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言葉づかいに出る企業文化

 最近、某会社のパーパスづくりのお手伝いをしている。50周年を迎えるその会社は、産業廃棄物を処理する会社で、僕はここ最近、編集者がいま取り組むべきテーマは「ごみ」だと確信していることもあって、自身の勉強を含めてお仕事させていただいている。

 どうしても3K的な汚れ作業のイメージがつきまとう「産廃業者」さんだけれど、おつきあいさせていただいている幾つかの産廃さんはみな、若い女性の新入社員も多く、その動機はみな、仕事の内容の重要性を理解し、サステイナブルな社会の実現にむけた実際的な取り組みに惹かれてやってきてくれるという。

 そんな業界のなかで、特に業界のイメージアップに貢献しているのが、パーパスづくりに携わらせていただいている会社だ。仮にこの会社をH社とするが、H社のパーパスづくりを、社長以下、役員の人たちが、コンサルを入れてつくるみたいなことではなく、自ら会社の未来をつくっていく若手社員に託そうとしたことが、まず素晴らしかった。僕がこのお仕事を引き受けようと思ったのは、そこがとても大きい。

 若い人たちが、会社の歴史を知り、そこからどんな言葉を抽出し、パーパスとしてまとめあげるのか? その過程を想像した僕は、そこに伴走させてもらうことは、僕の使命のようにも感じた。会社の文化というのは、言葉遣いに見事に現れる。逆に言えば、言葉遣いから文化を変化させることもできるということだ。

 創業からいまもなお成長を続けているH社の文化を見通すには50年というのはとても興味深い節目だし、意義がある。それは僕が来年50歳になるということにも心情的な関わりがあるのかもしれない。

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 先日、長野県伊那市で講演があり、そのための前乗りで、同じ長野県の富士見町というところにある「カゴメ野菜生活ファーム」という施設に遊びに行った。コンビニなどで並んでいるあの「野菜生活」の工場が以前から富士見町にあり、地域への感謝を込めて2019年にオープンした施設で、まさにコロナ禍に入るタイミングだったろうから、オープン時の苦労を想像する。

 近隣の野菜を使用したメニューが豊富なレストランでは、野菜生活が使われたソフトクリームが食べられたり、オリジナルパッケージの野菜生活が買えるショップがあったりと、かなり充実した施設で、その目玉がファクトリーツアーだった。

 施設内でまずは畑について説明をしてもらい、その後近くの工場までバスで移動。製造ラインを見せてもらいながら、野菜生活がどうやって出来上がっているかが知れて、それはそれはとても楽しかった。飲みやすさ重視で当初は野菜と果実の割合が50%ずつだったのが、野菜60%、果実40%に、さらに今年の2月からは、野菜70%、果実30%へと変化。味わいはそのままに、野菜への研究とさまざまなブレンドの知見を結集し、果糖をあまり取りたくないという現代の需要に沿うように変化し続けている姿にとても感動した。

 野菜と果物の比率を変化させながらもなお味わいをキープすることはもちろんのこと、そもそも野菜という、産地や季節で個体差のでるものに対して、添加物を加えることなく、常に同じ美味しさを届けるのにはいったいどんな秘密があるのか、そこがとても気になったのだけれど、その答えは驚くほどシンプルだった。その秘密は単純に人間の舌だった。

 甘味、酸味、塩味、苦味、うま味の五味に対する、厳しい社内試験に合格した「五味識別パネリスト」の人たちが、原料を都度調整しているというのだ。富士見工場で製造される野菜生活は1日150万本。年間で4億6千万本が製造されるという工業製品の食味を人間の感覚でチェックしている事実に、とんでもなく驚いた。

 なぜここで僕が野菜生活ファームの話をしたのか。それは工場見学冒頭に受けた、とある説明が頭のなかにずっとあって離れないからだ。各地の契約農家さんの畑の映像を見ながら説明を受けていた時のことだった。子供連れの家族参加も多いツアーゆえ、若干アトラクションぽく演出されており、ナビゲーターのお姉さんは探検家の服を着ながら、独特の抑揚で、こんな風に説明してくれた。

「カゴメでは畑のことを第一工場と呼んでいます。そしてこの後ご覧いただくジュースの工場を第二工場と呼びます」

 ツアー冒頭で聞いたこの言葉がとてもひっかかっていた。いまの世の中にフィットすることだけを考えれば、もし仮に僕が言葉をつくるならば、第二工場をこそ、第二の畑と呼ぼうと促したと思う。その方が、自然の実りをもとにつくられていることや、そこに人間の手や感覚が欠かせないこともじんわり伝わるように思う。しかし、KAGOMEという会社の文化はそうではないということだ。KAGOMEにとって、多くの人たちに均一な美味しさを届けられるかどうかを考えた時に、畑の効率化、つまり工場化がとても大切で、そのための努力や強い意志がその背景にあるからこそ、堂々と、畑を工場だと言語化している。それが良いとかわるいとかではなく、そこに確かに露呈しているものが、その会社の文化だ。

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