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脳震盪症状とリハビリ

スポーツや交通事故後に脳震盪症状が出ている人は多い。


スポーツでの脳震盪だと、80%の人は7~10日で自然に良くなっていくけど、20%の人は3週経過しても治らず、ときには5年経っても治らない人がいる。
交通事故後でのむち打ちでは、発症時の疼痛・障害が3ヶ月後に回復するのが1/3、軽度残存するのが1/3、残りの1/3は重度の症状が持続

脳震盪はスポーツだけではない。交通事故を起こした人はほぼ必ず病院やクリニックにやってくる。だからスポーツリハビリに携わっていなくても、整形に携わるセラピストは脳震盪について、ある程度知識を持っていた方が良い。


脳震盪って?

一般的な画像所見では異常が見つからないことが多く、

脳震盪とは、頭部打撲後、一過性の意識消失をきたすが、神経症状を残すことなく回復し、肉眼的に気質的変化を認めない状態。外傷後健忘症、バイタルサインの変化、頭痛、吐き気が数日続くことがある。

と定義されてます。症状は本当にさまざま。

頭痛・めまい・不安・吐き気・眼疲れ・光に敏感になる・集中力の低下・頸部痛・眼球運動の変化・バランス感覚の低下・疲労感・抑うつetc...

加えて、「意識障害をきたす」っていうのも実際はあったりなかったり。

冒頭でお話ししたように、人によってはすぐに治るし、長期間症状が残ってしまう人もいる。

ある文献ではこのような記載がありました

あとは、受傷直後あるいは数日間のうちの重症度、抑うつ傾向にある人もリハビリの遅延因子。


脳震盪症状とリハビリ

リハビリだけで全てが良くなることはない。

あくまでも患者さんを取り囲むメンバーのうちの一員だって気楽に構えていた方が良い。


脳震盪症状に対して、僕たちセラピストができる領域は大きく3つ

❶前庭・動眼のリハビリ

脳震盪を引き起こすエネルギーは前庭と眼球運動に関する経系にもダメージを与えます。

輻輳運動・追跡性眼球運動・衝動性眼球運動・固定視。このあたりはセラピストが評価・エクササイズできる領域ですね!

👇眼球運動についてはこちらをどうぞ👇


眼球運動の制御は、2つの要素に依存してます

❶空間における頭位

❷頭に対する目のポジション

そして、頭位は前庭・視覚・頸部の固有感覚(特に上位頸椎)からの情報で決まります。つまり、この3要素は決して独立してなくて、全てが関与してる。

だから、例えば追跡眼球運動は単純に眼球運動の能力だけで決定されていないくて、視覚・前庭・頸部からの情報の適切な統合があってのものなんです。

▶︎つまり、どれかに障害があれば、他機能の低下も疑う必要がある!ということですね。


👇前庭とバランス、前庭と眼の関係についてはこちらをどうぞ👇


❷頸椎のリハビリ

頸椎の中でも、特に上位頸椎が下位頸椎に比べて問題になりやすい。

それは僕が思うには

・筋紡錘が後頭下筋群にめちゃくちゃ多いから

・後頭下筋群は硬膜と間接的に連結してるから

・そもそもForward Head Postureで筋バランスが崩れてる人が多いから

👇後頭下筋群についてはこちらの記事をどうぞ👇

これを考えると脳震盪後の頸椎リハと難しく気構える必要もないかなって思う。頸部に関しての運動・解剖があれば、あとは脳震盪の病態と絡めれば良い。

気をつけておきたいことは、頸椎だけでなくて胸椎の可動性も評価しておくこと。

本来であれば

胸椎=可動性、下位頸椎=安定性、上位頸椎=可動性

なんだけど、実際のところ

胸椎=可動性低下、下位頸椎=過可動性、上位頸椎=可動性低下

になっていることが多い。

だから、胸椎可動性を上げて、下位頸椎の安定性を出して、上位頸椎の可動性をあげるように徒手・運動療法を行なっていく。

頸部の運動時痛があるときには、胸椎伸展や屈曲に修正したらどのように変化するかみてみると、リハビリの方向性が分かりやすくなる。

👇頸部についてはこちらの記事をどうぞ👇

上の動画は「頸部とバランス」の記事にも載せてますが、前側の筋肉もしっかり強化。

頭長筋や頸長筋の頸部深層屈筋群は頸部痛と関係があって、この筋の機能低下から胸鎖乳突筋や斜角筋など表層筋の過活動につながる。

頸部深層屈筋群のエクササイズは、頸椎の直立姿勢を維持する能力を改善させる効果も✨


Kathryn J Scheiderらによると

頸椎と前庭のリハビリをしたグループは、それらをしていないコントロール群に比べてより早く競技復帰できた

と報告されてます。

また、受傷した選手の認知障害や平衡機能障害などのさまざまな症状は、多くの場合受傷後約2週間のうちに急速に回復するとも言われています。


視覚・前庭・頸部のリハビリで念頭に置いておきたいことは1つ。1つのテストでどの部位の影響が大きいかは判断できないこと。

3つの要素が複雑に絡み合っているわけだから、わずかなテストで判断を進めていかない。評価項目は多ければ多いほど良い。

簡易的なテストで、僕はこんな評価を使うことがあります。


❸漸増的な運動負荷の管理


段階的な運動の有無が臨床成績に関係すると言われています。ポイントは症状が落ち着いてからスタートすること。

誰かとぶつかったり、事故直後で症状が出だしたらまずは休養が必要なんです。

それは、2度目の頭部外傷を予防する意味もあるし、オーバーワークで症状悪化を予防する意味もあります。


生理学的な回復が、臨床的な回復よりも長い時間が必要

このようにも言われており、競技復帰に向けた運動強度目安は心拍数がおすすめ

また、筋力トレーニングは最初から行わない方がベター。


リカバリーフェーズ

リハビリを進めるにあたって初めは対症療法的なところもあると思うけど、肩関節周囲炎の病期のように、脳震盪後のリハビリでもフェーズ分けしておくと便利。


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1つ目の段階は、Protection Phase

二度目の衝撃を防いだり、身体にかかる過負荷を避けて症状悪化を防ぐ段階。注意しなければいけないことは、既に説明したように休養は絶対的ではないということ。

完全な休養よりも症状が落ち着いたら少しずつ身体を動かしていった方が良い。

だから、僕たちセラピストは患者さんの家族も含めた指導を行う必要がある。例えば、

・症状が悪化する可能性があるから、数日の間は患者さんを1人きりにさせないように

・症状が出ているうちから自己判断で身体を動かしていかないように

・フラフラしてると転げたりして、また衝撃が加わる可能性がある

などなど。適切な休養の必要性・適切な運動負荷の必要性を丁寧に説明して、症状の管理に努める。

オーバーワークは症状の悪化を招きます。


2つ目の段階は、Deficit Management Phase

この段階から機能改善をどんどん進めていく。ADLレベルまでならこの段階で終わりで良いと思う。

運動は簡単な課題から徐々に難しい課題に進めていく。体位は何でするか、課題数はいくらにするか、Tandem立位保持、Tandem gait、片脚立位保持とか!


3つ目の段階は、Return to Sport Phase

ここから段階的に、安全に各競技・各ポジションごとに必要な課題や動作を組み込んでいく。

どの段階でも明確な終了ポイントはなく、それぞれ必ず重なる時期がある。

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まとめ

・バランス不良はざっくりすぎる。視覚・前庭・体性感覚どこからのアプローチが効果的か評価することが大切

・脳震盪後のリハビリの主な領域は、視覚と前庭・頸部・有酸素運動の3つ

・リハビリは、Protection Phase・Deficit Management Phase・Return to Sport Phaseに分けて考える


参考

・A CONCEPTUAL MODEL FOR PHYSICAL THERAPISTS TREATING ATHLETES WITH PROTRACTED RECOVERY FOLLOWING A CONCUSSION

・Cervicovestibular rehabilitation in sport-related concussion:a randomised controlled trial 

・頸部理学療法のマネージメント

・Eye movements in patients with Whiplash Associated Disorders:a systematic review

・スポーツにおける脳震盪に関する共同声明-第5回国際スポーツ脳震盪会議(ベルリン,2016)-


ライタープロフィール

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運動器リハの中でも下肢疾患が大好き。今は上肢の魅力にも取り憑かれ、日々勉強中!

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