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ふとした瞬間に思い出す,そんな出会いが素敵だと思うのです.

”読書の秋”と言いますが,そんな秋が過ぎ去った11月頃から一気に読書欲に襲われまして,読み途中だった本も合わせて約2か月で10冊近く読んできました.
こんな経験は過去になく,今となっては何がきっかけでこんなに読むようになったのか思い出せませんが,なかなか強烈で濃厚な2か月でありました.
しかも,この期間で読んだ本たちは全て紙の本であり,ここ数年Kindleの素晴らしさに陶酔していた僕にとって,良い”古き良き”を味わえた2か月でもあります.

そんな2か月を過ごし,たくさん本を読んできたわけでありますが,その中で,ふとした瞬間に思い出すほど記憶に残った本の話をします.
バイト先の近くの小さい本屋さんに立ち寄った時に面陳列されていて,次の週にもう一度その本屋さんに行ったときには棚差しすらされていなかったまさに一期一会な本です.




『Forget it Not』阿部大樹(作品社)

忘れてしまったら記録もされず消えていくばかりのことが案外あるもので、せめていつか思い出せるようにとこれまで文章を書いてきました。

「はじめに」より

精神科医であり翻訳家である阿部大樹さんの,論文・エッセイ集です.
過去に書いた論文やエッセイを集め,それぞれに今の視点から振り返る「あとがき」を書き下ろした本になります.
論文と言ってもよくある専門的で難しいといった印象はなく,確かにアカデミックでありながら,さらっとストレスなく読めてしまう文体です.
その文体と,行間を詰めすぎず余白を十分に空けたデザインが相まって,どこか儚い印象を与えてくる稀有な本でした.

そして,冒頭に引用した「はじめに」の文章の影響か,自分が今まで書いてきたnoteとは何だったのかを考えながら読むという不思議な体験をしました.
この本で阿部大樹さんがしているように,自分の過去記事を再度読んで「あとがき」をしてみるのも良いのかもしれないと考えながら,しかしそれは今ではなく,もう少し時間が経ってからの方が良いのかもしれないとも考えてしまう,二律背反的思考がとても気持ち良く感じた記憶があります.
それ以降アンチノミーに陥った際にこの本を思い出してしまいます.

電車の車窓から差し込む優し気な冬の日差しと暖房の利いた暖かい空気,下車すれば現実を思い出させる寒い空気となおも優し気な冬の日差しで,何とも言えない浮遊感を感じながら読んでいたことも,この本を思い出してしまう一因かもしれません.
特に各駅停車の端の車両に乗っているとき,乗客が自分含めて2,3人しかいない車両に乗っているときの雰囲気は,認識できていなかった"forget it not"を五感で知覚させるものがあります.
各停という遅さがまた思考を遅くさせ,気づけていなかった細部を気づかせてくれます.
そんな今まで感じていながら認識できていなかったことを,この本は教えてくれた気がします.
それも含めて,気候が穏やかな日は思い出す本です.




みなさんが今まで読んできた本の中で,読み切ってからしばらく経ってもふとした瞬間に思い出してしまう本はありますか.
きっとその本は,人生のバイブルになるわけでもなく,大事な場面で助けてくれるわけでもないかもしれません.
それでも思い出してしまう本は,友達に勧めても分かり合えないものかもしれません.
それでも僕は大事にしたいし,みなさんも大事にしていきませんか.
いつの間にか心の片隅にいる本に,みなさんが出会えますように.

僕の生活の一部になります。