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学園内に広がる環境アクション「小さくても自分にできることから始める」を大切に

ドイツへの留学で、「食から環境問題にアプローチできる」と知った真家有里奈さん(高等部3年生)。

帰国後、そうした食と環境のつながりや行動の選択肢を学園の生徒にも知ってほしいと考え、企画したのが「マクロビオティック昼食」でした。

企画理由や準備について語ってもらった前編に引き続き、後編では実施後の反響や生徒たちに広がった行動、今後学園で実践したいことなどについて聞きました。
※前後編の後編

▼前編はこちら


◆ マクロビの考え方を学んだ調理時間 

―― 前編では、当日に向けて不安もあったと話していましたが、当日はどんなふうに調理が行われたのでしょうか。

真家有里奈さん(以下、真家):
「試作会のメンバーが中心になって、手順などを教えながら調理していきました。本番も中島デコさん(マクロビオティック料理研究科)とアシスタントの平野幸子さんにサポートいただけたので、心強かったです。200食という大量調理でも、時間内(約2時間)で作り終えることができました。

当日の調理の様子。左が中島デコさん。 

一方で、10人分を作った試作会とは勝手が違う部分もありました。特に量の調整がしづらく、ソースが多すぎたのか試作の時と少し味が違うな、などと感じるものもありました。そこはやはり、大量調理特有の難しさを実感しましたね。

200人分のご飯。調理器具も特大サイズです。

全体としては、デコさんたちから無駄のない調理方法を直接教えてもらうなど、とても有意義だったと感じています。こうした実践を通して、マクロビオティック(以下、マクロビと表記)が大切にしている『食材を丸ごといただく』という考え方も実感できたのではないでしょうか。

私自身は当日の調理がすごく楽しくて、あっという間に終わってしまった印象です」

◆ マクロビを食べた生徒の感想は?

―― マクロビメニューの昼食を食べた生徒たちの反応はどうでしたか。

真家:
「想像以上にポジティブに受け取ってもらい、とてもうれしく感じています。

当日は、まず朝の礼拝の時間に、全員に向けて昼食がマクロビのメニューになることを伝えました。マクロビがどんな食事・調理法なのかに加えて、環境配慮の側面も持つことも説明しました。私としては、単に『肉や魚(動物性タンパク質)が入っていない食事』というふうに捉えてほしくなかったので、言葉選びにとても苦労しました。

ドイツでの留学で学んだことを説明する真家さん。

その甲斐あってか、実際に昼食を食べた後、『とてもおいしかったです』『初めてマクロビという選択肢があることを知りました』などの感想をたくさんもらいました。

生徒だけでなく先生方にも声をかけていただき、マクロビの良さに触れてもらえたと思っています」

当日のマクロビ昼食。米、大根、紫いもはオーガニックの食品を調達。その他の野菜は、CO2の排出抑制の観点から東久留米市内で栽培されている野菜を選択した。

【マクロビ昼食のメニュー】
・大根の葉入り五分搗きご飯
・大根のすり流し汁
・れんこんボール トマト味噌ソース添え
・蒸し野菜(紫いも/豆乳マヨネーズ)
・りんごの塩煮(手作りグラノーラ)

真家:
「マクロビ昼食の日は、食堂の空気がいつもと違う気がしたんです。なんていうか、時間がゆっくり流れているというか、穏やかな雰囲気というか……。

学園生活は毎日とても忙しく、普段の昼食は、『とにかく時間内に食べなくては』という気持ちが先行してしまいます。ゆっくり味わう余裕がなく、とりあえず食べようというかんじで。あとから『今日のサラダにはどんな野菜が入っていたか』と聞かれても、答えられないくらいです。

だけど、マクロビ昼食の日は、みんながじっくり味わっていることが伝わってきました。それが、温かくて和やかな空気感を生み出していたんだと思います」

◆ 学園内に広がる「食と環境」へのアクション

―― 実際に調理に参加した生徒は、マクロビについてどんなふうに感じたのでしょうか。

真家:
『マクロビの調理法がすごく参考になった』という感想がありましたね。食品ロスについて調査をしているグループのメンバーは、今回学んだ野菜の切り方などを今後も続けていきたい、と言ってくれました。

当日調理した蒸し野菜。

企画を通して、改めて、学園内には食と環境に関心のある人が多いなと感じました。ここ数年、授業(共生学)でもオーガニックカフェを運営するなど、有機栽培や環境について学ぶ機会が増えているからかもしれません。

そうした基礎知識があったから、マクロビを肯定的に捉え、共感してくれた面もあったかもしれませんね」

―― 調理した人にも、食べた人にも、きちんとマクロビの魅力や意義が伝わったということですね。

真家:
「そうですね。今回の企画の一番の目的は、『環境に配慮した食生活の選択肢』を知ってもらうことでした。それが実現でき、しかも『おいしい』『もっと食べてみたい』という前向きな反応があったことは、大きな収穫です。

今後は食に限らず、『学園生活の中で環境に配慮した行動』ができる機会を増やし、さらに選択肢にも広がりを出せればいいですよね。その第一歩としては、意味があったのかなと思っています」

―― 中島デコさんからは、何か感想をもらいましたか。

真家:
「まずは無事に全員分の調理が時間内に完成したことを、一緒によろこんでくれましたね。みんな料理の手際がいいとお褒めの言葉もいただいて。

試作会で生徒と一緒に調理する中島デコさん(左側)。

あとは、今後学園の食事をより良くしていくために、いろいろな提案もしてくださいました。例えば、味噌作りをしてみたらどうか、などです。畑で大豆から育てて味噌を作るとすごくおいしいし、料理の味がかなり変わるよ、とおっしゃっていました。

とても興味深いし、チャレンジしてみたいです」

◆ 小さくてもいい できることから着実に取り組む

―― 学園生活を通して環境問題に取り組むために、真家さん自身は今後どのようなことをしていきたいと考えていますか。

真家:
「環境問題へのアプローチ方法として、学園での食教育を通してできることはまだまだ沢山あると考えています。学園で育てる有機野菜を少しずつ増やしていくなど、できることから取り組み、それらの仕組み作りをしていけたらと思っています。

学園にいる時間も限られてきているので、関心のある人を集めて食を通じた環境配慮の取り組みが今後も続いて行くよう、この企画から次のステップに繋いでいくことも今後の目標です。

それから、『マクロビ』という点で言えば、学校だけでなく寮の食事でも実践してみたいと思っていますね。寮は学校よりさらに時間がなく、急いで食べている感覚があります。だからこそ、『環境配慮』という側面だけでなく、『体を休めるマクロビ食』という魅力も感じてもらいたいんです。

試作会で作ったマクロビメニュー。

マクロビは動物性タンパク質を使わないので、消化にかかる時間が短く、体への負担も少ないです。ゆっくり味わうことで、体も心も休める時間を作る。平日は難しくても、休みの日などにマクロビ食を作って、みんなで食べることができたらいいなと思っています」

――「小さくてもできることから実践する」のはとても大切ですよね。ですが、中には「肉を食べないなんて無理」と、最初から拒否反応を示す人もいますよね……。

真家:
「その気持ちは、わからないでもないんです。私も肉や魚がとても好きなので、ドイツでのホストファミリーとの食事は、最初は物足りなく感じていました。お肉が食べたいな、と思うこともありましたし。

これまで普通の食事をしてきた人が、急にヴィーガンやベジタリアンになるのは難しいですよね。だから、肉や魚をゼロにしなくてもいいと思います。『フレキシタリアン』という選択肢もあるし、自分が無理なくできることから始めればいい

【フレキシタリアン】
「フレキシブル」と、「ベジタリアン」をかけ合わせた造語。動物性タンパク質摂取をできるだけ控えるが、状況によっては食べることもある。「柔軟な菜食主義」とも言われる。

私たちが企画したマクロビ昼食も、全ての食材をオーガニックで揃えることはできませんでした。

しかし、有機野菜が難しくても、できるだけ近い場所で栽培された野菜を選ぶなど、環境を少し気にかけてみる。今やれることから取り組んでいく。本当に小さくてもいいので、そういう選択をする人が増えれば徐々に環境配慮の道が広がり、みんながより行動しやすくなるのではないでしょうか

こうした意味でも、マクロビ昼食企画は『日常生活の中から取り組める選択肢』を示すことができたと思っています。その後も寮での調理時に、マクロビで実践した『食材をできるだけ無駄なく使う』という調理法を続けてくれる人も多いんです。『自分たちができることから少しずつ』という思いがしっかり伝わっていると感じます。

学びの多かった当日の調理。

今回企画から実施までかなり大変でしたが、一生懸命取り組んですごくよかったなと思っています。デコさんをはじめ、先生方や食材部の方などたくさんの方の協力があったからこそ実施できました。感謝しつつ、これからも学園生活でできることを探していきたいです」

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真家さんがマクロビ昼食を通して伝えた「食から環境へのアプローチ」が、学園内に少しずつ広まり、変化を生んでいます。
持続可能な社会に向けた学園の着実な取り組みを、今後もレポートしていきます。


取材・執筆 川崎ちづる(ライター)


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