大蝗は人を喰う

飛空戦艇が次々と撃墜されていく。

夕焼け空に鳴り響くのは、羽音、金切り音、色とりどりの爆発音と悲鳴。

迫りくる大蝗の群れは、見上げる空の一部を覆うほどだ。

「黙示録かよ」

荒い息で俺は言いながら、ガン=ブレードのソケットを排出する。

『――タタカ――ヨ』

通信機が鳴っている。だが聞き取れない。

目の前には頭を割られた大蝗が3匹。どれも2mを超えるビースト級だ。息を整え俺は残ソケットを装填する。こいつらは俺と後輩のニッタが殺った。

後ろで転がるニッタの上半身はもう無い。喰われた。


そう、大蝗は人を喰う。

初めは遠くの知らない島の、ちょっと大掛かりな害虫駆除だったはずだ。事件後に少しの間、世界は静かで、いつも通りで、核が落ち、そしてあっという間に人類の危機だ。

「あの島は俺の故郷だった」

同期のライオネルは、3時間前にそう言って5匹を道連れにして喰われた。


「下らねえ」

装填を終えた俺は気付けのスキットルをあおる。

どうする、群れを散らす頼みの飛空戦艇はあの有様だ。

ヤツらに一番有効な130mmガン=ブレードは、残り32ソケット。

あとは脳天に刺せば有効な超振動ダガーと、呼吸器に効く携帯エルキ酸榴弾2個。これは殺る間に喰われるから、カミカゼ用だ。

「大蝗は脅威ではない」「団結すればすぐにでも」と言われてもう3年がたつ。人間の慢心、場当たり、政争、失策、欺瞞……そんなものを煮凝ってできた地獄。

目の前で喰われる同僚を思い出しそうになり、頭痛を振り払う。
俺が立つのは人類の最前線だ。

「カミカゼか」

皮肉めいた笑みが浮かぶ。

「喰われっぱなしはもっと下らねえ」

排気音。充填し終えたガン=ブレードが息を吹き返す。


突撃するかと決めたとき、ニッタの腰の通信機が鳴った。

いや、ずっと鳴っていた。

いま聴こえたのだ。

『――タタカウナ、シュウケツセヨ』

座標を知らせる通信。迫る羽音が聞こえる。

逡巡し、俺は群れとは逆方向に駆けだした。

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