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彼に出会うまでの話

去年の7月、好きな上司から飲みに誘われた。
友達を誘いお店を下見して、予約もして、
とても楽しみにしていたのに、残念ながら当日相手の都合が悪くなり、予定が無しになってしまった。

お店に予約キャンセルの連絡を入れたあと、わたしはちょっと急に虚無感に襲われていた。
今日、何もやることなくなっちゃったな。
なんだか寂しかった。
こういう時に、友達以外にも気軽に声をかけられる存在──たとえば、彼氏とか──がいればなとふいに思った。

今の恋人と出会ったのは、その夜に始めたマッチングアプリがきっかけ。


前々から、友達に彼氏欲しいーと零していた。
そしたら、マチアプやってみたら?と言われたことがあった。いろんな人いるよ、と。
知らない人は怖いし……と思っていたのに、その時は理由のわからない衝動からアプリをインストールしていた。
しばらく様子見して、変な人がいたらやめよう。面倒になったらアプリを消してしまえばいい。
そんな軽い気持ちで、目に入ったうちの何人かにいいねを押して、最初にマッチした彼からの挨拶にこちらも挨拶を返し、その日は眠りについた。


恋がしたかった。
最初の彼氏と別れてから、何度か誰かを好きになったけれど、気持ちも伝えず全部片想いで終了。
今思えばどれも単なる憧れであって、本気で好きじゃなかったような気がする。

元彼のことはとっくに振り切れている。でも、心の中では相変わらず大きな存在だった。
いい加減忘れてしまいたかった。
元彼のLINEは別れたときにブロック+削除した。
それでもアカウント自体は今も生きていて、高校のクラスラインの中、ホームは今の彼女とのツーショットである。
別にムカついたりはしない。
ただ、元彼よりもっと素敵な人と恋ができたら、と思った。
もしもどこかですれ違ったとしても、“何にも気にしていませんが?”みたいな顔で、なんなら笑って会釈できるような。私だって今幸せだよと示せるだけの何かが欲しかったんだ。

翌日から何人かとやり取りをした。
もともと初対面の人と話すことはあまり得意じゃない。当たり障りのない話をして、会話の返事がやる気なさそうな人はスッとフェードアウト。
そんなふうに続けていたら、この人いいかもって人が出てきた。

一人は、すごく長文の人。レシートみたいな中身の詰まった会話を1日1往復で続けていた。
楽しい人なんだろうなと話し方からもわかったし、返事を考えるのは面白かった。
でも毎回長文だと少し疲れてしまった。

もう一人は、最初にマッチした彼。会話が途切れてしまっても、タイミングを空けて話しかけてきてくれた。いろんな話をして、普段は使わない絵文字なんか使ったりして、気づいたらその人への返信を誰よりも優先していた。

アプリを入れた1週間後。
その彼に、会いませんかと誘われた。
単純に嬉しくて、私はあまり深く考えずに、会いましょうと返事をした。
ノリノリで日程を決め、けれど前日の夜になって、私は急に不安になってしまった。

今どきこういう出会い方が珍しくないのはわかっている。でも私にとってはネット(アプリ)の人と会うなんて初めての経験で、ドキドキが止まらなかった。
この人は本当に実在する人なのかな?会ってみて、何かの勧誘だったらどうしよう。

「今お時間大丈夫なら、電話してみませんか。5分くらいでいいので」

思い切ってメッセージを送った。
話をしていて、すごく感じが良くて素敵な人だったから、会って想像と違う人だったら絶対に悲しいし落ち込むと思った。それなら、ダメージの浅い今のうちに、先に確かめてしまおう。
少し経って、いいですよと返事が来て、
すぐに震える指で電話をかけた。

思っていたよりも、しっかりした大人の男のひとの声だった。
結論から言うと、ときめいた。
声の良さに思わず笑ってしまったくらい。

電話を終えて半分パニックになりながら、アプリを勧めてくれた友達にLINEしたことは記憶に新しい。
どうしよう!めっちゃ声良すぎて、あの声で好きって言われたら好きになっちゃうかも!
ていうかもうちょっと好きかも!

彼と何を喋ったかもうあまり覚えていないけれど、書き出してみる。
こういうので会うの初めてで、業者とかだったらって不安になっちゃって電話しました。
話しててすごく良い人だったから、そういうのだったら嫌だなって思って。(失礼すぎる笑)
そう言うと彼は、俺は違います、むしろ騙される方だし、と笑った。
その後軽く明日会う予定のお店の話をして、楽しみにしてますね、と切った時には、なんだか話す前よりも、彼のことを強く意識していた。
トークでは一人称自分だったのに、唐突に俺呼びするのを聞いて正直萌えた。

電話ありがとうございました、とすぐに送った。
会うことが不安になってしまったことを謝り、
でも会ってみたいなと思ったことは本当なので、
明日はよろしくお願いします、と伝えた。
電話したいって言ってくれて嬉しかったです。
こちらこそ明日はよろしくお願いします。
そんな返事が来て安心しながら、私は明日に備えて寝ることにした。

そして翌日、待ち合わせ場所に行くと今の恋人がいた。
ほとんど偶然と、私の気まぐれによる、そんな恋の始まり。

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