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金原ひとみ『パリの砂漠、東京の蜃気楼』感想

『パリの砂漠、東京の蜃気楼』を読む。文芸誌に掲載されていた短編を除いては、ほぼ初めて読む金原ひとみ。絶え間なく押し寄せる自己破壊の衝動を、どうにかなだめすかしつつ送る切迫した日々の記録で、美しかった。言っていることが、昔仲の良かった友人のそれと実によく似ていた。不登校で、鬱で、恋愛によって生きている。友人もそういう人で、しょっちゅうナンパされているところも何か似ている。

その子と、恋愛と生きることの辛さについてのみ、熱心に喋っていた20代を思い出した。
”でも恋愛がない人生を想像しようとすると頭が真っ白になる。”という記述に、彼女に結婚しないで生きるという選択肢はないのかと聞いた時、人生真っ暗闇のなか歩いているようなもので結婚だけが唯一見える灯りだから、それがなくなったらどうしたらいいか分からない、と言われたことを思い出した。


今の自分は中年になり、恋愛よりも家事や仕事の辛さの方が切実な人間になった。彼女が今どんなふうに生きているかは分からない。交流も絶えて久しい。ただ、おそらく変わっていないであろう予感はする。

懐しく、今の自分からは遠く、だから蜃気楼のように、ぼうっと眺める気持ちで読んだ。



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