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コロナとセガとエンタメと。

1998年、Dreamcastの頃。

僕がセガに入社した時は、DreamCastの発売直後。「セガラリー2」「バーチャファイター3TB」「バーチャロン:オラトリオタングラム」「ハウス・オブ・ザ・デッド2」。初期のドリキャスを支えていたのは、セガのアーケードゲームの移植タイトルたちだった。当然、僕も買って遊んでいた。

セガというのは、元々アーケード開発が強い会社だ。当時は、アーケードの基盤の方が家庭用ゲームハードよりも性能が高かったし、最新技術やテクノロジーが真っ先に導入されるのは、常にアーケード。セガのイノベーションを支えていたのは、まさにアーケード部門だったのは間違いがない。

そしてアーケードの開発では、プログラマとデザイナーのパワーが超強かった。1コイン3分のゲームデザインは非常に感覚的で、RPGやシミュレーションゲームとは違う。いちいち仕様を揉んでいるより、トライ&エラーを繰り返した方が手っ取り早い。なので、僕がアーケード部門に配属されていても、偉くならなかったのではないかと思う。

そういう環境であっただけに、彼らは「自分たちがゲームを作っているのだ」というプライドが高かった。龍が如くチームはアーケード開発出身と家庭用開発出身の混合部隊からスタートしているのだが、やはりアーケード開発のプログラマの発言力は強力だった。

「仕様なんて必要ない。やりたいことだけ決めてくれたらこっちで作る。」「こんなしょうもないボスキャラは作らない」
「60fpsで動作しないなら、このタイトルは家庭用に移植させない」

そんなやり取りでもめることもあったと記憶している。まあ、ぶっちゃけて言えばメンドクサイ人たちも多かったりした。

ただ、僕は彼らのことが好きだった。プライドを持って仕事をしているし、口も出すが当然手も動かす。自然とクオリティに差が出るものだ。決められた仕様に唯々諾々としたがう人たちよりも、文句を言ってくる人達とやりあいながら作っていくのがゲーム開発の面白いところだと思っているので、アーケード出身の開発者は、ゲームデザイナーとしては心強く、尊敬できる仲間たちだった。(メンドクサイけど。)

「アーケードの業界は小さくなっていく」というのはずっと前から言われていたことだ。そこを何とかするためにセガのアーケード部門の人たちもいろんなチャレンジをしていたことを知っている。ビジネス規模が小さくなったとしても、「ゲーセンカルチャー」は遺産のようにセガに残り続けるのだろうな、とそう思っていた。

だが、その時は来てしまった。

言わずと知れたコロナウィルスによって、だ。

人と人との繋がりを奪うこのウィルスは、時代の転換を大幅に進めてしまう。「いずれそうなる予定」の未来が、5年から10年早く到来する。

「いずれゲームはダウンロードで買うことになる」というのは僕が会社に入った頃から言われ続けていたことだ。それから20年経っても、ゲームのパッケージ販売というのはまだ主流で動いていたが、このコロナ化でDL販売そのものがさらに拡大していくだろう。DL販売がパッケージ販売を上回る未来は、もう目前だろう。

加速していく世界、そして。

デジタルシフトの波は映画業界を直撃している。ディズニーが今後はディズニー+での配信をメインで考えて、映画公開をしなくなるかもしれない、という話。

これも「いずれなそうなる」というタイプの話だが、このコロナ下でどのような対策を取るか、と経営層の人々で話される内容としてはメチャクチャ信ぴょう性がある話である。

このコロナきっかけでさらに激化しそうなストリーミングプラットフォームの戦争に勝つための手段としても、「新作はDisney+」というのは強力な切り札になるのかもしれない。

ちなみに、アメリカがまだロックダウンしているにもかかわらずTENET公開に踏み切ったノーラン監督のコメントはこちら。

「長期的に見れば、映画館に行くことは生活の一部です。レストランに行くのと同じようにね。しかし現在は、みんなが新たな現実に適応しなくてはいけません」

TENETをIMAXシアターで見たが、それはそれは素晴らしい体験だった。だが、そういった価値がある作品というものはどれぐらい今後作られるだろうか?「超ビッグタイトル以外はストリーミング」という時代はもう目の前だ。映画館に行くことは生活の一部でなく、年に数回のアトラクション体験と同じようになるのだろう。

ゲームセンターで遊び、映画を見に行き、カラオケボックスで騒ぐ。そういった身近で手軽な娯楽というのはZ世代には懐古厨と罵られる昭和のおっさん、いや、平成も含めたオールドファッションな生活になっていくのかもしれない。

緩やかであるはずの変化が急激にやってくる時には、なにかしらのひずみが発生する。ビジネスの再構築を行う時には、選択と集中が必ず行われる。Z世代が生きていくこれからの世界はどうなっていくのだろうか。

アーケードゲームの思い出に浸りながら、混迷を極めるアメリカ大統領選挙を横目にしながら、そんなことを考えていた。

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