Split of Spirit 2
あらすじ
人間と全く同じように作られた人造人間に人権が与えられた時代。
一人暮らしの学生、「鳴田秀平」は自宅で「南場」という血のつながっていない兄弟?と出会う。
育て親から「南場」は一人暮らしをする「鳴田」の警備を頼まれたらしい。
二人は、昼食の買い物を終わらせ帰ろうとしている途中で揉めている男女に気づく。
男側が拳を振りあげようとするので、「鳴田」が大声を出すと、男は路地裏に逃げていった。
追い詰めて、倒れた男を取り抑えようとすると、その男が人造人間であることに気づく。
<二>
警察からの事情聴取を終えた帰り道の途中、鳴田は黙考していた。
人造人間にも、ロボット三原則は適応されるはずだ。
ロボットは人間を傷つけてはいけないし、人間の命令を聞かなければならない。
生まれたときから彼らが背負っているものだと考えていた。
しかし先程の人造人間は、人間を、それも妊婦の人を攻撃していた。
命に順序をつけるつもりはないが、あいつは認識して攻撃していただろう。
「待て!!」という自分の発言も聞かなかった。
あの人造人間はイレギュラーだ。
そんなことを考えていた。
深刻そうな顔をしているのは僕だけではなかった。
南場のフォークはピクリとも動かなかった。
「食べないんですか?」
「本当に作るとは思わなかったよ。」
イタリアンはお気に召さなかったらしい。
「まぁ思ってたより元気そうで安心したよ。」
そう言ってパスタを口へ運ぶ。
「別に元気じゃないけど」
また南場の手が止まる。
「どこか怪我したか?」
「違うよ、南場さんなにか知ってるんだろ?」
なにか言いかけてどもっている。
会話のペースを握られてしまう前に畳み掛ける。
「あの人造人間のことについて知ってることを話してほしい。」
「食い終わってからな」
南場の皿を見ると、麺の減りが明らかに遅い。
持ち上げたフォークには麺が一本しか絡みついていない。
食事中は悪いと感じ、その場は抑えることにした。
「で、南場さん話してくださいよ。」
南場が食べ終わった直後に、シンクから話しかける。
「なんかその呼び方は堅苦しいな、別の呼び方ないか?」
「それ、今関係あります?」
「まぁ、そう焦るなって」
「………じゃあ南場ちゃんで」
「おっ、いいな」
やっと本題に入れる、と心の中でため息をつく。
「人造人間が、人間の技術の発展の末に出来上がったことは知ってるだろ?」
「はい、現代社会で習いました。」
「どうやって産まれるか分かるか?」
「人工の精子と卵子を受精させて受精させる。」
「それで産まれてくるのは普通の人間だ。」
「そいつらが人間の便利のためにこき使われることもあれば、玩具のようにただの娯楽に使われることもある。
自分を購入してくれた主人だけに忠実になるよう、プログラムされた。」
「………」
「ただ、人間はそいつ等に自立思考をもたせることに成功した。
それで今みたいに、人造人間に人権が与えられて、町中を普通に歩けるようになった。
もちろん、そうならない奴もいる。
足を切られて、より作業効率の良い疲れない身体にさせられるとかな……。」
鳴田は先程の、足を撃たれて血の出なかった人造人間を思い出す。
「知ってますよ……。」
「ロボット三原則みたいな、人造人間よりも人間のほうが優位であるとプログラムされたままだ。
そりゃ機械なら、ただ与えられたオーダーを着々とこなすだけだな。
でもあいつらは人間と同じような知能を持っている。
平民が起こしたフランス革命だったり、皇帝に不満を感じた奴が内乱を起こしまくった中国だったり人間っていうものは置かれている状況に不満を覚えるんだ。」
「というと…」
「人造人間は人間以上の存在になろうとしている。」
「………だから人造人間が、組織になってこの街の人間を殺そうとしてる?
馬鹿馬鹿しいすね。」
「お前はそう思うか、」
南場は真剣な目つきだった。
今日のあの事件を見てもなんとなく実感がわかない。
妄想を見ている気分だ。
「じゃあ行ってみるか?」
「うん?」
「そいつ等のところに。」
「何言って」
首元が熱い。
電気を流されているようだ。
「悪いな。」
意識が遠のいていく中でそう聞こえる。
視界が暗転する。
目を開けると、コンクリートの上にうつ伏せになっているようだった。
「やっと目が覚めたかい?」
上を向くと、ドラム缶の上から整った顔の青年がこちらに話しかけている。
「今日は災難だね〜」
爽やかな笑顔をこちらに向けてくる。
手に林檎を持っており、それを小さく頬張る。
彼は咀嚼しながら、
「人間ってどのくらいの角度で、勢いで、りんごを坂から転がせば死ぬのかな?」
純真無垢な子どものような発言だった。
「どう思う?鳴田君?」
「なんで俺の名前を知ってるんだ」
「そりゃあこの街の住人は、あらかた覚えたさ。」
「お前も人造人間か」
「もちろん」
質問で時間を稼ぎながら、起き上がって体勢を整える。
先程までの、南場との会話を思い出す。
俺はその人造人間の組織の本拠地に放り投げられたのだろうか。
それにしては南場の姿が見えない。
「人間は排除対象だけど君はどちらかと言われればこちら側だからね〜。」
「……?」
「腑に落ちていないようだね、、まぁ今日は聞きたいことがあってここまで来たんだろ?」
拉致されたの間違いだとは思いながら、率直な疑問をぶつける。
「お前らはなぜ人間を殺そうとするんだ?」
「殺しちゃ駄目なのか?」
「質問に答えろよ、俺はなぜ殺すと聞いてるんだ」
「まあ色々あるけど、やっぱり今の奴隷みたいになってる奴らを解放するためかな?
一応組織の大義名分でそうなってるけど、」
思っているよりも規模が大きいようだ。
「お前の目的は違うのか?」
「俺?俺は楽しかったら何でもいいよ。」
突然後ろから足音が聞こえる。
「話しすぎだ。」
振り返ると大柄な男が出入口の扉にもたれかかっている。
「別にこれくらいどうってことないだろ、芝田。」
「録音されていることに気づいてないのか?」
指を向けられる。
気づかれた鳴田は驚いて、ポケットから手を出す。
「本当かよ?鳴田君?見損なったな」
「くそっ」
まだ十分証拠といえる言質が取れていないが退散するしかないようだ。
逃げ足の速さだけは自信がある。
人造人間とやり合ったことはないが。
「証拠の後始末は任せたぞ。」
「うい」
芝田らしき人物はあとを去っていった。
「お前一人で大丈夫なのか?」
自分なりの挑発だった。
「俺は信頼されてるからな。」
そばにおいてあった刀を鞘から抜いて、後退りする俺の方へ向ける。
「ハハ……」
何か武器になるようなものを見つけなければならない。
体は彼へ向けたまま、周りを見渡す。
廃工場のような場所で、照明が赤黒く光っている。
辺りが散乱していて、生活感のない様子から、ここが本拠点ではないことがわかる。
視線を戻すと、もう目の前まで青年は距離を詰めていた。
「オラッ!!」
下腹部を思い切り蹴飛ばされる。
体が宙を舞い、コンクリート壁に叩きつけられる。
「グッ…うぅ」
蹴られた場所が熱い。
息を搾られる鋭い蹴りが、直撃してしまった。
もう立ち上がれないかもしれない。
「俺は長く楽しみたいんだよね〜」
「……チッ」
「頼むから意識が飛ぶなんて野暮な終わり方にしないでくれよ?」
「あいつに全部任せていいんですか?芝田さん、」
「………もともと俺と武内は、裏社会用の人造人間育成所の同級生だった。」
「何、急に回想に入らないでくださいよ」
「武内はその頃から、他の同期生より残虐だったり、それを実行するだけの身体能力も持ち合わせていた優秀な奴だった。
あいつの昔話が知りたいか?」
「先輩が勝手に話し始めたんでしょ。
気になるんで続けてください。」
「これは育成所の管理をしている人間から聞いた話なんだが……。」
<3年前>
芝田と武内の育った人造人間育成施設は襲撃にあった。
警備員達は廊下で血溜まりに倒れている。
施設長室に入った芝田は、トリガーを引き、銃口を向ける。
「久しいね、芝田。」
「こちらこそ」
「再会したのにそれはなんだい?」
芝田が手に持った銃を指差す。
「気にしないでください、すぐ楽にします。」
「……時間稼ぎではないが、感情を整理したい。少し待ってくれ。
そうだ、武内くんの話をしよう。
お前は彼と仲が良かっただろう。」
彼が異常な行動を見せ始めたのは施設に所属して4年目からだった。
子どもが虫をとってあそぶのはごく自然のように思えるだろう。
ただ彼はそれがあまりにも長く続いた。
長く続きエスカレートしていった。
当時、私は彼に伝えた。
「その癖を直せ、武内」
「なんで?」
「お前は将来仲間たちと働くことになる。
協調性がないとわかれば買い手はつかなくなるぞ。」
「別にいいよ。どうでもいい」
「口答えしたな、鞭打ちだ。」
「早く終わらせてくれ。」
別室で躾を行っても、彼は顔色一つ変えなかった。
あの頃にはすでに歪んでいたのでしょう。
私はもうその時点で彼の悪癖を止めさせるのを諦めていました。
監視されていることを知っていてもなお裏山の中にいる小動物を自分で捕まえて、解剖したり、麻縄で縛り付けたり、自作の檻の中に閉じ込めていたりしていたのをよく覚えている。
今から10年ほど前、森での隠密行動訓練で、芝田と武内はバディを組むことになった。
敵陣まで並走しながら森を駆け抜ける。
走りながら芝田は武内に尋ねる。
「なんでお前はそんなに自我を保っていられる?」
「……お前は心まで機械なのか」
「いや」
「だったら俺達は人間だ。
人を人たらしめるのは身体じゃない。
俺達の意識に宿る魂だろ。」
「そうだな。」
「ブレない芯が必要なんだ。」
「そうだな。」
「話しかけてきたのにさっきからそればっかだな。」
「お前の言うことも一理あるかもしれない。」
その日以降、芝田と武内はよく行動を共にするようになった。
芝田は車の後部座席に乗り込んで、廃工場から離れていく。
「あいつは確かに組織で動くのに向いていないのかもしれない。」
「じゃあ…」
「ただ俺達の中で一番、人間味がある。」
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