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Split of Spirit 6

芝田が鳴田たちに向かって突進してくる。

南場の横を通り過ぎた瞬間、南場は、上着の内ポケットから銃を取り出して、芝田に照準を合わせる。

引き金を引くと同時に、芝田は身を逸らして、弾丸の軌道から外れる。

「逃げろ」

南場がそう告げる前に鳴田は駆け出していた。

「マジかよ」

沈黙が流れる。

「まだ致傷性のない武器を使っているのか?」

芝田は足を止める。

「怪我しないと思うなら、避けるなよ。」

「実戦ではそういう油断が命取りだ。」

続けて、芝田の足元へ向かって弾を放つが、いとも容易く回避される。

「化け物が…………!!!」

「これは戦場で鍛えた勘だ。

お前の甘ったれた戦闘テクニックとはわけが違う。」

「勝てる気がしないな………」

「逃げるのか?俺は鳴田を殺しに行くぞ。」

「じゃあやってみろよ、」

南場は肩の力を抜いて脱力しながら、その場で何回か跳躍する。

「俺を舐めるな。」



芝田は、南場に向かってタックルを仕掛ける。

それを南場は右に躱して、膝蹴りを芝田の鼻頭に直撃させる。

だがやはり芝田も人造人間なので全くと言っていいほどダメージが通らない。

確実に肉体にダメージは入っているはずだが、数多の訓練を受けて、痛みを感じないような体に成っている。

任務を遂行するにあたってより長い活動や戦闘を可能にするためだ。

芝田が南場の膝を掴もうと手を伸ばす。

「うぉっ!!」

南場は後ろへ身を退いてこれを避ける。

南場の額に冷や汗が見える。

「やはりお前は………欠陥品。

感情が表に出すぎている。

人造人間としてはあまりにも未熟だ。」

「武内もか?」

汗が南場から滴り、落ちる。

「武内は戦闘において不利になる感情は持ち合わせていない。」

「へぇ………」

「人造人間としても、人間としても中途半端なお前が俺に勝てるはずがない。」

「俺からしてみれば、お前のほうがどっちつかずだと思うぜ。」

「なぜだ?」

「完璧な人間になりたいくせに、お前は誰かさんの下に就いている。」

「これは俺の意思じゃな………」

芝田が急に黙り込んで立ったまま、下を向く。

「な、なんだよ。」

そのまま意識を失くした芝田は襲い掛かってくる。

その様子は先ほどまでの秩序ある動きではなく、暴走しているかのような荒々しい動きだった。

「あの時と……………似ている?」

南場は妊婦を襲っていた人造人間のことを思い起こす。

(あの男の最期はまるで誰かに遠隔で操作されているような感じだった。)

(もしかするとコイツも………)

南場は芝田の攻撃をかろうじて避け続けている。

辺りは闇に覆われ、すぐ近くにいるはずの芝田の顔がはっきりと見えなくなっていた。

「このままじゃ勝ち目なんてないな。クソッタレめ、」

半ばヤケクソになりながら、南場は撃てば避けられてしまう銃を芝田に投げつける。

芝田はそれを軽くかわす。

「俺だけだとな。」

「…………」

芝田から少し離れたところで鳴田が立っている。

銃は、鳴田の右手に収まる。

「後は頼んだぜ……………」

鳴田は南場からの問いかけには答えない。

受け取った銃の照準を芝田に合わせる。

芝田が避けるためのモーションを始める。

南場の聞いた銃声は一度だった。

しかし麻酔弾は二発、銃口から放たれていた。

(早撃ちなんて教えてないのに)

「ハッ………!!」

撃たれた衝撃なのか、芝田は我を取り戻す。

辺りを見回し、状況を確認すると、民家の塀に乗って屋根に飛び移る。

「次、戦うまでに鍛えておけ。俺もそうする。」

南場は芝田が屋根伝いに飛んでいくのを見つめる。

「本当にあいつ筋肉馬鹿だな、麻酔も即効性だぞ。

まっ、来ると思ってたぜ………鳴田?」

南場が振り向くと、そこには激しい戦闘を終えた南場よりも息を切らしている鳴田がいた。

「おい、大丈夫か?」

「うっ!!」

「おい!!大丈夫か!?」

倒れる鳴田に南場が近づいて口元に手を当てると、鼻息を立てて寝ているのが分かる。

「疲れてたんだな、いろいろ。

おかげで助かったぜ、ありがとな。」

返事は返ってこない。

鳴田の大きな寝息だけが夜の街に響く。


「はっ!!」

「起きたか?」

「………………なんかデジャブだな。」

またも鳴田は自分の部屋で寝ていたようだ。

時間はそこまで経っていない。

いつもの起床時間に起きていた。

午前八時。

「体は痛むか?」

「そういわれるとキリキリ痛む気もしてきたような、前よりは痛くないけど」

「だろうな、」

「だろうな?」

「あの時、お前は『半覚醒』状態だったんだ。」

「『半覚醒』ってなにさ?」

「この前、(Split of Spirit 4参照)言った気がするけど、半覚醒は、半分意識があるのをずっとキープしている状態。

とりあえずはこれを身につけろ。」

(鳴田の中に眠っている人格?のようなものはおそらくまだ成長段階だ。

自分の動かしたいような動きに鳴田の身体がついていってない。

鳴田の肉体を鍛えさせることで、いずれは………。)

「身につけろって言ったって…………」

現在の日付は4月7日日曜日。

鳴田の通っている高校では明日から新学期だ。

鳴田は高校二年生になる。

「明日から学校なんですけど……………」

「そうか………、じゃあ…………。」



〈五〉

桜は満開の時期を過ぎて、落ちている花びらをなるべく踏んでしまわないように歩く。

靴箱前に掲示してあるクラス分けを見て小さくガッツポーズする。

教室に入って自分の席を確認した後、前のクラスと同じだった友達を見つけてしばらく談笑する。

始業式が始まり、体育座りさせられる。

「え~、故事成語に『人間万事塞翁が馬』というものがありますが………」

欠伸をしたり、伸びをしたり、手で体を浮かし、臀部の痛みを和らげようとする人もいる。

自分も過去にされたこの校長の長い話の内容は万に一つも覚えていない。

「皆さんもこの学校の生徒としてふさわしい……………」

(なぁ聞いたか?俺たちのクラス新任の先生が担当らしいぜ。)

同じクラスになったらしい後ろに座っている男子が隣のやつと話している。

「それでは今年からこの高校に所属する先生方の挨拶です。」

鳴田が視線を横に向けると、見覚えのある顔が映った。

頭を掻きながら気恥ずかしそうに、その男は会釈する。

「よろしくおねがいしま~す、南場っス。」

「はぁぁぁぁ!!??」







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