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短編小説② 約束の春

短編小説「約束の春」

はるかは大学の卒業式を目前に控え、淡い春の香りが漂うキャンパスで歩みを止めた。桜が咲き始めた並木道を眺めながら、彼女はアキラとのこれまでの時間を思い返していた。

二人が出会ったのは、大学2年生のサークルの活動でのことだった。アキラはいつも明るく、誰にでも優しい性格だったが、彼の瞳の奥にはどこか孤独な影が見えた。それは、彼が幼少期に厳しい環境で育ち、教師になって子どもたちに安心できる居場所を与えたいという夢を持つに至った理由だろう。

「アキラ、今年の採用試験はどうだった?」

ある日の帰り道、はるかが静かに問いかけた。

「落ちたよ。でも、臨時で半年間の採用が決まったんだ。まだチャンスはあるから頑張るよ」

彼の言葉は明るかったが、その裏に漂う不安をはるかは感じ取っていた。それでも、二人は未来への希望を胸に、共に歩んでいこうと誓っていた。

しかし、そんな日々の中で、はるかは突然の体調不良に気づいた。何度も検査を重ね、ついに妊娠が判明した時、彼女の胸には喜びと不安が入り混じっていた。アキラに伝えると、彼は驚きながらも満面の笑みを浮かべ、「俺たち、家族になれるんだね」と言ってくれた。

だが、現実は二人の思い通りには進まなかった。妊娠を知った両親からは、「まだ若すぎる」「お互いまだ安定していないのに」と反対の声が強く響いた。それでも、二人は意志を曲げることなく結婚を決意し、アキラの両親の家に同居することになった。

アキラの両親は伝統的な考え方を持っており、特にアキラの母親は「家事や育児は嫁の務めだ」と繰り返し言ってきた。はるかは初めて母親になるプレッシャーの中で、看護師としての仕事と家事をどうにか両立させようと必死だった。しかし、アキラもまた教員採用試験の勉強で忙しく、二人が一緒に家事や育児を分担する時間はほとんどなかった。

「こんなはずじゃなかった…」

はるかは夜遅く、一人で泣きながら台所で皿を洗っていた。アキラは彼女を支えたいと思っているのに、その思いが現実に反映されることはなかった。彼の両親の価値観に従わざるを得ず、はるかは孤独に家事と育児をこなす毎日が続いた。

ある日、アキラが疲れ切った表情で帰宅した。彼ははるかを見て、少し躊躇した後に言葉を発した。

「俺も頑張ってるんだよ、でも…なかなかうまくいかなくて」

その言葉に、はるかの心は冷たく沈んだ。彼もまたプレッシャーを感じていることは分かっていたが、彼女はこれ以上一人で背負い込むことに耐えられなかった。

「もう無理だよ、アキラ…」

その一言が、二人の関係に終止符を打った瞬間だった。涙が溢れ出すのを抑えきれず、はるかはアキラに背を向けた。彼女の心には、もうこれ以上は耐えられないという強い決意が固まっていた。

数日後、はるかは子どもを抱きしめながら、新しいアパートの窓から見える桜の木を見つめていた。これからは一人で子どもを育てながら、看護師として働く未来が待っている。アキラとの約束は果たせなかったが、それでも彼女は新たなスタートを切る覚悟を決めた。

春の風が彼女の頬を撫で、はるかは小さな笑みを浮かべた。未来はまだ不確かだが、彼女にはもう一度、自分自身の人生を選び取る力があった。


原作:はるか 脚色・イラスト:ChatGPT

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