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山へ鳥を観に妻と

 電車で1時間ほどかけて、山に野鳥を観に行くことにした。いつも通り一人で行こうと
していると、妻もほんの少し興味をもってくれていたようで、一緒に来たいといってく
れた。もちろん。と返事をしつつも、わざわざ来てもらって、楽しんでもらえなかったらどうしよう、と勝手にツアーガイドになったような不安な気持ちになったりもした。でも
深く考えずに、純粋に野鳥観察やハイキングを二人で楽しみたいと思った。

 そんなに大きな山ではない。それでも、自分たちの足で一歩一歩登ることで、とても大
きなものに感じられる。少し開けた場所に出ると、眼下にたくさんの木々を見下ろせた。離れた木のてっぺんに、ヒヨドリが止まる。ヒヨドリの鳴き声は本当によく響く。たった一羽の声が、山全体に響いているようだ。頑張って大声を出しているようには感じられないのに、山が静かだからか、空気が澄んでいるからか、声がスーッと通る。他のヒヨドリたちと会話をしているようだった。あんなに体が小さいのに、まるで森を支配しているみたい。一歩一歩踏みしめることで、山の大きさ、森の奥行きを感じていただけに、驚いた。ここでは、鳥たちが独自のネットワークを張り巡らしている。

 少し進むと、崖を下るための大きく曲がった道にさしかかった。崖の木はまばらで、光
が差し込んでいた。ウグイスのみずみずしくて透き通った鳴き声を聞きながら、思わ
ず足を止める。2、3羽のヒヨドリが「ビイィィ」と鳴きながら現れた。ヒヨドリが先陣を切った後、安全確認が済んだためか、メジロが10羽くらい、エナガが10羽くらい、コゲラが3羽くらい、どこからか一気に飛び出してきた。メジロは緑の葉に紛れながら木の実をつつく。エナガは芽を摘むためか枯れ木にも止まる。コゲラは枯れ木の幹を登りながら、コンコンコンと高いようで鈍い音で幹をつついた。 キツツキを見て、妻は驚いていた。5分くらいだろうか、僕らがじっと観ている間、彼らは鳴き声をあげながら騒がしく暴れまわっていた。やがて、別の人たちが話しながらこちらに近づいてきた。それに気が付いたためか、食事が終わったからなのか、大群はスッとどこかに消えていった。一瞬で静けさが戻り、またみずみずしいウグイスの鳴き声だけが響き渡った。まるで嵐が通り過ぎたようだった。

ヒヨドリ
メジロ
エナガ
コゲラ


 動かず黙って観ていれば、彼らの自由な姿をずっと観させてもらえる。そんなような気がして、うれしかった。不思議な時間だった。小鳥たちが縦横無尽に動き回る様子を観て、仕事で疲れていた妻は、元気を取り戻していたようだった。生き物たちは、エネル
ギーを与えてくれる。遠出して体は疲れたけれど、都会で観られる以上に生き物たちの
自然な瞬間を観られたこと、妻と一緒に時間を過ごせたこと、妻もそれを良かったと思
ってくれたこと、そういった感覚を共有することができたこと、すべてが幸せに感じら
れた。

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