生徒が発案も調理も! 200人分のマクロビオティック昼食ができるまで
2月のとある日の昼食時、自由学園の食堂では、いつもと違う雰囲気が漂っていました。じっくりと素材の味を楽しむ生徒たちに、リラックスした笑顔が広がります。
この日は、高等部2年生(2023年度)の調理担当グループが、マクロビオティックによる食事を調理して提供。中等科・高等科の生徒200人(当時の女子部生徒)がこれを昼食として味わいました。
マクロビオティックとは、穀物、野菜など日本の伝統食を基本にし、動物性タンパク質をできるだけ摂らない食事(調理)方法です。気候変動の影響が年々強まり、早急に持続可能な社会への取り組みが求められる中、注目を集めています。
この「マクロビオティック昼食」は、高等部新3年生の真家有里奈さんが企画。どうしても実現したいと約半年かけて準備し、企画から試作、当日の実施までを手がけました。なぜマクロビオティックの昼食づくりを実施しようとしたのか、そこに込めた想いや実現までの苦労、手応えなどをうかがいます。
※前後編の前編
◆ 「食から環境問題にアプローチ」を知ったドイツ留学
―― 環境やサステナビリティを意識する人の中では、マクロビオティック(以下、マクロビと表記)はある程度認知されていますが、一般的とまでは言えないと思います。真家さんがマクロビを知ったのは、どのような経緯だったのでしょうか。
真家有里奈さん(以下、真家):
「私は小学生の頃から環境問題に関心があり、マクロビについても言葉は知っていました。でも、詳しかったわけではなく、食べたこともありませんでした。そこからマクロビの食事を学園で提供したいと思うようになったのは、更科先生(現学園長/当時女子部部長)に中島デコさん(マクロビ料理研究家)を紹介していただいたことが直接的なきっかけでした。
その背景として、留学での経験や問題意識がありました。私は高校1年生の夏から1年間、ドイツに留学していたんです。そこで環境問題への関心がより大きくなり、特に食とのつながりについて考えるようになりました。帰国後にその話をしたら、更科先生がデコさんのことを教えてくれたんです」
―― 留学先のドイツで、食と環境の関係を考える機会があったのでしょうか。
真家
「はい。ドイツは環境先進国なので、たくさんのことを学びましたが、食について一番大きな影響を受けたのは、留学先のホストファミリーでした。ホストマザーはベジタリアン、ホストシスターはヴィーガンだったんです。
日本では、身近にベジタリアンやヴィーガンはいなかったので、『健康に気をつかっている人』くらいのイメージしか持っていませんでした。ですが、一緒に生活して話を聞く中で、動物性タンパク質を摂らない食事を選んでいるのは、環境配慮のためだと知りました。食事方法で環境問題にアプローチする。そんな選択肢があること自体を知らなかったので、とても驚きました。
そこから身の回りをよく見てみると、ドイツではオーガニック商品がかなり身近。食材はもちろん、コスメや歯ブラシなどの日用品なども、普通のスーパーでオーガニックや環境配慮のものがたくさん売っています。ドイツに留学した当初から、オーガニック商品が多いなとは思っていましたが、生活していく中で改めてその種類の多さを実感しました。
一方で、日本ではオーガニックのものは高いし、気軽に買えるとは言い難いですよね。選択できるものが限られているから、環境配慮が生活に馴染まない。そういった在り方も要因で食生活と環境問題がつながっているという考え方が広がらないのかな、と思いました」
◆ ドイツで実感した日本との違い
―― この10年ほどで、日本でも自然食品の店が増えたり、スーパーで環境配慮商品が販売されるようになったりと変化を感じますが、ドイツとはレベルが違うんですね。
真家:
「ドイツでは、オーガニック商品が普通に並んでいるので、特に意識しなくても自然に手に取れる感じです。あまりにも『当たり前』に置いてあるので、一体どれくらいの人がそれらを意識して選んでいるんだろう、と疑問に思いました。それで、留学期間中に街頭インタビューを実施してみたんです。
インタビューでは、環境について日常生活で意識していることなどを聞きましたが、買い物だけでなく、より広範囲で行動している人がたくさんいました。
例えば、温室効果ガスを排出しないために車を持たない人、できるだけ自転車で移動する人などです。一人ひとりの環境への意識の高さがよくわかります。
また、街頭インタビューではあまり話を聞けなかった自分と同世代の意識も把握したいと考え、学校のクラスでアンケート調査も行いました。環境問題について普段から実践していること、SDGsやエシカル消費についてなど、数項目のアンケートでしたが、その結果にはとても衝撃を受けました。
ドイツの高校生は、『SDGs』という言葉をほとんど知らなかったんです(アンケート結果で「知っている」は12.8%、「知らない」が87.5%)。そして、同じ調査を帰国後に学園のクラスで実施したら、真逆の結果になりました(「知っている」が98.6%、「知らない」は0%)。
とはいえ、ドイツの高校生は環境への意識が高く、何らかの行動をしている人がかなり多いです。実際、同級生との会話には、デモへの参加や日常生活の工夫など環境への具体的なアクションがよく登場していました。そう考えると、日本は言葉だけが先行していて、内容理解や行動にはつながっていない現状があるんだなと、実感しました。
だからこそ、私がドイツで感じたこと、食から環境問題へアクションできることについて、帰国してから学園のみんなに知ってもらう機会を持ちたいと考えていました。
幸い、自由学園には学園内で野菜を育て、それを生徒が調理し昼食として食べる、という文化があります。食を通して自然の循環を学べる場が既にあるので、それを生かして何らかのオーガニック的な要素を入れられないか。漠然とそんなことを想い描いていました。
それを更科先生に話したら、『是非ここに行っておいでよ』とブラウンズフィールド(中島デコさんが運営するマクロビを体験できる施設)を教えてくれたんです」
◆ 肉も魚も使わないのに満足感があるマクロビ食
―― 実際にブラウンズフィールドに行ってみて、どうでしたか。
真家:
「私がマクロビの食事をしたのはブラウンズフィールドが初めてでしたが、まず何より食事としておいしいし、すごく食べやすくて驚きましたね。動物性タンパク質を使っていないのに、お腹がいっぱいになりました。満足感が高いんです。
しかも、翌日の体調がとてもスッキリしていました。母と一緒にブラウンズフィールドに宿泊したのですが、母も同じ感想でした。
マクロビ食を食べてもらうことで、学園のみんなに私がドイツで感じたことを伝えられる。そう思ったので、すぐにデコさんに相談して、学園の昼食でマクロビのメニューを作れないか考えはじめました」
――「食で環境問題に取り組む」という視点なら、ドイツで食べたヴィーガン食を作って紹介することもできたと思います。マクロビを選んだのはなぜでしょうか。
真家:
「ヴィーガン食は、最初に導入するにはハードルが高いと感じていました。食材として肉や魚を使わないだけでなく、味付けも日本人にはあまり馴染みがないので、『おいしい』と感じてもらうのは難しいな、と。実際私も、ドイツで慣れるまで時間がかかりました。
先ほども触れましたが、マクロビはすごく食べやすいです。調味料もみそやしょうゆといった、普段から私たちが食べ慣れているものがベースになっているし、日本の調理法を大切にしているからだと思います。普段の食事に近いから、学園のみんなも受け入れやすいのではないかと想像しました。
それに、自然の恵みをできるだけ無駄なくいただくなど、マクロビの考え方をデコさんに教えていただいて、是非みんなに知ってほしいと感じました。学園でマクロビ食を作って実際に食べてもらう。そして、食材がどうやって育てられているのかなど、作り手のことも含めて知り、考える。そんな機会にしたいと思いました」
◆ 学びが多かった試作会
―― 具体的に、企画はどのように進めたのでしょうか。
真家:
「私が『マクロビについて知ってもらう企画をしたい』と話していたら、自分も興味があると言ってくれたクラスメイト(出口七帆さん)がいました。お母さんが普段の食事にオーガニック食品を取り入れているそうで、彼女自身も知識が豊富でした。それなら一緒にやろう! と意気投合して、企画に取り組みました。
まずはデコさんにマクロビの献立を依頼し、提案していただきました。私たちは、普段の学園の昼食がどんなものか(主菜、副菜、ごはん、汁物、デザートで構成されていることなど)をお伝えし、それを受けてデコさんが献立案を作成してくださいました。
当日は、200人分(女子部の中等科・高等科の全生徒)を担当の生徒約20人、時間は2時間程度で調理しなくてはならないため、効率的に作業を進める必要があります。デコさんも、そこまで大量の食事を作った経験がなかったそうで、実際に実現可能か、提案いただいた献立で試作会をしてみようということになりました。
12月に実施した試作会では約10食分を調理することとし、食材などの準備は私と出口さんで担当しました。でも、これがとにかく大変で。まずは学校の最寄り駅近くのオーガニックショップに行き、有機野菜やオーガニック食品を探しました。でも、全部は置いていなくて、普通のスーパーをいくつかはしごして、やっと探し出せた感じでした。
それに、値段もやはり高いです。実際に自分たちで食材を揃える経験をしたことで、日本でオーガニック食材のみで食生活を整えることの難しさも実感しました」
―― 試作の前段階から苦労があったんですね。試作会で実際に調理してみて、どうでしたか。
真家:
「試作会当日は、デコさんとアシスタントの平野幸子さんにご協力いただきました。参加した生徒は8人で、家庭科の授業でマクロビについて説明し、興味のある人を募りました。
調理自体は、大きなトラブルなどはなく進めることができましたね。デコさんと平野さんが調理方法だけでなく、無駄なく野菜を使い切る切り方や素材の味を引き出す方法も教えてくれたので、学びが多かったです。
試作品で実際に調理したマクロビメニューを食べて、やっぱりすごくおいしかったし、みんなにじっくり味わってほしい、マクロビについて知ってほしい、という想いを強くしました」
―― 試作会の成功で、本番への弾みがつきましたね。
「ただ、やはり試作会と本番は作る量も時間も大きく異なるので、当日を終えるまでは不安がありました。試作会でできあがった量を目安に、200人分を計算して全体の計画を立てましたが、10人分を単純に20倍して同じような完成度になるかどうか……当日までは緊張感がありました」
期待と不安を胸に準備を進め、マクロビ昼食会本番の2月16日を迎えました。
後編では、マクロビ昼食作りの当日の様子や食事の感想、今後真家さんが学園で取り組みたいことなどについてうかがいます。
取材・執筆 川崎ちづる(ライター)