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あちらにいる鬼

映画が好きです。

思いがけずバイト先からお休みを頂いたので、朝からウキウキして最寄りの映画館の上映スケジュールをチェックしてみた。

観ようと思っていた人気ドラマの劇場版は、もう夕方の時間帯のみの上映となってしまっていた。

私は、映画の上映期間は「生もの」だと思っている。

注目作品は、上映開始時には日に何本も上映があるが徐々に本数が少なくなってしまう。現に、つい先日公開されたと思った人気ドラマの劇場版は、もう夕方のみの上映しか無くなってしまった。私の今のウキウキは、とても夕方まで保ちそうが無いので断念する。残念。

ん〜・・・となると、次に私が興味のあるものは・・・。

ということで、瀬戸内寂聴さんをモデルにした『あちらにいる鬼』を観ることにした。この映画の公開に先駆けたCS放送の瀬戸内寂聴さんのドキュメンタリーを見て、興味が湧いた。
 なので、この先の映画の感想は寂聴さんの史実が混じったものとなっています。

寂聴さんは、昨年の11月9日に99歳でお亡くなりになられました。
 ズバリ言うわよの人は、まだお元気でズバリ言ってらした頃、「私は150歳まで生きます。けどそれじゃあ悪いから50年は神様にお返しして、100歳で死にます。」とおっしゃってましたが、それより前にお亡くなりになられました。やはり自分で自分の寿命は決められないのですね。

寂聴さん(三谷晴美)は、20歳でお見合い結婚し、娘さんを出産し、その子が3つの時に旦那様の教え子と恋に落ち駆落ちします。
 その後、小説家となった晴美は同業の白木(仮)と男女の仲になり、駆け落ちした教え子との三角関係の辺りから『あちらにいる鬼』の物語は始まります。

寂聴さんは、生前100冊近くの小説を手筆し、その世界では有名な女流作家でした。
 ご自分でお金を稼ぎ、自立した生活を送っていました。そこへ元教え子が転がりこんだり、白木がふらりと現れたり。

つまり、早い話が晴美は都合の良い女です。

白木には奥さんも子供もいます。しかし、晴美は白木に「奥さんと別れて」等と面倒臭いことは言いません。

晴美は、ただ恋の甘いところだけが好きなのです。欲しいのです。

白木と一緒に暮らしたい。白木の子供が欲しい等とは思っていないのです。

一方の白木は、小説家として名の知られた大作家ではございますが、あちこちで女に手を出すサイテー野郎です。物語では豊川悦司さんが演じているので、「まぁ、そうか・・・」と渋々納得しますが、世の中に妻子がありながら、女の人に不自由しないなんて男の人、そうそういるかな〜👀。
そんなに世の女の人は男を見る目が無いかな〜👀。

ん〜・・・テクが凄い?

いやいや、それってもう寝てますやん!
コロッとやられちゃってますやん!

やはり大作家という肩書と才能ゆえのモテなのでしょう。

白木は、4つ上の自立した晴美の元へただ甘えに行き、晴美は寂しさと欲情からそんな白木をただただ甘やかした。

そんな生活が7年続きます。

そして、この物語のもう1人の主人公、広末涼子さん演じる白木の奥さんでございます。もー、本当にこの奥さまは偉い!良く耐えた!何も言わず、白木を責めず、ワンオペ育児で娘さん2人を良く育てました!偉い!
 しかし、昔は主人が外でどんなに悪さをしても、お金さえ入れてくれるなら夫は居ないものと思って2人の子供と仲睦まじく生活していけるかもしれませんが、今は旦那さんの収入だけで専業主婦の奥さんと2人の子供を育てるなんてキビシイ時代。自ずと奥さんも家計を助ける為に勤めに出るとなりますと、外で女を作る旦那さんなんか奥さんの方から三行半突付けて即離婚!でございますわよね〜。陰で耐えてなんかいられるかい!

結局、女が自立してしまうと男は甘えてダメになってしまうのか・・・。
 
いや、男の人は永遠に弱く儚い女性像を理想と追い求めているのか・・・。

ですが、晴美は晴美で白木以外にも知り合った若い男の子と体の関係をもったりもしました。

そうです、7年の恋愛の期間の終わりを感じていたのです。

しかし、会えば求めてしまうし、心も体も惹かれあってしまう。

晴美は、白木の家庭を壊すつもり等なかった。「奥さんと別れて」と言葉をぶつけることも無かった。
 しかし、白木の不倫相手は自分1人だけ、他の女の機嫌を取る白木を許せなかった。

寂聴さんは生前、「恋は自分じゃどうにもならないの。ある日突然雷に討たれたみたいにビビビとなって、その人しか見えなくなる。」と言っていました。そんな雷に討たれた人と肌を重ねて、その温もりだけで満足出来るなんて日は限界があるのでしょう。

「この関係を終わらせるには、白木が事故にでも合って死ぬか、私が・・・。」晴美は、それ程思い詰めた末に「出家します。」と決意します。

「出家って生きたまま死ぬことでしょう」

そして、晴美は剃毛し出家しますが、その初日に白木は奥さんに言われて出家寺を訪れます。そして、奥さんに「ビジネスホテルに泊まって明日帰る」と嘘を付き、晴美の出家寺の1室に泊まるのです。
 しかし、その夜晴美は白木の泊まる部屋へ毛布を被って現れます。「来ちゃ駄目じゃないか」と白木に諭されると「あなたが泣いてる気がしたから・・・」。
この二人を見た時、姉弟のようだと思いました。
赤の他人だから肉体関係を持ったけれど、魂同士がこんなにも結びついていたのだと。だから晴美は苦しかったんだと・・・。

出家すると、僧侶は戒律と言うものを厳守しなければなりません。
・肉、魚を食べない(殺生をしない)
・酒を飲まない
・刺激物を食べない
・色情を捨てる
宗派によって内容は異なるようですが、寂聴さんは「セックスをしない」事のみ厳守し出家されたようです。
 なので、寂聴さんのドキュメンタリーを見ると、大好きな肉は食べるし、お酒もガブガブ飲んでいました(笑)。

出家後、晴美は白木の家へ遊びに行き、奥さんとも良好な関係を築きます。
 それはそうですよね。出家した人に嫉妬しても仕方が無いですから。

そして、奥さんと二人で白木を看取りました。

99歳まで生きた寂聴さんは、たくさんの大切な人たちの最期を見送ってきたのだと思います。1人残されて、最期の最期まで自分を貫いた本当に強い人だと思います。

寂聴さんは生前の説法で繰り返し「どんなに愛した人とでも一緒に死ぬことはできないの。人はみんな死ぬ時は1人、たった1人きりであの世へ行くんですよ。」と言っていました。
 
だから、生のあるうちに人を愛して愛して愛し抜いて、悔いを残さぬように。

・・・寂聴先生、そういうことなのでしょうか?

最後に、この作品は寂聴さんが情愛を注いだ白木(仮)の長女が書いた小説が映画化されたものです。当時はまだ幼かった娘さんが父親と母親と不倫相手の晴美の3人を傍で見ながら育ち、大人になってその不可解な関係を書き綴られたのでしょう。機会があったら小説の方も読んでみたいと思います。


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