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コロナ明け3

・・・てはまだいない。

《平日にランチしよう》

お互い主婦同士であるY子ちゃんとの久しぶりの再会は、子供たちが学校へ行っている間に2人だけでということになりました。

Y子ちゃんの家と私の住まいとは、46km離れています。

〈じゃあさ、Y子ちゃん家の隣市にある大きなショッピングモールでランチしない?〉

私の家から38km離れたその施設は、飲食店、アパレル、ホームセンター、ペットショップなどありとあらゆるお店が入った、ご家族でも友達同士でも1日中楽しめるとても充実した場所。そこで、久しぶりのY子ちゃんとショッピングを楽しんだり、食事したり、お茶したり…と想像しただけで今からとてもワクワクしてきました。

《そうだね》

と返事をくれたY子ちゃんから数日後、

《駅の近くにショッピングセンターあるの分かる?》

というメッセージが届きました。

私はそちらには行ったことがなかったので、地図アプリで場所を確認すると、我が家からもう少しY子ちゃんの家の近くにある複数店舗が集まる商業施設のようでした。

〈ん〜、私は行ったことが無い場所だな〜。どうして?〉

すると、少し時間が経ってから

《あのね、多分ショッピングモールまでは行っちゃダメって言われると思うの…》

え?

私は目を疑いました。

お互いにもういい年をした大人の女性です。

誰に?と訊こうと思いましたが、その前に

〈ショッピングセンターに行くって言って、ショッピングモールまで来ちゃえばいいんじゃん?〉

の私の問いに

《それが出来たら良いんだけどね…》

の答え。

・・・もしかして

〈ねぇ、GPSアプリとか携帯に入れられてるの?〉

と私は訊いてみずにはいられませんでした。

《そこまでは無いけど、車にドライブレコーダーが付いてるからね〜》

〈私の車にも付いてるけど、事故があった時に確認する為の物じゃない?毎回確認する?〉

《何かあったらねぇ》

何かあったら・・・。

そりゃあ、車を運転していればいつ何時思いがけない事故に遭遇することもあるでしょう。

しかし、それを心配するならば、家から8km離れたショッピングモールへ行くY子ちゃんよりも、家から38km離れた距離を運転する私の方が確率は高い訳で。家族が心配するからY子家から5kmのショッピングセンターに変更して、私に43kmの運転をして来て欲しい。と言われたのです。

家から5kmのショッピングセンターまでの行き来だったら、ぜっっったいに事故に遭わないのか?

私にだって、万一の事故に遭ったら心配してくれる家族はいるんですけど・・・。

〈Y子ちゃんの最寄り駅って何線?〉

私はアホらしくなって、車ではなく電車で会いに行くと伝えました。

《家の近くの駅は○○線なんだけど、不便だから少し離れた○○駅まで車で行って○○線を使ってるよ》

だとすると、ほぼ全ての線が乗り入れる県内最大の停車駅が我が家とY子ちゃんのちょうど中間。

〈Y子ちゃん、平日の昼間に電車で出てくることなんて無理だよね?〉

我が家からY子ちゃん家の最寄り駅までは、線を3本乗り継がなくてはならないので、Y子ちゃんに中間駅まで来てもらえると助かるのですが・・・

《大丈夫だよ》

ヤッター!

中間駅は県内最大の繁華街。駅ナカも充実し、駅直結のデパートに駅ビル、ラジオブース、お笑いの劇場と県民憧れの街です。

高校時代、私とY子ちゃんはお笑いライブ仲間でした。

当時は❝ボキャブラ天国❞というお笑い芸人が多数出演する人気番組で、空前のお笑いブーム。

小さな劇場に2人で足繁く通い、ステージ上で喋るネプチューン名倉さんの飛沫を浴びたり(笑)、ビビる大木さんを出待ちして絡んでもらったり、Take2のお二人が別々に出てきて、コートの衿を立ててひっそりと帰っていく東さんの背中に「がんばって」と応援したりしました(笑)

〈ね〜、ね〜、Y子ちゃん。どうせ中間駅まで出てきてくれるんならさ〜、一緒にお笑いライブ観ない?〉

20年も前の青春時代、共に笑いあったお笑いライブをもう1度2人で。

劇場の公演スケジュールをチェックしたY子ちゃんから

《でも、昼公演は土日祝だけなんだよね〜》

という返事が。

確かに、主婦には土日祝など無い。

もっと言えば、仕事や学校が無い分朝食の用意、昼食の用意、掃除、洗濯、夕食作りを考えれば土日祝の方が主婦には仕事が多い。

しかし、20年越しの友人とのランチ位、休みの日に家族で母親の代わりに家事を分担してくれたっていいでは無いか?

〈旦那さんかお義母さんにさぁ、20年来の友達との久しぶりのランチだから、土日祝の昼間にお笑いライブか、3km離れたショッピングモールかどちらか1人で行かせて欲しいって頼んでみなよ〉

とけしかけてみた。

話の分かるご家族ならきっと、たまの休みの日位、1日ゆっくりしておいでと言ってくれる筈だ。

《ん〜、土日は子供たちの習い事があるんだよね〜》

《ショッピングモールまでの運転をお願いしてみようかな〜》

Y子ちゃんの子供たちは高校生と中学生だ。

もう‘小さい子’という程の年齢では無いので、習い事と言っても親が必要なのは送り迎えくらいだろう。

その送り迎えでさえも、Y子ちゃんは家族に代わって貰えないのだ。

愛情。

束縛。

奴隷。

メッセージアプリから伝わるY子ちゃんの状況に怖ろしさを感じつつ、私は好き勝手にさせて貰えている自分の主人への感謝の気持ちで体中に鳥肌が立った。

とりあえず今回は、中間駅で美味しいものをたくさん食べようということとなった。

会うのは春休みが明け、子供たちの通常授業が始まってからということに。

Y子ちゃんとの対面早々、私は泣いてしまうのではないかと自分の情緒が心配である。

[コロナ明け4 へつづく]


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