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頑ななまでにいなくなる準備を怠らない人を好きになった。今日という日の延長線上に明日がない世界線で暮らす人だから、一瞬一瞬がちいさな喜びに満ちていて、その幸福な視界に僕の気持ちが入り込む余白はなかった。

葬儀の日、あの人の視ていた世界がムービーで流れた。白くフォーカスのかかる風景の中で、ぎこちない表情でこちらを見つめているのは、いつも僕だった。
穏やかに明滅しては柔らかに霧散していく物語は、ひと昔前に流行った箱庭風の映画のようで、倖せと感動にあふれていて、けれど滑稽で残酷だった。自身のことしか眼中になく、周囲の欺瞞に満ちた思惑すら優しさなのだと思い込もうとする様子はまるで盲信めいており、ある種の救いがたさが苦味となって口腔内に拡がった。

入道雲にすらなれずに青空に消えていくあの人を見上げたら、ことばが一つ滑り出した。
「ざまあみろ」
これでよかった。同じ道を行かずに済んだ。僕にはもっと素晴らしい場所が待っている。そこには僕を理解して支えてくれるパートナーもきっといるはず。だから。
「さよなら」

これでいい。これでいいんだ。

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