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人の活動が織りなす複雑な地域コミュニティをひもとく地理学者


森・里・海のつながりを総合的に研究する、日本財団×京都大学共同プロジェクト「RE:CONNECT(リコネクト)」。このプロジェクトは、専門分野や考え方、取り組みがユニークな研究者たちが集い、市民と一緒に調査や環境保全に取り組む「シチズンサイエンス」という考え方をもとに活動しています。今回紹介するのは、地理学の分野で地域コミュニティをテーマに研究をする清池祥野さんです。


伝統行事は地域コミュニティへの入り口

清池さんは京都大学文学部で地理学を専修し、地域における人の活動に着目し研究をしています。
卒業論文では岡山県西粟倉村への移住者と地域コミュニティとの関わりを調査しました。

一昔前の移住と言えば、実家の後継ぎや親の介護といった必要に迫られて都会から田舎に移住するケースが多くありました。
一方、清池さんの研究対象は近年増加している「田園回帰の移住者」です。田園回帰の移住者とは、自然の中で暮らすことに憧れを抱いている人や過疎地域で起業する人のように、移住を自己実現の場所としてポジティブに捉えている人たち。そのような移住者は世間で注目されながも、地域コミュニティへとの関わりについてはあまり研究がなされていませんでした。
彼らが移住することで地域コミュニティにどんな変化が生まれるのか。そこには人々のどんな意識や行動が介在しているのか。「地域行事」という観点から、移住者と古くからの住民が織りなす複雑なコミュニティをひもとく清池さんの研究が始まりました。


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子どもの頃に過ごした愛媛県南予地方の風景


地域行事に着目したのは、地域行事が地域コミュニティの縮図であるという面もありますが、清池さん自身、小学生のときに愛媛県南予地方に引っ越し、神社の行事やお祭りなどの地域行事に参加することで地域になじんだ経験があったから。当時は「移住」という認識はないものの、地域行事をきっかけに地域の一員となったという感覚を心の奥底に持ち続けていたのかもしれません。


人の意識や行動から地域コミュニティの変化を読み取る


調査地の西粟倉村は人口約1400人の小さな村。15年ほど前から移住者が増え始め、今では人口の1割以上を移住者が占める全国的に注目されている地域です。
「そんなに多くの移住者を地域コミュニティはどう取り込んでいるんだろう」と清池さんは興味をかきたてられ、この地を選びました。

調査を進めるうちに、移住者の多くは地域行事を古くからの住民との交流の場として大切に捉えていること、古くからの住民は移住者が参加してくれることに期待しつつも、仕事で参加できない移住者や地域行事を重視していない移住者がいることを受け入れ、期待しすぎていないことを清池さんは感じ取ります。適度な距離を保って参加できる「地域行事」が移住者と地域コミュニティをつなぐ、初めの一歩としての役割を果たしていました。

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調査地の西粟倉村の風景


移住者の行動が地域コミュニティに変化を与えて、古くからの住民の意識も行動をも変えていく。
移住者が始めたおしゃれなカフェが点在する西粟倉村のメインストリートを歩きながら、清池さんは移住者によって村の風景が確実に変化し、それを古くからの住民も受け入れていることを実感しました。

また、西粟倉村では新しい地域コミュニティも生まれつつありました。それは「やってみん掲示板」。役場に設置された掲示板で、誰もがやりたいことを貼り出して仲間を集えるものです。サークル活動や些細な相談ごとも貼り出されているそう。
伝統行事のように地区に縛られることなく、発案した人の行動から地域コミュニティが作られていくことに清池さんは、これからの移住者と地域コミュニティのあり方としての可能性を感じ、他の地域にも発信していきたいと考えています。


大学院ではインドネシアで地域コミュニティと災害復興の関係性について研究したいと清池さんは意気込みます。ジャカルタの低所得者層が住む地区では長年、地域コミュニティが政府の住民統治の機構として機能してきました。今も続く強固な地域コミュニティが災害後の問題解決に果たす役割をひもといていきたい。
清池さんの地域コミュニティへの興味は尽きません。


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清池祥野
京都大学 文学部地理学専修

卒業論文では「岡山県西粟倉村における移住者と地域コミュニティとの関わり」をテーマに伝統行事に参加する移住者の意識を研究しました。
RE:CONNECTでは、人工知能が画像認識できるように学習させるディープラーニングに携わっています。人工知能を活用し、浜辺や水辺のごみ画像からごみの自動識別を行う「PicSea」アプリの開発では人口知能に海洋ごみと自然物を認識させる作業を行い、アプリの開発を支えています。

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