。嗚呼…なぜこうなってしまったのか。家族の間で一定のフランクさが事前にあれば、家に呼べたかもしれない。

 サッカークラブの失敗に学び、周りに流されないと心に決めた小学生時代。
 異性への興味から信念も本当の気持ちも曲げて、流されて、Mさんとの交際に踏み出した中学時代。

 嫌なものは嫌を貫いて、居心地のいい連中との遊びを選んで、その交際は消滅した。

 交際が継続する道を選んだら、どうなっていただろうかと時たま考えてしまう。もしかしたら、近い未来にそういうことになっていたような…

 高校は男子校で、大学も工業高校並みの男女比の学部に進学したので、人を好きになる感覚を忘れてしまった。小中学校の時って、いつのまにか特定の人を好きになっていたけど、それっていつまで続くの?わからないまま時は流れて。進学先を誤ると人の心は乱れます。私は童貞をこじらせてしまいました。

 信念を曲げたり、信念に殉じたり。正解と不正解がその場で分からなかったり。人生は難しい。難しかった。


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