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母のタッパー

年齢のせいかたまに、急に感傷的になることがある。

すごく久しぶりに、母がセリの白和えを作ったと言って、お裾分けをくれた。
"それ"の入った300mlくらいのタッパーは、見るからに洗い方も不十分で、言ってはなんだが、『お母さんっぽい』。

顔を見せれば、人様世間様の愚痴から始まり、話が止まらない母が、私はとても苦手で、なるべく長い時間一緒にいたくない。
私の思いを知ってか知らずか、母は車で5分程度のところに(80を幾つか過ぎた)一人で生活していて、あれこれ用事があると呼ばれる。
少しずつ、動きがおぼつかなくなっていくのが、毎日一緒にいないからこそ分かる。

そんな母が、久しぶりに、私が好きだからと白和えを作ってくれた。
味がね…薄かったんだ。たまたまかもしれないけど。

料理が好きで、いろいろと創作したりしては、友人にお裾分けする母。友人からの反応を『〇〇さんから、どうやったらこんなに美味しく作れるかって聞かれた』『こんな美味しいのは初めてだって言われた』と、それはそれは嬉しそうに話す。

そんな時、私は別の頭で、タッパーに入れてるのかな…タッパーかな…と、おせっかいな心配をしてあげる。

幼い頃の狭い台所の記憶。
兄がよく、洗ってカゴに伏せてある食器を手にしては、『まだきちんと落ちてないじゃないか』と小姑のようなことをボヤいていた。
私も右に同じ意見だったが、幼いながら手伝っていた私は、自分の作業かも…とちょっと後ろめたかった。

母の言い訳を私がするのもおかしな話だけど、私の父は病気がちで、その分、母は忙しかった。子どもながらにバタバタと家事をしてはパートに出て行く母を"助けなきゃ"と思っていた。その頃母が座ってゆっくりお茶をしている姿なぞ、見た事がない。(追記:今は座ってお茶してばかりだけど)

母はずっと忙しかった。
そして今は歳を重ねて、手の力が落ちたんだ。

きっと彼女が、ピカピカにタッパーを磨き上げる事はこれから先もないだろうと思う。

タッパーは薄汚れているけど、母にはまだまだ楽しく料理はして欲しいかな。出来ればジップロックの"袋の方"が良いかな…今度さりげなく提案しよう。

そんなことを考えながら白和えの入っていたタッパーを洗っていたら、ちょっと涙が出てきた。

塩分で油膜が落ちてくれるかもしれない。

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