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【雑誌記事】小泉悠 水タバコ屋で気分を上げる、文藝春秋2024年1月号、208頁~217頁

概要

 文藝春秋2024年1月号に「私が大切にしている10のこと」という特集が組まれ、様々な分野の著名人が寄稿している。ロシア政治の専門家である東京大学専任講師の小泉悠氏は、「水タバコ屋で気分を上げる」という短い文章を寄稿。著者が大切にしている10のことは以下のとおり。

①細部にこだわる「オタク」であり続ける
②毎週、必ずメルマガを書く
③「横の文書を縦にする」だけの仕事はしない
④アウトプットは"大きな話”まで繋げる
⑤脇道を行く
⑥短期間でいいから現地に行く
⑦能力がないことは認めて人に任せる
⑧居場所を二つ以上作る
⑨Twitterの中では「全裸」でいく
⑩水タバコで気分を上げる

感想

〇 「ロシアの武装強襲ヘリに新しい赤外線妨害装置がついている」といったことまではさすがに把握していません。(中略)逆にいえば、そのくらいのことしか比較優位がないので、そこは譲らずにアップデートし続けようと思っています(209頁)
 どの世界にも競争は存在しておりますが、私のようなアカデミックとは縁遠い一般人からすると、学者の世界は頭のいい人達が論文を書き、学会がそれを評価するという世界であって、いわゆる一般の人への分かりやすさというのは二の次という印象がありました。
 著者はアカデミックバリバリというキャリアではなく、シンクタンクでの勤務歴が長いことが影響しているからか、論文の本数や質だけでなく、自分の軍事オタクの知識を競争優位として明確に認識しつつ、自分のポジションを固めているように思います。単に知識の多寡だけで勝負すると差別化は難しい。好きこそものの上手なれ、という職業選択におけるセオリーを差別化に使うあたりはセンスがいいように思います。そこで他者に優位に立つという方針をしっかりと持っている点は、普通の学者とは一線を画すように思いました。
 そして、専門知識を更新するために毎週、必ずメルマガを書くというアウトプットの機会を設けていることも、著者に対する親近感を妙に高めます。軍事オタクであれば好きなだけ研鑽できるかといえばそういう訳でもない。特段好きなものがない場合でも、これで食っていくんだという覚悟を決めるのであれば、この程度のアウトプットが求められるのだと考えます。

〇 大量のデータを頭から引き出すことができるのは、専門家の前提条件ですが、十分ではない。データを他と違うやり方で処理することが大事です(212頁)
 上記の専門知識と関連することとして、著者は、細かい話(専門知識)をいかにして大きい話に繋げるか、ということも重要であると指摘しています。新しいヘリが欧州の安全保障にどのような影響を与えるか、それによって国際秩序はどう変化するか、日本の安全保障への影響はどうか、株価はどうかといった点に世間の関心があるのであって、専門知識をそのような大きな話につなげることこそお客さん(世間。TVを見ている人)が求めている ものであるとします。
 報道番組を見ると毎日のように新しいニュースが放送され、個々のニュース毎に専門家が登場します。そのほとんどが自分の専門知識を披露するだけで終わっており、お客さんのことまで考えている人が少ないように思います。著者の指摘のとおり、専門知識があることは前提条件であるし、中身が詰まった話には迫力がでます。それに加えて、その専門知識をお客さんが求めているように調理して提供すること。この当たり前のことをしっかりと認識して報道番組等でコメントしていることが、著者がウクライナにおける戦争の論客として頭角を現した大きな理由ではないでしょうか。
 職業選択においても、自分がやりたいことではなく、得意なことを意識しようと言われますが、得意なこと(ロシア軍事の専門知識)を「相手が求めている形」に落とし込むこと(大きな話まで繋げる)までが重要であると思いました。

〇 どんなに疲れていても、水タバコのラージサイズを頼んでポコポコ鳴らしていると、もうニ~三時間はそこで仕事ができます(217頁)
 こういうルーティン、大事ですよね。私は運動、睡眠をしっかりとるように心がけていますが、水タバコのような若干不良っぽい(?)ものに憧れます。サウナとかもいいんですかね。 

 自分の好きな文章を紹介するという点では書評と同じですので、これも目標の50にカウントしようと思います(笑)。
 いつかシステム思考の本を読んでみたいです。書評を書きたい。

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