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リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム EPISODE 01 『RE:START↑↑↑↑』 Vol.3

はじめに

 この度は数ある記事、作品の中から本作品(「リザエレ! エレミネイション+ウィンクルム」)をお手に取っていただき、心より感謝を申し上げます。

 度々のお願いで恐縮ですが、お読みいただく際の注意事項を以下に添えさせていただきます。

 本作品は現在『note』のみで連載しております。その他のブログサイト、小説投稿サイト、イラスト投稿サイトでは連載しておりません。この作品は一部無料にて公開しているものですが、掲載されている画像、文章などは著作権フリーではありません。無断転載、コピー、加工、スクリーンショット、画面収録、AI学習はお控え頂くよう、ご理解の程よろしくお願い致します。

 この作品の物語はフィクションであり、登場する人物、場所、団体は実在のものとは一切関係ありません。また、特定の思想、信条、法律・法令に反する行為を容認・推奨・肯定するものではありません。本作には、演出上一部過激な表現が含まれております。お読みの際は、十分ご注意ください。




Chapter 06 「変着します!」


 まずは二階から――と、思ったが、階段の先には錠前がかかった扉があり、中を覗くのは難しそうだった。
 仕方なく階段を降り、店内奥へ移動。キッチンを改造して作ったアクセサリーディスプレイの両隣には、【STAFF ONLY事務室】と書かれた部屋と、人一人がちょうど入れそうなほどの狭さのトイレがあった。確認のために扉を開ける。
 トイレの中はほうきやちりとり、新しい袋に入れ替えられたゴミ箱、グレープフルーツの香りがする芳香剤など、様々な道具が整然と置かれていた。使用している形跡が見受けられないことから、普段は全く使われていないようだ。どおりで臭いが無いわけだ。愛叶はそっと扉を閉め、次は反対側の事務室の扉を開けた。
 ここも特に変わったところはなく、内装や設置されているものはごく普通だ。愛叶は期待外れといった表情をし、後ろを振り返って事務室から出ようとした。すると、靴音が床の下へと通り抜けていくような違和感があった。愛叶はもう一度床を踏んで確かめる。コツッ、コツッ、と、やはり靴音が遮を知らずに下の空間へと伝わっている。
 腰を下ろして床の表面をよく見てみると、そこには長方形に縁取られた扉のようなものがあった。大きさはトイレの扉より一回り小さい。
「これって、水とか缶詰とかを備蓄する床下収納だよね? 中に何も入ってないのかな」
 違和感を確かめるため、愛叶は半回転する取っ手に指を入れて扉を持ち上げた。
 ギィイイン――なめらかではない音を響かせながら扉を開けると、そこに備蓄品はなく、暗い空間へと続く細い階段があった。
「うわ、暗い……ここも部屋なのかな。ちょっと怖いけど、下りられるなら下りてみようっと」
 恐る恐る階段を下りていくと、暗闇の空間に突然、暖色光の明かりが灯された。
「うっ……えっ!?」
 眩しさに馴れた彼女の瞳に映る予想を上回る光景。
 おもちゃのような見た目の銃、剣、斧といった武器や各種小物アイテム、先ほど愛叶が見たリザエレの戦闘スーツが、まるで博物館の展示品ように所狭しと並べられていた。
「何ここ、すごっ!」
 まさか地下にこんなものがあるとは……見渡す限り一階と同じで狭い空間だが、一回りはできそうだ。愛叶は手前にある展示品から見学する。

 【 オリジン・システム 】

 武器の設計図とともに、現実の世界では不可能と思われる武器の変形過程を表したイラストが展示されている。
「盾から大剣、槍から弓、剣から杖、斧から銃……なるの?」

 【 ELEMINATION’s SUIT 】

「へー、あの制服そういう名前なんだ。かっこいい~」
 青、黄、緑、赤色の他に、紫、黒、白、オレンジ色のスーツも展示されていた。これは審査中と書かれている。

 【 エレメティア 】 と書かれた展示スタンドの横には、それぞれ色と微妙に形が異なる丸みを帯びた四つの時計型のアイテムが並んでいる。色は紅、青、黄、緑。そして同じガラスケース内には、四つのエレメティアとは異なる形をした二つのエレメティアも並んでいた。色は紫とオレンジ。これも審査中と書かれている。

「わあ~カラフルでかわいい~。って、あれ? 何でこれだけガラスケースから出されているんだろう」
 ガラスケースの上にはもう一つ、乱雑に置かれた状態のエレメティアがあった。ついさっき誰かが持ち出そうとして慌てて置いていったかのように見える。色は宝石のルビーのように輝く赤紫色で、形は円形。中央にディスプレイのようなものがあり、二時と八時の位置の側面には丸いボタンが付いている。これも恐らくエレメティアなのだろう。愛叶はエレメティアを手に取る。
 表裏、縦横と何度も眺めているうちに好奇心が高まり、愛叶は自分の左手首の上にエレメティアを乗せた。するとディスプレイが一瞬白く光り、何かが手首に巻き付いた感覚が走る。
「痛いっ! な、なに?……」

 《「旧臨港プロムナード南通り付近で大型のイヴィディクトが出現しています。今すぐ現場へ向かってください」》

 ディスプレイがまた白く光り、女性の声をした誰かが愛叶の頭の中で語りかけてくる。
「えっ? 誰?! っていうかそこどこ?! あれ? どうやって取るの?! 外れないぃ~!」
 必死に取り外そうとしても、強力な磁石が腕にくっついたかのようにエレメティアは固くびくともしない。

 《「私はイアシスと申します。こんごともよろしくお願い致します」》

「よ、よろしくお願い……って、これ外してよ~!」

 《「今は外すことはできません。それよりも早く現場へ向かってください。場所は琴球区、旧臨港プロムナード南通り付近です」》

「だから、どこ?! もう……!」
 外すのをあきらめ、スマートフォンを開いて地図アプリを起動。行き先を検索、確認する。
 この店から現場までは直線距離にして約一キロメートルほど離れていた。しかし地上を走るしか手段のない彼女にとってはスムーズに行ける距離ではない。
「この辺にシェアバイクってあるかな……」

 《「電動シェアバイク、キャビーのレンタルポートでしたら、このお店を出て右へ進み、二つ目の十字路を左に曲がったところのコンビニエンスストアにございます」》

「え……あ、ありがとうございます。教えてくれて……」

 《「どういたしまして」》

 愛叶は急いで階段を駆け上がり、店を出てイアシスのナビ通りに移動。残り一台しかないキャビーを借りて、彼女は現場へと急行した。


 ◇


 希海、芽瑠、沙軌の三人は連絡のあった現場に到着し、すでに駆け付けていた警察と親子を助ける作戦を話し合っていた。
 車が立ち往生している先には、体長七メートルを越える全身青灰色せいかいしょくの鎧に包まれた象――。

 #エレファント・イヴィディクト

 鎧機象――エレファント・イヴィディクトの足下には、小さな女の子とその子供の親らしき若い女性が泣きながら助けを求めうずくまっている。

「下手に刺激すれば、あの親子は潰される……我々はネゴシエーターを呼び、親子を解放してもらうよう説得する。君たちはその隙に二人を救出してくれ」
 警察の作戦プランに希海は了承する。
「わかりました。芽瑠、沙軌、二人は親子を頼む。親子を救出したらあたしは先制攻撃を仕掛ける」
「「りょーかい!」」
 芽瑠、沙軌は車の陰に隠れながらゆっくりと接近し、エレファント・イヴィディクトの死角に入る。
「もう一人いれば何とかなりそうだな。けど、あいつはまだ……」
 一人小声を呟く希海の後方から誰かを制止する声が聞こえてくる。それに気が付いた彼女は振り向く。そこにはキャビーを乗り捨て、戦闘現場まで走ってくる愛叶の姿が。
「……あいつ……まさか!」
 希海は愛叶に向かって尖り声を上げる。
「おいお前! アレを勝手に持ち出すなよ! というか早く外せ!」
「外れないんだよ~!」
「何?! ふざけるな!」
 立ち止まった愛叶に希海は近づき、彼女の左腕に付けられたエレメティアを強引に取り外そうとする。
「はぁわ、ちょっ! い、痛い~! 骨折れちゃうよ~!」
 希海は冷静になり、愛叶の腕を掴んだままエレメティアを見つめる。
「認証してる……。こんなことあり得るのか? ルートに生体情報を登録してからじゃないとこれは使えないはずだ……」
「へっ、生体情報を登録?」
「あん。登録しないと……今はそれどころじゃない。お前も変着しろ!」
「お前もしろって……、ん? わあ!」
 エレメティアから純粋な音とともに、桜色の波打つ光に包まれた古代文字が愛叶の目の前に出現する。
「ちょっと何これ……、えっ、フィアレス?」
 初めて見る文字のはずだが、なぜか愛叶には読み取れていた。
「その言葉を叫んで変着しろ!」
「えっ! でも……わたし」
 彼女たちの声にエレファント・イヴィディクトは反応し、左前足を高く上げ人質親子をさらに怖がらせる。親子は激しく泣き叫ぶ。
「はっ……」
 愛叶は静かに視線を落とした。自分もこの前まではあの親子と同じ状況だった。叫んでも誰も助けには来てくれなかった。
 あの時は忘れた――もう忘れた――終わったんだ――最終回にしたんだ。甘くて弱い、無知な昔の自分は――。
「おい、突っ立ってないで早くしろ! あの親子を助けられなくなるぞ!」
 希海の言葉に目が覚め、愛叶は気を取り戻す。再び視線を親子に向ける。
 そうだ、突っ立っている時間はない。動かなければ誰も助けることはできない。
「……わかったよ。わたし、変着します!」
 愛叶は息を大きく吸い、大胆不敵に叫ぶ。


「フィアレス!!」




Chapter 07 「フォース・ビギニング」


 叫声とともに光の古代文字はフラッシュアウトし、エレメティアから放たれた赤紫色の光が煌びやかな音を鳴り響かせて愛叶の体を包み込む。
 激しい光に目を瞑る。一瞬、冷気が体に触れる。そしてそのすぐ後、炎のように熱く、とてつもない力が全身へと伝わってくる。
 この感覚が具現化したのか、赤紫色の光の中から火炎球が噴出し、エレファント・イヴィディクトへめがけて飛んでいく。突然放たれた火炎球を避けきれず、鎧機象はよろめき後退。その隙を突いて、芽瑠と沙軌は親子を救出した。
 赤紫色の光が消えた。そこに現れたのは、恐れない勇気の炎を宿す、リザエレの制服スーツ――赤紫色の帽子、菱形の黄金に囲われた桜色のダイヤから広がる四葉の赤いリボン、黒の肩・肘プロテクター、赤紫色のジャケットの襟や胸部、腹部辺りには金色のラインが施され、その内側で黒と白のブラウスが控えめに隠れている。両手には白黒のグローブ、赤紫、金、黒のストライプウェーブ柄の膝上丈プリーツスカート、茶色いベルトを通す赤色の[E]バックル、腰に二つのレッドホルスター、赤の横線が入ったブラックフルレギンス、マゼンタ&ホワイトショートブーツ。左腕には変着アイテムのエレメティア――を、身に纏った勇木愛叶であった。
 負けるもんか、やってやる、そんな前向きな気持ちが炎のごとく燃え上がり、力となって全身に駆け巡っている。愛叶は一度深呼吸、目を見開いて、「よしっ!」と、左手で拳を握り気合を入れた。
 彼女の変着を確認後、希海は背中に背負っている青いライフル銃を無言で取り出し、芽瑠と沙軌とともにエレファント・イヴィディクトに向かって走り出していく。
 盾、槍、ライフル――彼女たち三人がそれぞれ手にしている道具を見て、愛叶はそれが自分にもないか体を触って探すも、何一つ見つからない。
「あれ、わたしの武器は? ねえ! 武器はどこにあるのー!」
 大声で訊ねてくる愛叶に、体の約半分以上はある五円形の盾を持った芽瑠が振り向き、自分の左手に付けているエレメティアを指さした。
「これ?」愛叶が訊き返すと芽瑠は大きく頷いた。
「押してみればいいのかな……」
 愛叶はエレメティアのディスプレイを人差し指でタッチしてみる。すると、彼女の体の周りにレコードほどの大きさの九つの円形ホログラム――天気、時計、メッセージ、ナイト、マップ、財布、服装、武器、設定のアイコンが現れた。
「あわわ!!」

 《「愛叶様、落ち着いてください。これはメニュー画面なので、スマートフォンと同じように手で触れて操作することができます。まずは武器を取り出してみましょう。愛叶様の武器は設定アイコンの左隣にある剣と銃が描かれたアイコンの中にあります。そこまでスワイプを行いましたら、アイコンの中へ直接手を入れてください」》

 サポートAI、イアシスが戦闘中の彼女たちの代わりに愛叶に伝える。
 愛叶は不安げに「えっ?」と反応し、アイコンに視線を戻す。
「この中に手入れるの? 平気かな……」
 戸惑いつつも、武器アイコンまでスワイプし、アイコンの中へと右手を伸ばす。
「……ん?」
 手に触れた堅い何か。岩のように固く、精巧に作られているそれは、少しだけ熱を帯びているのを感じる。愛叶はそれを掴んで引き戻した。彼女が手にしたのは光輝く赤い銃だった。
「これは……銃? なんかゲームセンターで見たことあるやつと似てる」
 本体フレームに滑空する鷲、持ち手側面グリップパネルに菱形のダイヤ彫刻が施された、愛叶の手より二回りも大きい銃には引き金トリガーが上下に二つあり、黒と白で色が分かれている。
「二つあるけど、こっちを引けば撃てるんだよね?」
 実銃と同じ位置にある黒色のトリガーに指をかけ、両手でグリップを握る。その間に戦闘エリアは彼女から遠ざかっていく。
 三人のリザエレと警察、消防隊はサイレンを鳴り響かせ、車を薙ぎ払いながら移動するエレファント・イヴィディクトの後を追う。愛叶も慌てて後を追う。
 全身にしびれる感覚が纏わりつく中、愛叶は戦闘エリアの最後尾に追いついた。目の前にいる鎧機象はさっきよりも大きく見える……。
 唾を飲み込み、警察、消防隊の車両、隊員たちの間を抜け、彼女は鎧機象の前に出る。そして銃をまっすぐ構え、
「覚悟しなさい!」
 使い古された決め台詞を吐き、黒いトリガーを引く。――しかし、引き金は一切沈み込まない。
「あれ? なんで?!」
 力強く何度もトリガーを引いていると、銃から不安を煽る音が鳴り、照門上部の空間に黄色い警告文が表示された。

 【 安全装置を外してください! 】

「わ! また文字?! 安全装置って何?! どこ?!」

 《「フレーム側面にダイヤルがあります。それを半時計周りに回してください」》

 引き続きイアシスが愛叶をサポートする。だが、彼女は周章狼狽しゅうしょうろうばい。表裏、縦横、前後を見て安全装置の場所を探している。
「おいお前! 何やってんだよ!」
 そんな愛叶に気がついた希海が怒鳴り声を浴びせ駆け寄ってきた。
 希海は愛叶の肩を強く引っ張り、物陰へと連れていく。
 彼女から武器を取り上げ、慣れた手つきで銃のフレーム側面にあるダイヤルを回し、安全装置を外す。黒色ではなく白色のトリガーを二回引いた。
「これはこうして、白いトリガーを引いてチャージしてからじゃないと撃つことができないんだよ」
「そうなの? 先に言ってよ~」
「むかっ……で、こういうかっこいい音が鳴っている状態になったら、ここに浮かんでいる文字を叫ぶ。やってみ」
「う、うん」
 両手で構えた銃をエレファント・イヴィディクトに向け、愛叶は希海に言われたとおり、照門上部の空間に表示されている文字を叫ぶ。
「オリエンス・イグニス!」
 言葉を言い放った瞬間、銃口から即座に炎を纏う弾が発射された。
 籠球ろうきゅうほどの大きさの火炎弾は反時計回りに回転しながら、巨体めがけて飛んでいく。
 火炎弾は見事エレファント・イヴィディクトの左後ろ脚部に当たり、花火のような火の粉を散らせたあと、分厚い鋼鉄の足具を粉砕させて体勢を崩させる。それほどの威力のためか、愛叶もバランスを崩し地面に倒れ込んでしまった。
「う、痛っ……何これ……」
「威力のある技には反動があるから気をつけろよ」
 希海はそう言いながら、自分の武器である青いライフル銃の黒いトリガーを引き、チャージも言葉を発しないで技を放った。
 ということはいちいち叫ばなくても攻撃ができるようだ。そのことに気がついた愛叶は希海を見ながら唇を尖らし、眉根を寄せた。
「もう……!」
 愛叶は立ち上がり、空に向けて白いトリガーを引かずに黒色のトリガーを一回引く。放たれた野球ボールほどの小さな火炎弾はさっきとは違いあまり反動はない。
 体勢を整えたエレファント・イヴィディクトは雄叫びを上げて逆上。長い牙を左右に振り回し、木や電灯をなぎ倒し、ガードレール、車を次々に破壊していく。
 エレファント・イヴィディクトの左真横にいた沙軌は寸前のところで振り回される牙を回避し、即座にエメラルド色の矢を放つ。
 芽瑠は目前に倒れてくる電灯を盾で防ぎ、薙ぎ払う。そしてエレファント・イヴィディクトに琥珀色に光る盾を投げつけて攻撃。盾はその後、物理法則を無視した軌道を描いて彼女の手元へと戻ってくる。
 希海が持つ青いライフル銃からは連続してアクアマリン色の光弾が発射されている。彼女の後方で愛叶は反動のない技で攻撃する。
 巨体のイヴィディクトを食い止めるために戦う彼女たち。その姿はまるでマンモスを狩る太古の人間のようにも見える。

 《「あと五分でルートの特殊部隊が出動いたします。皆様、早急に無力化を行ってください」》

 イアシスが四人に呼びかける。
「わかってる! デカいから倒すのが難しいんだよ!」
「ねえ希海! ウチらの技を同時当てしたら倒れるんじゃないかな!」芽瑠が問いかける。
「そうしてみるか。おい、マゼンタ! お前もさっきの重い技を撃て!」
「え! さ、さっきの?!」
「ああ、全員並んで武器を構えろ!」
 希海の指示で彼女たちは横一列に立ち並び、沙軌は弓から槍に、芽瑠は盾から大剣へ形態を変形させ、武器に力を溜める。
 希海と愛叶は沙軌と芽瑠の間にて、それぞれ銃を構える。
 振り返った鎧機象は足を引きずりながら雄叫びを上げ、四人に迫ってくる。
「――放て!」
 希海が合図を出した。彼女たちは一斉に技を放った。

「オリエンス・ランス!」
「オリエンス・ラッシュ!」
「オリエンス・アクア!」
「オリエンス・イグニス!」

 風光槍、地光波刃、水光大流弾、大火炎弾は彼女たちの直前で一つに収束し、虹色の光のエネルギーとなって鎧機象の頭部へと命中した。
 これまで感じたことのない振動と煌びやかな音が体に鳴り伝わるのとともに、エレファント・イヴィディクトは吹き飛ぶ。
 巨体は地面に落下し道路を揺らす。そして地を滑る音を轟かせる。
 鎧機象――エレファント・イヴィディクトは前足後足を空へ向け動きを止めた。
 この戦いを近くで見守っていた人々からはどよめきと拍手の手が上がった。

「……ふう、終わったな」
 希海は青いライフル銃を背中に背負う。
「一件落着だね……」
 芽瑠も大剣から盾に戻した武器を背中に背負って地面に崩れる。
「何とかなったわね……。あー、疲れた~……」
 沙軌は槍を持ったまま地面にお尻を付けた。
「えっ、これで終わり?」
 そう問いかける愛叶は重たい技の反動に耐えていた。
 倒れた鎧機象は徐々に人間の姿に戻っていく。裸の男性が道路の上で倒れている。
 武器を手に持ったまま、愛叶は容体を確かめようと男性に近づこうとした。しかしすぐ希海に引き留められてしまう。
「おい、近寄るな。あとは警察とかが何とかするから。みんな、変な虫が来る前にさっさと退散するぞ」
 希海はこの場所から離れるよう呼びかけた。
「了解、風吹かすわよ! オリエンス・ウェントス!」
 沙軌が武器のトリガーを引かずに言葉を言い放つと、緑光りょくこうの風が発生した。風は一定の周波数を鳴らして髪の毛、制服を靡かせ四人の体に纏わりつく。体が羽のように軽くなった。
「うああっ! 浮いてるよ~!」
「愛叶、ウチに掴まって!」
 芽瑠は右手を差し出す。
「う、うん!」
 愛叶は芽瑠の右手を力強く掴んだ。
「準備完了ね。そしたら思いっきり空気を蹴ってジャンプよ! いっせーのっせ!」
 沙軌の掛け声で彼女たちは一斉に空気を蹴り、茜空へと舞い上がる。そして鳥のように空を駆けていった。




Chapter 08 「脱着」


 光り賑わうアーケード商店街の路地裏に四人はゆっくりと着地する。
 姿勢を正した愛叶は一息し、ふと見上げる。いつの間にか空は紺色に変わり、明るく星を輝かせていた。
 希海、沙軌、芽瑠はリザエレの制服を脱着だっちゃくし、私服の姿に戻る。三人が一瞬で着替えられたのを見て、愛叶は腕を表裏に動かして尋ねる。
「これ、どうやって私服に戻るの?」
「エレメティアの両側面にボタンがあるでしょ? そこを同時に押してみて」
 赤い銃を右手から左手に持ち、愛叶は芽瑠の指示通り二つのボタンを同時に押す。
 虹光に包まれると、全身にかかっていた湧きあがる力が外れて、突き刺してくるような冷たい風が吹いてくる。
 目の前にいる沙軌と芽瑠は表情を固めた。
「あれ、なんかスースーする。汗かいたからかな……はぅ?!」
 愛叶は自分の体に視線を向ける。


 きゃあああああああああああああ!!


「ごめん!! 言い忘れてた!」
 沙軌はひざまずき、何度も頭を下げて愛叶に謝罪をする。しかし、インナー姿となってしまった彼女は寒さと恥ずかしさで震えていてそれどころではない。
「あわ……あわわ……さ、さぶい……よ~!……」
 白い吐息が上がり、小刻みに身体が震え呼吸が浅くなる。
 芽瑠は自分の上着を脱ぎ、愛叶の体を包み隠すようにコートを掛けてあげた。
「エレメティアに服を登録しないで変着すると、登録されていない服は消滅しちゃうんだよ」
「うう~、ざきに、い、言っでよ~……」
 芽瑠の説明を聞き、泣きそうな表情で応える愛叶。
 元はと言えば彼女が悪い。地下室からエレメティアを持ち出さなければこんな目に遭うはずもなかった。それなのに……。希海は心の中でそう思いつつ、やれやれと手を上げた。
「おい、とりあえず変着しとけ。エレミネイションスーツ状態でいれば暖かいから」
「へ、そ、そうなの……?」
「風邪引かないためにはそうするしかないだろ。ほら、早くしろ」
「……そ、そうだね……で、でもどうやって、変着するの?」
「右手の人差し指と中指を、その時計の画面の上に置いてみ」
「人差し指と中指……」
 エレメティアの画面を二本の指でタッチすると、桜色の光りに包まれた古代の文字が愛叶の目の前の空間上に浮かび上がった。芽瑠に上着を返し、愛叶は再び変着した。外気との気温差により体から湯気が出た。
「ふう……暖かい……」
「そのままだと家に帰れないから、ペミィ・ペミィーに戻って愛叶の服を選ぼうか」
 コートの両袖に腕を通した芽瑠は一つ提案を持ちかける。愛叶は不安げに訊き返す。
「服買うお金持ってないよ?」
「心配しないで♪ タダであげるから」
「へっ、タダで? いいの?!」
「うん。困っている人がいたら助けてあげなさいって、ママから言われてるから」
「ありがとう~芽瑠ちゃ~ん!」
 愛叶は嬉しさのあまり芽瑠に抱き着いた。その直後、スマートフォンのパルスアラームが鳴り響いた。
「わっ!」
 沙軌が慌てて立ち上がり、上着のポケットからIタイプのスマートフォンを取り出す。
「私この後バイトだった! みんなお疲れ、じゃあね!」
 沙軌はそう言って早々と走り去っていった。芽瑠と希海は彼女を見送ったあと、私服からエレミネイションスーツに変着した。
「それじゃあ行くか」
「え? 何で二人とも変着したの?」
「何でって、お前、ペミィ・ペミィーの場所知らないだろ?」
「うん。ペミィ・ペミィーってどこ?」
「はぁあ……」希海はため息を吐いた。
「愛叶、さっきの店のところだよ」芽瑠が親切に言う。
「そうなの? あそこまで距離ありそうだけど……」
「この辺は低い建物ばかりだから、〝とんで〟移動する」
「とんで? 沙軌さんバイトに行ったよね?」
「ちょっと軽くジャンプしてみ」
「え、ジャンプ?」
 愛叶は小さく跳躍した。すると僅かな間、ジャンピングボードを蹴った時と同じように体が宙に浮かんだ。
「あれ?! 軽い! とぶって、跳ねるの方か!」
「空飛ぶ力が使えないときは、低い建物の屋上に登って移動する」
 希海は両足で跳躍し、アパートの屋上に登った。
「ほら、早く来い。登るときあまり力を入れすぎないようにな」
「分かった。よし……いきまおりっやああああわわわ!」
 力み過ぎない程度にジャンプしたはずだが、予想以上に跳ね上がってしまい、慌てて腕や脚を動かす愛叶。希海は跳んで彼女の腕を掴み、屋上へと着地させる。
「あのな、言ったばっかりだろ……」
「えへへ……はじめてだから大目に見てよ~」
 純真さで返してくる愛叶。希海はまた溜め息を吐き、彼女を置いて先に行ってしまった。
「え、ちょっと待ってよ~!」
「愛叶、ウチについてきて!」
 屋上にあがってきた芽瑠は愛叶にそう呼びかけ、希海が進んだ方向へと走り出していく。
「あ、うん! 道案内よろしくね!」
 愛叶は芽瑠とともに、夜の街を駆ける。




 お話はEPISODE01 Vol.4へと続きます。

 貴重なお時間の中、最後までお読みいただきありがとうございました!✨

 続きも読んでもらえると嬉しいです!😊