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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 04 『トレーニング with REAL ENGINE 4』 Vol.2

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。




Chapter 24 「GIANT」


 希海から告げられた次の訓練の相手。それはなんと巨人。
 数は一体だけだが、耐久力は先ほどの虎とは五倍桁が違うらしい。これにプラスして一つ条件が与えられた。それは、相手から一度も攻撃を受けずにターゲットを撃破すること。攻撃を受けた場合は訓練中止とする。
 誰も見たことがない巨人の姿を思い浮かべながら、愛叶と沙軌は再び硬直しそうな全身の筋肉をほぐす。
 怖いけどちょっとワクワクドキドキしている愛叶。巨人に対しどう動いて攻撃をしていくかを頭の中でシミュレートしている沙軌。
 今度は低い建物を含んだ町並みが生成されていく。

 《「手強い相手に立ち向かうには連携が大切だぞ。単独での無理な攻撃はしないで、呼び掛け合って冷静にターゲットを倒せ」》

 《「出来上がったぞ。戦闘の準備をしろ」》

 《「はじめるぞ。訓練開始」》

 地を掴むどっしりとした足音が、振動として足元へと伝わってくる。緊張と共に胸元から汗が出る。
 建物オブジェクトの間から角を生やした白い巨人が顔を覗かせた。愛叶は思わず声に出してしまう。
「うわっ! 白鬼だ!」
「希海、なんで鬼なのよ……」呆れ気味に沙軌は訊き返した。

 《「知らん。今日無料で設定できるモデルがこれしかないんだよ」》

「他の有料モデルだと何があるのよ?」

 《「他には巨大昆虫、大蛇やドラゴンだな」》

「うぇ……巨人で十分だわ」

 白い鬼巨人の体長は約一八メートル。跳び上がればフィールドの天井に届きそうなほどの大きさだ。鎧を纏う姿形はフィギュアのように精巧に作られている。ゆっくりと近づく脅威に、二人は滲み出る唾を飲み込む。
「あんなにデカいと攻撃範囲が広いわ。まずは遠方から攻撃しましょ。私はチャンスができたら近接戦を仕掛けるから、愛叶は続けて遠方からの射撃をお願い!」
 沙軌は駆け出し、武器をアルカモードにして宙を舞う。
「りょーかい!」
 愛叶は鬼巨人から離れ、フレイムイーグルを構えて先制攻撃を仕掛ける。
 放たれた『オリエンス・イグニス』は、鬼巨人の腹部に弾着。しかし、大火炎弾は火花を散らすことなく、体の中に飲み込まれるように消えていった。
「へっ!? 効かないの?!」もう一度トリガーチャージを行う。
 注意が愛叶に向けられている間に、沙軌は鬼巨人がいる付近の建物の屋上に降り立った。
 チャージトリガーを四回引き、鬼巨人の背後から『クアエダム・アロー』を放つ。
 細長く鋭い光の矢は鬼巨人に命中するも、右背中の鎧部分が少し削れただけで、貫通能力のあるこの技でも深いダメージは与えられていなかった。
「えっ、マジ? もう一回放ってみるか……」
 沙軌はもう一度四回トリガーチャージを行う。鬼巨人が振り返る。
「やばいっ、こっち来る」
 鬼巨人は建物を破壊しながら沙軌に迫る。彼女は急いで機械弓を構えて、貫通風光矢クアエダム・アローを放った。同じタイミングで愛叶も『クアエダム・イグニス』を放つ。
 撃ち込まれた風の矢と貫通大炎弾は鬼巨人の右胸と左ふくらはぎを小さく貫通した。鬼巨人はよろめくも沙軌に迫り続ける。彼女は急いで建物から地上へ飛び降りた。
 鬼巨人が振り上げた左腕によって建物が破壊された。建物の瓦礫が着地後間もない沙軌の頭上に降り注ぐ。
「わっ!」
「沙軌!」
 愛叶は呼びかけながら、再度『クアエダム・イグニス』を放つ。
 技は鬼巨人の左背中に命中した。液体に変化した特殊合成樹脂が垂れ落ちていく。穴は空いたが貫通はしていない。
「希海! この巨人、二人だけで倒せるの?!」少し腹を立てた様子で愛叶は訊ねた。

 《「大丈夫。ごり押しすれば倒せるレベルだ」》

「ごり押しって……強い技を発動しても全然効いてる感じがしないよ?」

 《「バグったかな……設定通りだぞ。まぁ、こっちのほうが訓練になるからちょうどいいんじゃないのか」》

「えー……それもそうかもだね。早めに戦い方身につけたいし。よし、次は合体武器で試してみようっと」
 愛叶は左のホルスターからリトルフレイムイーグルを取り出し、銃を合体させる。
 [双声銃ツインフレイムイーグル]を完成させ、オレンジ色のチャージトリガーを四回引く。腰を深く落として肩を絞るように腕を伸ばし、アイソセレススタンスを取る。
「よし、これなら……クアエダム・イグニス!」
 アタックトリガーを引く。銃口から放たれた二連貫通大炎弾は鬼巨人の右太ももを貫通した。
「削れたよ! もう一度……」技を放ち、迫り来る鬼巨人へダメージを与える。
 そしてさらにもう一度、チャージトリガーを四回引いたそのとき、リアサイト上部の空間領域に警告文が表示された。

 【 オーバーヒートの危険:大 使用を控えてください! 】

「わっ! びっくりした!……そうだ、連発はできないんだった……えっと……」
 ツインフレイムイーグルを引き離し、二丁を左右のホルスターに戻す。その間に愛叶は建物の陰に隠れ、鬼巨人の動きを注視する。
 オリエンス・ウェントス!――瓦礫に埋もれていた沙軌は勢いよく空中へと舞い上がり、風の力で鬼巨人の足下まで移動。両足を視認できる距離で武器をランスモードに切り替えてチャージトリガーを四回引く。
「よし、これでも食らえ!!」
 鬼巨人の左アキレス腱に向かって『クアエダム・ランス』を放った。この技は近接特化型の技だが、三メートルの有効射程距離があり、離れた場所からでも攻撃を与えることができる。
 高速で渦を巻く貫通風光槍は鬼巨人の左アキレス腱部分を貫いた。破片の飛沫が上がる。
 体勢を崩した鬼巨人の両足が前後左右に動く。沙軌はその動きをよく見て回避。愛叶がいるほうへ避難した。その間に愛叶は回復したフレイムイーグルを再合体させて、『オリエンス・イグニス』を数発放つ。
 大火炎弾は鬼巨人の腰部分に命中。体の一部が溶け落ちていく。
「愛叶! また一緒に飛ぶわよ!」
「わかった! 沙軌、飛ばして!」
 愛叶のもとに戻ってきた沙軌は瞬時に『オリエンス・ウェントス』を発動。二人は高く飛び上がり、鬼巨人に向かって風を切る。
 鬼巨人と同じ高さに到達した。二人はその位置で滞空し、チャージトリガーを引いて技を放つタイミングを見計らう。
 体勢を取り戻した鬼巨人は振り向く。
 白色のはずの体が若干赤みがかかっているように見える。表情はわからないが、かなり殺気立っているのがわかる。
 鬼巨人は右腕を振り上げた。愛叶と沙軌は即座に技を放つ。
「「サウザンド・アロー! クアエダム・イグニス!」」
 火と風の高エネルギーが鬼巨人の顔面に着弾した。爆風とともに飛沫と白い煙が上がる。
 目の前は煙に包まれ、視界が一気に悪くなる。暫しの静寂が漂う中、白い左手が煙を抜けて現れる。
「きゃあ!!」
 愛叶は鬼巨人の左手の平に接触し空中から叩き落とされた。激しく建物を突き破り、フィールドの床へ聴き馴れない鈍い音を立てる。

 《「おい! 大丈夫か?!」》

 希海は慌てて呼びかける。
 愛叶はふらふらと立ち上がり、右手を振って無事を示した。
「……あー、びっくりしたー」
 敵からの攻撃を受けてしまったため、愛叶はここで訓練中止となった。フィールドから離れて控室へと戻る。
 残るは沙軌のみ。煙漂う場所から鬼巨人が視認できるところまで移動する。
 鬼巨人を見つめ、沙軌はつぶやく。
「くっそ……! こうなったらなるべく使いたくはないけど、あれでドドメを刺すしかないか……」
 グリップ下部のチェンジトリガーを引いて、武器形態をランスモードに切り替える。そして走り、現存している建物の上をつたい、鬼巨人に向かって接近していく。

 《「沙軌、条件を忘れたか?」》

「忘れてないわよ。一か八でこの技を放つのよ」チャージトリガーを四回引く。機械槍に白緑色の光が走る。
 機械槍を逆手に持ち替え、沙軌は高く飛び上がる。天井に届きそうな高さから、力強い言葉と共に――「サウザンド・ランス!」――鬼巨人めがけて光放つ槍を投げつけた。
 彼女の手から離れた光の槍は一瞬で千本の光槍となり、暴雨のごとく鬼巨人に降り注ぐ。
 破片飛沫で鬼巨人の姿が見えない。光槍が当たる音は操作室、控室にまで轟いてくる。
 ――光槍の雨が止む。靄が晴れ、人の形だった鬼巨人は原型を無くした一つの塊となっていた。
 塊は床へ崩れ落ち消滅する。
 地上へ降りた沙軌はこの様子を見て胸を撫で下ろし、ガッツポーズを取った。
「よっしゃあー!」

 《「沙軌、お疲れ。これで訓練は終わりだ」》

「ふう、お疲れ~」
 沙軌は床に落ちているランスアルカを手に取る。控室にいた愛叶が飛び出してきて彼女に駆け寄ってくる。
「沙軌お疲れ~、すごいかっこよかったよ!」
「ほんと? ヘンテコな動きじゃなかった?」
「うううん。バッチリ決まってたよ!」
「わ~うれしい~!」
 沙軌はエレミネイションスーツを脱着し、スポーツウェアのまま愛叶に抱き着いた。
「わああ! 沙軌、ちょっと汗がぁ~」

 《「おい二人とも、利用時間終了の案内が来てるから早く出て。物足りなかったら、本館のほうで訓練していけ」》

「そっか、会員証もあるし、次からそうしてみようかな。でも、一人よりみんなでトレーニングやった方がいいよね」
「だね~。芽瑠が復帰したら、四人でもできるようにシフト調整してみるよ」沙軌は愛叶から体を離した。

 A-1リアルエンジンフィールドから出た三人は同施設内に備え付けられている簡易シャワー室で汗を洗い流し、その後ロッカールームに移動した。




Chapter 24 EX 「TEST」


 私服に変着した愛叶は希海に訊ねた。
「ねえ、昨日の夜話してたテストって何? あの事件のこと?」
「違う。あたしが作成した設問リストのこと。簡単な質問に答えて心構えを試すテストだ」
「そうだったんだ。よかった~。心構えのテストか……ちなみに何問あるの?」
「全百問だ」
「へっ、ひゃくもん……それいつやるの? もう帰りの支度しちゃったけど」
「今日やる。今から南館内のカフェに移動だ」


 ◇


 > カフェ ロック・ホムホム ルート東浜辺支部南館店

 丸いウッドテーブル席に湯気と香りが立つコーヒータンブラーが二つ。愛叶が座る目の前には希海が座っている。沙軌は偶然再会した知り合いと隣のテーブル席でコーヒーを飲みながら世間話をしている。
 希海はバッグの中から10インチのタブレット端末を取り出し、馴れた手つきで操作する。
 設問リストが表示された端末とタッチペンを愛叶の目の前に置く。リストは質問と回答がマス目に記入されたごくシンプルなもの。
「回答は〇か×かで答えてくれ。〇を選ぶと青で、×を選ぶと赤で表示される。質問には正直に答えろ」
「ほぉ~……りょーかい」
「所要時間は30分とする。すぐに答えられない箇所は飛ばしてどんどん進んでけ」
「全部答えなきゃダメ?」
「なるべくそうして。準備ができたら、いいよって言ってくれ。すぐに開始する」
「…………よし、いいよ」
 希海はスマートフォンの時計アプリでタイマーを開始した。愛叶は画面を注視し、問01の回答をする。
「リザエレに志願したのは自分の意志か。そんなの自分の意志に決まってるじゃん。まーる」
「いちいち言わなくていいぞ」


 ◇


 問095:交通量の少ない赤信号の交差点でも安全が確認できれば、信号無視して渡ってもいい。


 問096:徳を積むために、良いことをしなくてはという使命感にいつも駆られてないか。


 問097:失敗することは恥である。


 問098:エレミネイションスーツ状態じゃなくても能動的に動ける。


 問099:永遠を望んでいる。


 問100:リザエレに入って良かったか。


「最後は〇です……っと、あとは入力してないところは――ないね。終わりました教官!」
「まだちょっと時間がある。見直せ」
「えー、学校のテストじゃないんだからさー、別に見直しいらなくない?」
「……じゃあ、テストは終わりだ。早くタブレット返せ」
「はいはいっ」急いでカバーをかけて希海に差し出す。
 希海はタブレットとペンを愛叶から返してもらうとすぐにバッグの中にしまった。コーヒーを飲んで一息つく。
 愛叶もフー、フー、と、熱を冷ましながらコーヒーを飲む。
 それを見た希海が一言。――猫舌か?
 愛叶はタンブラーを口から離して答える。
「えっ、そんなんじゃないよ。ぬるくてもいつもこうやってるんだけど」
「コーヒーはアイス派? ホット派?」
「へっ、どちらかといえばホット……なになに? これさっきの延長戦?」
「いや、別に。暇だから」
「暇って、沙軌もいる……まだ話ししてるね」
 希海は大きくあくびをした。
「眠いならお先に失礼しちゃおうよ」
「ダメだ。ここを出るときは入ってきた人数で出ないといけない。南館はセキュリティが厳しいんだよ」
「えー、めんどくさいね。まぁ、しょうがないのかな――」

 『ありがとうございました。また今度よろしくお願いいたします。お疲れ様でした!』

 沙軌の挨拶声が聴こえてきた。彼女は深く頭を下げて会話相手の女性を見送る。そして頭を上げて振り返り、希海と愛叶がいるところへ戻ってくる。
「ごめんごめん二人とも、つい話が長くなっちゃったわ」
「誰と話してたんだ?」希海は訊ねる。
「ルート南浜辺支部職員の人よ。今度一緒に訓練しましょうって、約束を取り付けたわ」
「南浜辺支部職員……もしかしてその人、炎を操る超人の人か?」
「そうよ。なんでわかるの?」
「南館のエントランスから見える訓練場でその人がトレーニングしてるところを見たんだよ」
「そうだったの。あの人めっちゃ強くてさ、いろいろ戦闘技を教えてくれるし訓練になるのよ」
「へー、だからスピンテール攻撃ができたのか」
「プロが戦い方を教えてくれるなら、わたしも訓練お願いしたいなー」
「残念、明日から後輩の指導で忙しいみたい。当分の間は無理かもね」
「えー……」
「ということだ。早く帰るぞ」
「ちょっと、まだ時間あるでしょ。公園行って風にでも当たらない?」
「寒いだろ……」
「いいじゃない。ささ、お姉さんに付き合いなさい!」




Chapter 25 「忍び寄る不明者」


 ルート東浜辺支部南館を出た三人は施設の裏にある、留五るい公園の海沿いの煉瓦造りの歩道を歩くことに。気温は低いが、今宵吹く風は心地いい。
 沙軌が口を開いた。
「なんか今日の訓練やったら、急にルミカのこと思い出しちゃった……早く戻って来ないかな~」
 そう感慨深く話す沙軌。希海は彼女から視線を逸した。
「今それを言わなくてもいいだろ。あいつのことなら心配すんな」
 何か気に障ってしまったのか、語調が強い。希海は沙軌に対し小さな反抗を示した。
 すかさず沙軌は言い返す。
「言わなくていいってどういうこと? 私たち以上に心配してるのはあんたじゃないの」
「それが余計なんだよ。ルミカのこと話していいのはあたしだけなんだよ」
「はぁ? 意味わかんないんですけど。大体、そういうめんどくさいところが見え隠れしているから学校で嫌われたりするのよ」
「それも余計だろ……」
「ねえねえ、やめてよ二人とも……風が怒っちゃうよ」
 そう言って二人の間に入り、口喧嘩を止める愛叶。僅かな間、風が強く吹いた。
 愛叶は希海に訊ねる。
「ねえ、それだったらいつか希海からルミカちゃんのこと話してくれない? わたし、全然知らないから知りたいよ」
「……あいつが見つかるまでは話さないからな」
 希海はそう答え、二人を置いて先を歩いていく。
「え~、それじゃあ妄想するしかないじゃん~」
 彼女らしい返事に愛叶は嘆息し、沙軌はやれやれと手を上げてため息をついた。
「言っちゃまずかったかな?」
「そんなことないよ。希海はああいう性格なんだよ。ルミカがいなくなってから態度も言葉使いも悪化してるけど、根は真面目でときにはデレデレしちゃう素直な子だよ。言い換えるならマジツンデレってやつだね」
「マジツンデレ? 初めて聞いた」
 愛叶は言葉の意味が分からなかった。
「私が今考えた言葉だから気にしないで。多分希海は、ルミカがいなくなった原因が自分にあると思っているから、自分以外の私たちに心配をして欲しくないんだろうね」
「もしかして希海、ルミカちゃんと親友なの?」
「そうらしいよ。ルミカは希海のことよく話してたし世話もしてた。そのおせっかいでたまに喧嘩になることもあったけどね」
「へえ~。写真でしか見たことないけど、ルミカちゃん、見た目通りのしっかりとした性格なんだね。そんな子がいなくなっちゃったらギスギスしちゃうよ」
 沙軌は視線を落として静かに頷いた。
「あの、その……ルミカちゃんはいつからいなくなったの?」
「ルミカと連絡が取れなくなったのは先月の下旬からよ。警察には行方不明者届を出して、私たちも聞き込みを行いながら捜したりはしてるんだけど、全く手掛かりが掴めないの。しかも、ルミカを捜そうとするたびに、ルートの二人組が私たちのところに来るんだよね」
「二人組? あの日わたしがペミィ・ペミィーの前で見た銀髪の男性と褐色肌の女性かな」
「そうそう、その二人だよ。メンバーの消息がわからない間はリザエレの活動以外はなるべく自粛してくださいって、いちいちうるさいんだよね。何のためのネオボランティア活動なのよって感じ」
「何かモヤモヤする……。まるで捜してほしくないみたいだね。ルミカちゃん、早く帰ってくるといいね」
 嫌な雰囲気を和らげるように愛叶は気を遣ったことを続けて言う。
「あ、そうだ。芽瑠の怪我、軽傷で済んだんだよね。朝連絡来てびっくりしちゃった」
「ホント、大怪我じゃなくてよかったよ。これで芽瑠もダメになったら私たち本当に解散だわ。お見舞いに行く日を空けとかないと」
「じゃあ、その時は予定合わせて一緒にお見舞いに行こうよ。みんなで行けば芽瑠も喜ぶよ」
「そうね。まずは芽瑠と相談してからだね」
 愛叶、沙軌の二人の前を歩く希海が突然足を止めた。
 下を向いている希海は何やら独り言を言っている。二人は不思議に思い近づく。
「どうしたの希海? 急に止まっちゃって」
「これを見てくれ」
 希海が見せてきたスマートフォンの画面には、黒いスーツを着た男性二人がペミィ・ペミィーの店の窓を覗き込み、第三者と連絡を取り合っている映像が映し出されている。男性の一人は金髪のミリタリーカットで、もう一人は橇込みの入った黒髪のツーブロック。とても来客とは思えない見た目だ。
「この男二人に見覚えあるか?」
「……いや、見たことないわ。やくざの人たちじゃないの? 営業妨害でもしたかしら」
 愛叶も画面を覗き見る。
「うわ、確かにそれっぽいね。ルートの人かな?」
「イアシスによれば、ルートの人間じゃないのは確からしい」
「じゃあ誰よ?」
「わからない……何か嫌な予感がする。イアシス、この映像データを警察のサイバーセキュリティ課とルートに送信して」

 《「了解です」》

「ちゃんと戸締りしてるよな? 何かあったらあたしと芽瑠が怒られるから……」

 《「ご心配なく。セキュリティは常時万全です」》

 希海は溜め息混じりに「ふぅっ……」息を吐いた。
「ということだ。あたしたち一緒にいると誰かに特定されるかもしれないから、今日はここで別れよう。明日の訓練は本館で基礎トレーニングだからな。んじゃ」
 そう言うと希海は早々と走り去って行った。
「お疲れ~希海。それじゃあ愛叶、今日はお疲れ様。明日からもよろしくね! じゃあね~」
「うん、これからもよろしく! じゃあねお疲れ様~」
 愛叶は手を振って二人を見送った後、公園を出て駅方面へと歩き出した。

 灯りや人通り、車道を走る車が多い道を通って琴球駅まで早歩きで歩く。
 その調子のまま改札を抜けて、乗り場ホームまで上がった。電車は時刻表通りに到着。愛叶は5両目の車両に乗る。
 帰宅ラッシュを過ぎていたためか、乗客はそれほど多くはなかった。
 開閉ドア近くの座席が空いていたため、愛叶は見つけるとすぐに座った。
 席に座った途端、疲労感が一気に押し寄せ、眠気が愛叶を襲う。
 太ももの上にあるキャンパスバッグに手を置き、思わず目をつむる。厚手の黒いタイツを履いているが、制服のスカートの中を覗かれないよう、足はしっかりと八の字を縮めた形にしている。
 ぼんやりと草原と城壁らしき景色が見えたところで、ぶつかる音が鳴った。手すりに頭が当たってしまい、その衝撃で目が覚めてしまったのだ。
「痛っ……危ない、寝そうだった……」
 スマートフォンを取り出し、目覚ましにニュースアプリでネットニュースを見る。

 トップ記事はこのようなものだった。

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「ふ~ん……」
 愛叶はまた目をつむってしまった。そして再び夢の世界に戻る。
 草原を駆ける動物型のロボット、巨大モンスター、巨大な城壁……。女の子が顔を覗き込んで何かを言ってる……。

 『お客さん、起きてください。終点ですよー』
 『回送電車になりまーす。電車から降りてくださーい』

「しゅうてん? かいそう?……はっ!」
 目を覚まし、愛叶は慌てて起き上がる。
「すみません、すみません、すみません!」
 起こしてくれた女性駅員さんに何度も頭を下げ、愛叶はホームへと降りていく。
 あまりの恥ずかしさにうわずる彼女はすぐにスマートフォンを取り出し、フェイスラインのコミュニティでこのことをメンバーに報告した。

 《『終点まで寝ちゃいました……』

 Saki
 》「((((;゚Д゚)))) 夜道暗いから気を付けて帰ってね……」




 お話はEPISODE05 Vol.1へと続きます。

 この度は貴重なお時間の中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

 次のお話も読んでいただけると嬉しいです! 是非よろしくお願いいたします。🙇